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第28話

 長いようで短かったGWも今日明日でおしまい。

 今日自宅に戻って、明日は掃除といつものように食料品などの買い出しをしたら授業に備えてちょっとだけ()()()()のんびり過ごす予定だ。


「漣。聞き捨てならない言葉があったような気がするんだけど?」

「え? 無いよ。掃除とか買い出しは当たり前だろ?」


「違うし! 授業に備えて勉強って何だし?」

 萌々花のギャル言葉が出てるし!


「いや。休み明け小テストあるって言っていただろ? 忘れたのか?」

「ぎくっ! 忘れてない……し」


 うん。忘れていたね。


「|風見鶏レベル()()()に戻らないためなんだから、ちょっとはやっておくぞ?」

「ぐぬぬ……はぃ」

 萌々花が垂れ耳ウサギさんになってしまった。


「ももちゃんは勉強は苦手なのかい?」

「はい。駄目です……お父さんはどうでしたか?」


「脳筋と呼ばれていたよ……」

「ああ……」


 何でそういう悲しくなるような会話をするのかなぁ~


「そう言えば佳子母さんはどうしたの? 家にいないようだけど?」

「佳子は医者に行っているよ」


「医者? 休日なのに……どこか悪いの?」

「年中無休のお医者さんだからね。どこかが悪いわけじゃ――」


「ただいま~ 誠ちゃん!!!!!!」

 丁度母さんが帰ってきてそのまま父さんに抱きついた。なに? どした?


「七~八週目だって!」

「ほんとうか! やったなぁ!」

「え、あ、ん? ええ! もしかしてお母さん! お母さんになったの⁉」


 萌々花が何言っているかわかんないです。母さんはお母さんだろ?


「あ、そういう……赤ちゃん出来たのか?」


 やっと気づいた。だから萌々花のトレーニングにも絶対に付きっきりになると思ったのに全く一緒にやらなかったのか。



 なるほど。





 ……そっか。



「コラッ‼ 漣くん。私達に実子ができても漣くんは私達の子供に変わりはないからね! お兄ちゃんになるんだからイジイジしていないでシャキっとしてよね!」


「あ、そ、そうだよね。俺がお兄ちゃんになるんだな。なんかむず痒い感じだな」

 もう、怖がってばかりのあの頃には戻らないって決めたんだ。


「いいいなぁ~ わたしもお姉ちゃんになりたい~」

「じゃあ、ももちゃんもうちの子になっちゃえば良いんだよ。漣の妻か漣の義妹かどっちがお好みかな?」


「もっもっもちろ……いや……義妹のあとに妻って言うのもありかな?」

 真っ赤な顔して何を仰るのだね、萌々花さんよ?


 父さんも何を馬鹿げたことを……ちょっとだけ良いかもとは思うよ、俺も。



 ★+。。。+★+。。。+★+。。。+★+。。。+★



「もう帰っちゃうんだね……」

「母さんは今が一番大切なときなんだから、ゆっくりしておいてよ。安定期に入ったらお祝いを内々でやろうよ」


「お母さん、季節の変わり目ですのでご自愛下さいね」

「ありがとう、萌々花ちゃん。あなたも頑張ってね、お勉強」

「うっ、が、がんばります……」




 横浜の家を出て、自宅に戻る。それにしてもこの一週間は色々あった。色々ありすぎた。


「人生で一番濃いGWになりそうだよね。これを超えるのってなかなかないよね」

「そうだな。改めて、よろしくな。萌々花」


「こちらこそよろしくね、漣」

 どうせまた来るのだろうからと、殆どの着替えは横浜の家に置いてきてしまったのでキャリーケースの中身はちょっとしたお土産ぐらいしか入っていない。


「どうする? どこか寄りたいところとかあるか?」

「ううん。早くお家に帰りたい気分だよ」


 俺も同じだ。


「じゃあ、駅前通りのスーパーで何か買って一緒に夕飯は作ろうか? 何が良いかな?」


「旦那。すき焼きなどどうですかね?」

「すき焼きだとぉ?? 良いじゃないか! それでいこう。お主も悪よのぉ」


 などとふざけてはいるが、ジムでのバイトをしっかりやったので、懐は温かい。

 たまの贅沢ぐらいは許されてもいいだろう。


 もうお口はすき焼きのお口なので、今更翻されてもどうにもならないぞ?




