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第5話

更新がバラバラですみません。

 

 わたしの名前は鈴原萌々花(すずはらももか)


 県立彩の丘高校の二年二組。身長一五五センチ体重四〇キロ。スタイルも良くはないが悪い方でもないと思う。もう少しでCカップに届くし。


 学校では所謂いわゆるギャル系の格好をしていてクラスのカーストトップとも仲がいい方だと思う。

 見た目は明るく活発なギャル系だけど背の低さから小動物系と揶揄やゆされることもあるのはちょっとムカつく。

 これでも男子からの人気はけっこう高いのだけど、実のところ交際したことは一度もない。

 逆に男子のことは怖いと思うこともしばしばある。




 わたしがギャルの格好をしているのはいじめを受けないため。


 わたしは母子家庭の娘で決して裕福な家庭で暮らしてはいない。貧乏ってだけでいじめの対象になるし、わたしはどちらかと言うと性格も地味な方だと自認している。


 中学生だったある日、やっぱり母子家庭だったある女の子がいじめのターゲットになった。本当の理由なんてわたしには分からなかった。

 ただ彼女の持っていた何かが中古のものだった、ただそれだけの理由だった気がする。


 そこからいじめがエスカレートしていくまでは大した時間は掛かっていなかったと思う。気づくとその娘は不登校になり、いつしか遠い何処かに引っ越していってしまった。


 その光景を目の当たりにしたわたしは、次は自分の番ではないかと戦々恐々としていたが、たまたまギャルの子と仲が良かったわたしは自分もギャルをすることでいじめを回避していた。

 たまたま運が良かった。ただそれだけのことだった。


 では我が家はなぜ母子家庭なのか? わたしは父親を知らない。わたしが幼かったから知らないのではない。戸籍の父親欄が空白なのだ。


 わたしの母は中学生の頃に両親を交通事故で同時に亡くし、親戚中をたらい回しにされていた。

 そのせいで荒れた母は誰彼構わず男に抱かれ、そんな中出来たのがわたしなのだという話を聞かされたことがある。


 たぶん嘘。わたしのお父さんの欄は空欄になっているけど、お母さんは本当の父親のことは分かっているに違いない。


 確証はないけど、一六年もこの人の娘をやっているのだ。だいたい察しはつく。言えない理由までは分からないし、教えてくれることは一生ないだろうと感じている。

 だってわたしに対して母からは愛情も感じるが、憎しみの気持ちも向けられる事があることに最近気づいたから。そのときのわたしは震えるほど驚愕きょうがくした。


 母はわたしの中に流れているその父親の血を憎んでいる様に思える。

 母は何処の誰かも分からない父親の血をわたしにどうせよというのだろうか? 


 母の職業は所謂水商売でキャバ嬢をしている。そのため家の家事全般のことは全てわたしがやっている。彼女は昼夜逆転で何も出来ないので仕方ない。


 わたしは見た目こそギャルなのだけど自分でもかなり家庭的な女だと思っている。家事なら料理から裁縫まで何でも卒なくこなせる。

 ただそうなったのには、お金に余裕がなく遣り繰りして自分でできることはやっていかないと暮らしが成り立たなかったという理由があったからだった。




 そんな母に最近彼氏ができた。水商売、キャバクラ店に来るようなやつだからまともなやつじゃないと最初は思ったけど、ソイツは他の客に無理やり連れてこられただけのようだった。


 ただ連れてこられただけのお供のような男には、年増の嬢をあてがっておけばいいとなったのかもしれない。


 母はその店ではもう年増の部類なので二〇代の嬢には敵わないというが、娘のわたしから見ても今もけっこうキレイだと思う。


 それで、年齢の近いソイツと母は意気投合。トントン拍子で店の外でも会うようになり、母はこの前わたしにもソイツを紹介してきた。

 そのときの母は今までに見たこともない乙女の表情をしていた。ソイツも母のことを愛おしそうに見ていたのが印象的だった。


『うん。わたしはいらないね』そう思った。母はまだ三〇代半ばなので今からでも二~三人は子供を産めるはず。


 この人と結婚して幸せな家庭を築いてほしいと思った。そこにわたしは異物。いてはいけないような気がした。


 その頃からわたしには居場所がなく、生きていく目標を見いだせなくなった。だからって死にたいわけでもない。


 どうしたらいいのか分からないわたしは少しずつ母と距離を置くようになっていってしまった。母からも同じく距離を置かれるようになり、疎ましく思われていることも薄々は感じていた。


 でも、一人は寂しい。友だちと一緒にいるときには気が紛れるが一人になったときにさざなみのように襲ってくる孤独の恐怖感に震える毎日。




 何度もいうがウチは母子家庭のため家計に余裕がない。多分行政の支援とかもあるのだろうけれど学のない母ではそれすら理解することが出来ないみたいで、書類も出せず放置されている。


