Want to be a hero
君とのお別れが寂しくならないように
僕は精一杯、笑顔を作った。
父があの時僕に向けたのと、同じような笑顔を。
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幼い頃父親が死んだ。
車に轢かれそうになった俺を助けようと
身代わりになって死んだ。
急に父が居なくなった理由を分からずにいた俺に母は
「お父さんはヒーローだから、今もどこかに居る誰かを助けてるのよ」と言った。
色々な人を助けている父に憧れた俺は
迷うことなく告げた。
「僕もヒーローになる!ヒーローになって
パパみたいにたくさんの人を助けるんだ!」
「楽しみにしてるわ」
そう言って母は俺に優しく微笑んでくれた。
ノートを買ってもらい、表紙に
"ヒーローになるためにする事!"と書いて
たくさんの事を書き込んだ。
それからというもの毎日走って
体力を付けようとしたり、勇気を持つために
橋から飛び込んだりした。
中には、それ必要なのか?と思うような物も
あったがとにかく子どもなりに色々とやった。
だけど人は成長し、やがて大人になる。
それは俺にとっても例外では無かった。
中学生になり最初の方こそ周りに
なんと言われても信念を貫きヒーローに
なろうとしていたが、やがて自分のしてきた事が
無意味に感じ始め受験生になった時その夢を捨てた。
高校生になった。
同じ中学のやつも何人か居たが、ほとんど話したことの無い者ばかりだったので
特に交流を持とうとはしなかった。
友達も席の近い人と仲良くなった程度で決して多いとは言えなかった。
進級して高校2年になった。
始業式が終わりホームルームも終わって
帰ろうとした時、下駄箱に手紙が入っているのに
気がついた。
ラブレターだった。
呼び出されたところへ行くと
そこにいたのは1年生の最後、俺の前の席に
座っていた女生徒だった。
今年もクラスが一緒になったことに後押しされ
告白してきたという。
俺は彼女を好いていたわけではなかったが
恋愛に興味がなかったわけでもないので承諾した。
休日にはデートに行った。
水族館や映画などベタなところがほとんどだったが
それなりに楽しめた。
水族館ではイルカのキーホルダーを買い
大水槽でたくさんの魚を見た。
彼女は興奮してまるで子供のようだった。
映画館ではポップコーンをシェアしながら
恋愛系の映画を見た。
時々手が触れて少し照れくさかったけど
直ぐに慣れた。
7月末
今日は終業式だった。
先生の話は長かったが長期休暇を前に
そんなことはどうでもよかった。
帰り道
君は一緒に帰ろうと言ったけど学校の皆に
見られるのが恥ずかしかったから
君の少し後ろを歩いた。
突如、後ろからパトカーのサイレンが聞こえた。
1台の車が追われていた。
暴走した車の進路には信号を渡っている
君がいた。僕は走り出していた。
轢かれそうな君を突き飛ばした時目が合ったから
笑顔を作った。
君とのお別れが寂しくならないように
僕は精一杯、笑顔を作った。
父があの時僕に向けたのと、同じような笑顔を。
でも、涙が止まらなかった。
走馬灯が見えて君との思い出が蘇ったから。
好きだった、魚を見て笑っている君も
映画のラストで泣きじゃくっていた君も
約束の時間に遅れて拗ねたように怒った君も
全部、全部好きだった。
父さん、いつか僕に努力は裏切らないと
言ったことがあったね。その通りだったよ。
運動だけは無駄にしていたから、こうして
彼女を守れた。
君には話したこと無かったけど
僕はヒーローになりたかったんだ。
困っている人を助けるようなヒーローに。
ねぇ、僕は君のヒーローになれたかな?
守りたい人を泣かせているから1人前とは
言えないけれど、これからも君のそばで
君を守るから。
しばらくのお別れだけど今は眠らせて欲しい。
そしたら、きっと1人前になって今度こそ
君を泣かさずに守ってみせるから。
サイレンが聞こえなくなるほど大きな
彼女の泣き声を聴きながら僕は眠った。
少しベタな展開だったかもしれませんが、書きたいことを書きました。