「ご飯が炊けるまで勉強しちゃおう。食ったあとだとやりたくないだろ?」

「食事の前でもやりたくは無いよ……でも、やるよ。頑張る」


 ご飯が炊き終わるまでの三〇分ほどを勉強時間に当てる。小テストで出題される問題は分かっているのでそこだけ集中的にやるだけなので十分だ。


 すき焼き鍋などうちには無いので、取っ手の取れるフライパンとカセットコンロを使うことにした。


 萌々花が勉強をしている横で俺がすき焼きに入れる具材の下ごしらえはしてしまう。今回の小テストで出題される範囲には、俺的に障害がないオールクリアだからな。


「一緒に作るって言ったのにぃ~」

「鍋づくりは一緒にやろうよ。俺もすき焼きはどうやるのか知らないからな。このすき焼きの作り方がかいてあるサイトを見ながらやろうよ」


 一人飯で自炊するのにすき焼きはなかなか作るものじゃないからな。過去一度も作ったことはないし、なんなら食べた記憶もそうない。


 何を買うかの時点ですらスマホ検索したぐらいだ。関東風と関西風があるらしいがここは関東風一択で割り下を購入。難しそうなことはできるだけ省くのだよ。


 それで買ってきたのがちょっとだけいつもより高価なすき焼き用牛肉と長ねぎと玉ねぎ。きのこ類は椎茸とえのき茸をチョイス。あと木綿豆腐とシラタキ。

 それに春菊を加えるのが一般的なようだけど、俺も萌々花も春菊は苦手。だから色味を考えて水菜を入れることにした。


 ご飯は炊いたけど、()()()()()()というやつに心惹かれて三〇円のうどんを一袋だけ購入。

 明朝用のパンと卵と牛乳も忘れない。卵はすき焼きでも必須アイテムのようだしな。


 長ねぎは斜め切りに、玉ねぎは半月切りにする。水菜は適当な長さに、きのこ類は石づきを切り、えのき茸は小房に分ける。

 豆腐は水きりして一口大プラスαな大きさに、しらたきは下ゆでしてからこれまた適当な長さに切り分ける。


 炊飯器から軽快なメロディが流れたところで、萌々花は教科書から顔を上げてニヤリ。


「料理長。飯、炊きあがりました!」

「誰が料理長なんだよ? 萌々花の方はもう大丈夫なのか?」


 勉強が済んでいなければちょっとぐらい待つけど?


「無問題。すき焼き開始です! 料理長」

「本当かよ⁉ まあいいや。作ってみるか!」


「やった! あは!」

 チクショウ……すき焼き作るくらいで可愛いかよ! 無茶可愛いじゃないかよ!


「料理長、ニヤニヤして気持ち悪いです!」

 お前のせいだよ……




「おなかポッコリだよ。苦しい……」

「そりゃ、あれだけ食べればそうなるよな」

 萌々花は茶碗山盛り一杯のご飯ですき焼きをたっぷり食べたあと、締めのうどんまでしっかりと完食したので、腹が苦しいのも当然だと思うぞ。俺でさえかなりくちいと言うのに。


 牛を平らげたあとに牛にクラスチェンジも致し方なしな感じでリビングの床にゴロゴロと二人して転がる。


「漣……」

「ん?」


「わたし、いま、すごく幸せを感じている」

「美味しいもの食べて?」


「もう! それもあるけど漣と、ちゃんとしたお付き合いは先延ばしだけど、恋人同士になれて、これまでと変わらずこのお家で一緒に暮らせて」


「うん」


「漣がわたしを守ってくれて、わたしが漣を支えて。ずっとそうして行きたい」


「ああ」


「頑張ろうね、漣」

「がんばろう、萌々花」


 そっと唇を重ねる。


「ふふふ、漣の唇は甘じょっぱいね」

「萌々花の唇も一緒だよ」


「「あははは!」」


 まるでバカップルである。

 今まであれだけシリアスに「守ってやる」だの「乗り越える」だの言っておいて、やっていることはバカップルそのものだ。


 二人で過去を乗り越えて行こうというのは嘘では無く本当の目標なので間違いは無いのだけれど……


「俺達お互いに告白してから浮かれまくっているよな?」

「駄目なのかな? 浮かれるくらい嬉しい気持ちなんだけれど?」


「……そうだよな。家の中ならばちょっとぐらい浮かれていてもいいよな。学校じゃ、まだ警戒は解けないもんな」

「彼奴等、また何かやってくるかな?」


 やってくるね。絶対に。


 あの風見鶏って奴は、自分の思い通りに行かないと癇癪を起こす幼児のような性格をしていそうだ。

 萌々花を自分の所有物と思い込み、言うことを聞かない萌々花に自転車を破壊するといった()()を課した。


 次に俺の素性を損切くんたちに執拗に調べさせている。


 駅で見たゴスロリが射殺す眼光ギャル女の優ちゃんだった場合もどう転ぶかも分からない。

 風見鶏に余計なこと吹聴しなければいいんだけれど、そもそもアレが本人かどうかの判断がつかないレベルで何も分からない。


「まあ、どのみち用心することには変わりはないって、寝てるじゃん! 萌々花! 風呂入るか、せめてベッドで寝ようぜ?」


 腹が膨れたら次は眠るだけって子供かよ⁉


「くーくー」

 もう片付けは明日でいいや。風呂もいいや、全部明日やればいい。明日も休みなんだしそれでOK!


 萌々花を抱きかかえてベッドに運ぶ。


「未だひと月前のことだっていうのに懐かしいな。最初はこんなだった。泣き疲れて萌々花は寝ちゃって――」







 何か柔らかくっていい匂いのするものを抱えている気がする。


 ちょっと甘ったるい臭いと汗臭いような匂いも交じるけど概ねいい匂いでずっと嗅いでいたい匂いだ。


 腕や身体に感じる柔らかさも極上としか表現が出来ない心地よさ。



 微睡みの中、このままずっとこうしていたい…………まて?






「――また寝てた! そして朝だ」

「おはよう、漣。いきなり叫ぶのはナシでよろしく」


「あ、ああ。ごめん。おはよう、萌々花」

 抱きしめていた手を緩めようとしたら、萌々花の方から抱きついてきた。


「今日はもう少し抱きしめていて。ダメかな?」

 ……もう暫くこうしていることにしよう。



 ★+。。。+★+。。。+★+。。。+★+。。。+★



 GW最終日は、二人一緒にスーパーマーケットでいつものように買い物をして、二人で料理をして、夜には二人で恋愛映画を鑑賞して眠くなったところで寝た。


 何時になっても届かないシングルベッドはもうキャンセル。

 今夜から二人で一つのベッドで寝ることにした。だってダブルベッドだもの。二人で寝るには十分だよな。


 ということで、今夜からは俺の自制心が試されるという訳だ。


「良いんだよ? 漣」

「そういう事は言わないでくれるかな?」

「む~」





いつもすみません。。。

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