 わたしはギャルを続けるための小遣い稼ぎのために学校とは反対側の住宅街にある小さな喫茶店でアルバイトをしている。ギャルを装わなくていい落ち着く喫茶店だ。ここのことは仲間内にも絶対に知られたくない。


 その喫茶店に偶然二年生になって編入してきた君方という男子が客としてやってきた。この付近の美容室を探している最中に偶然この店を見つけて入ったと言っていた。本当のことかは知らない。


 ここのバイトのことは誰にも知られたくない。だから、美容室を紹介する代わりにわたしがここでアルバイトをしていることを内緒にしてもらえないかという、なんともわたしに都合のいい提案をしてみた。


 彼はそれを承諾し、わたしは個人的に通っている小さな美容室を紹介した。美容室のオバちゃんは余計な詮索をしたが無視しておいた。


 髪を切った君方は、爽やかな感じの好青年に変わっていて思わず驚いてしまった。気づかれてはいないと思うが少し彼に見惚れたことはさすがに恥ずかしく内緒にしたい。




 君方と別れた後も家に帰りたくないわたしは、盛り場や公園などを行く宛もなく彷徨う。しかし、それが良くなかった。


 母が先日、彼氏と一緒に暮らしたいと言ってきた。このことを機に家を出ようとしたが、ただの高校生のわたしに行く宛があるわけもなく、彷徨いている時にあの変質者に遭遇してしまう。



 公園を歩いているときにやつに突き倒されて必死に逃げるが男と女では腕力に差がありすぎた。もうだめだと思った時にさっき別れたはずの君方が何故か目の前に現れてわたしは九死に一生を得る。

 君方はわたしが手も足も出なかったやつをほんの数分、もしかしたら数秒であっという間に倒してしまった。


 わたしはショック状態で立ち上がることも出来なかったが、早くその場から離れなくてはならないということで君方に背負われて君方の自宅まで連れて行ってもらった。

 君方はぶっきらぼうでラフな言葉づかいをするけどすごく優しいことだけはよく分かった。彼は自分のことは後回しにしてわたしの怪我の状態や身体のことを心配してくれていた。

 だからわたしは少しだけ彷徨っていた理由を彼に教えた。



 彼と話している途中で気づいたことがある。


 この部屋には彼以外の住人の姿がない。彼は一人暮らし? この部屋はどう見ても2LDKなのに一人で暮らしているのだろうか?


 彼は歩けるならばわたしを自宅まで送るという。

「わたしの家なんて無い。わたしの居場所はもうどこにもないんだもん」

 思わず涙と一緒に隠していた本音が飛び出してしまった。


 そんな事を言ったわたしに彼は驚くどころかどこか懐かしんでいるように遠くを見ていた。


 わたしはすがる思いで彼にこの部屋に住まわせてもらえないか土下座して懇願した。ここに住まわせてもらえるなら、わたしの身体ぐらいならいくらでも差し出すつもりでいた。


 でも彼はわたしに何かしてもらうつもりはないし、そもそも理由もわからずそのようなことは出来ないと突っぱねた。


 わたしはさっき話さなかった家庭の事情を包み隠さず全部君方に話した。


 彼は居場所もなくし、何を生きる目標、目的とすれば良いのかも見失っているといったわたしを何故か慈しむような目で見ていた。


「ったく。はぁ、じゃぁよう。まず萌々花は母親に連絡して俺んとこで暮らしていいか許可をもらえ。そしたら次は俺の親に許可をもらってやる」

 そういった途端、しまった、という顔を君方はしていたけど言質はとった。


 夜中、母が帰宅する頃に洗面所を借りて母に電話をする。家を出たい理由も君方のことも何も言っていないのに家を出る許可がいとも簡単に出る。


「萌々花には住むあてがあるの?」

「ある。あるから電話した」


「……そう。なら、そうしてもいいわよ」

「わかった」


 母がわたしになにも聞かないのは、理由や彼のことを聞いてしまったら同居を認めるわけにはいかなくなりかえって自分に都合が悪くなるためだと思う。

 母に家を出たい旨を告げると心做こころなしかホッとしたような声音をしたことにわたしは気づいていた。


 彼氏、これから夫になるだろう男との同居にやはりわたしが目の上のたんこぶだったことを悟る。


 わたしのことは相当疎ましかったのだろうことが想像できる。


 もしかしたらわたしのほうがあの彼よりも愛されている、もしかしたら元に戻れるかもという希望が無くなったと知った瞬間だった。


 その後、君方に言われていた母からの家を出て同居することの同意文書を母にre:in上で用意してもらいわたしの()()()は終わった。


 ずっと家を出ることを望んでいたのに、あっさりとそれを母に許可されると何故か涙が止まらなくなった。

 声を殺して泣いていたが、別の部屋にいた君方にも聞こえてしまったらしく、彼は何もわたしに言わずただ寄り添っていてくれた。


 わたしは彼の胸を借りて嗚咽をあげながら絶望と……なぜなのか希望を同時に感じていた。



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