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第23話

 GWは一〇日中九日間、横浜にある君方の実家に泊りがけで行く。土曜日から翌週の日曜日まで。


 最終日だけは自宅でのんびりする予定にした。

 当然、萌々花も俺と一緒のスケジュールだ。


 向こうにいる間、俺は鍛錬とアルバイト。下のジムで雑用バイトをして小遣いを稼ぐつもり。


 頑張っている娘(萌々花)にご褒美をプレゼントしようかなっていう気の迷い。

 金は無いわけではないが、その金でプレゼントはしたくないというただのワガママなので、渡すまでは何も言わないつもりだ。


 萌々花もGW中はバイト先の喫茶店も休みだし、それに向こう(君方家)についてくるのだから時間が余ってしまうと言ってジムの手伝いを買って出てくれている。


 萌々花は泊めてもらうのだから給料なんて要らないと言っているが、うちの父母はそんな事許すわけはなくちゃんと萌々花にも給料は出る。

 トレーニングもやってみたいと言っていたので多分佳子母さんが付きっきりであれこれと世話を焼くに違いない。


 三日分ぐらいの着替えをキャリーバッグに二人分詰め込んで準備万端。足りなければ近所のショップで買えばいいし、洗濯すればどうせ回せる。

 ただ一日は拓也たちと一緒に何処かに遊びに行こうとは考えているので、外出に良さそうな服装は一セット用意しておいた。



 駅に着いたら取り敢えず横浜駅までは乗換なしで行ける便に間違えること無く乗車する。


 連休初日の午前中だけあって満員電車とまではいかないが結構混んでいる。荷物を一つに纏めておいて良かった。


 萌々花を丁度空いた席に座らせて俺はその真正面に立つ。


「結構混んでいるね。連休って今までずっと家に引きこもっているのが常だったからこんなに電車が混んでいるとは知らなかったよ」

 萌々花……初っ端から悲しい思い出は止めとくれ。


「そうだな。今回は特に長い連休みたいだから余計に人出が多いんじゃないかな?」

「へ~ みんな何処に行くのだろうね~」


 俺達の様に大きな荷物を持つ人もいれば、リュックやポーチだけの人もいる。

 反対を見ればスーツ姿の男女もチラホラと見受けられるので全員が全員休日というわけではないな。当たり前だが。




 発車のベルが鳴り扉は閉まり、ゆっくりと車両が動き出す。


 俺達が乗ったのは急行なのでこの路線では三駅ぐらいしか停まらない。それなので他の駅に用事がある人や乗り遅れた人などまだまだホームには人が沢山いた。


 ふと一人見覚えがある女性。でも勘違いだな。雰囲気は似ているけど見た目が違いすぎた。


 知り合いにゴスロリ趣味の女性はいない。もし北山さんがゴスロリだったら……案外イケるかも?


「漣、何をニヤニヤしているの? 電車の中でキモチ悪いよ」

「うっ、キモチ悪いって酷い言われようだなぁ。いや、さっきのホームにな、ゴスロリっぽい黒赤コーデの女性がいてさ、アレを北山さんがきたら面白いかなって」

 一瞬でしか見えなかったけどアレは目立つな。


「ねえ、沙織ちゃんは仁志くんの彼女なのに漣はやっぱり沙織ちゃんに気があるの?」


 一緒に登校していたときなんか鼻の下でれ~って伸ばしてどうしたこうしたと萌々花が急にプンプン怒っている。


「いやいや俺はデレデレしていないし、北山さんのことはなんとも思ってないから。そもそもジンの彼女にそんな思いがあるわけない」


「なによ……北山さんのことはって、他の人にはあるみたいな言い方じゃなぃ……」


 どうしてそんな天の邪鬼な取り方するんだよ? もう。本当に北山さんも他の誰も見ていな……

 じ~~~~

 萌々花か。萌々花は別枠だな。


「なな、なにをそんなに見ているのよ、もう……」

 今度は俯いてしまった。髪の間から見える耳は真っ赤だった。


 その後どんどん駅に止まる度に人が乗り込んできて満員電車並みになってしまった。


「うへ~ 萌々花だけでも座れていてよかったぞ。これはかなりきついぞ」

 都内の高校に通っていたときはこんなモノは普通だったのにほんの数ヶ月満員電車に乗らなかっただけでもうダメ、辛い。


「わたしだけごめんなさい。漣と代わろうか?」

「うんにゃ、平気。前はこんなものじゃないほど混んだ電車で学校に行っていたんだから問題ないよ」


 強がってみました。男の子だもの、れん。




 その後神宮前と渋谷で大半の乗客が下車し萌々花の隣に俺も座れた。


「ふう。みんな渋谷とか原宿に何をしに行くんだろうな?」

「若者を引きつける何かがあるんだよ、きっと」


「君は若者じゃないのかい?」

「そういう君はどうなのだね? 漣君」

「「ぷぷぷ」」


 まあなにかの機会があったら行ってみようってことになった。何の機会があるのかは分からないけど拓哉や雫ちゃんなら詳しそうだ。


「そう言えば、出発した駅でゴスロリっぽい娘を見たって言ったじゃない?」

「ん? そうだっけ?」

 言ったような、言っていないような?


「もう、もう少し他人に興味持とうよ⁉ でね、優ちゃんがそういう格好をしているのは一回だけ見たことあったなって思い出した」


「ゆうちゃんって誰よ?」

 そんな名前の知り合いなんていただろうか?


「あの、アレだよ、風見の横にいつもいる娘。あの娘が優ちゃん。吉見優」

「マジか? でも風見鶏はいなかったはずだぞ。今朝も奴のGPS信号は自宅付近をウロウロ動いていただけだったし」


「優ちゃんだって一人で行動ぐらいするって! え? じゃあ見られたの、わたしたち」

 電車が動き出して暫くしてあのゴスロリ優ちゃんを見たのだから見られてはいないかも? だが確信は無い。


 そもそもあのゴスロリが射殺す眼光ギャル女の優ちゃんとは限らないからな。


「いや、確実ではないけど、見られたとしたら俺だけかな? 萌々花は席に座っていたしさ」

「でも電車に乗る前とかは?」


「そこまでいったらもう何もわからないよ。それでも大丈夫。俺は萌々花を守るから。安心するまで何度でも言ってやるから。折角のGWなんだから余計なこと考えないで楽しもうぜ」


 考えてもわからないことは考えない。ただ、何かあった場合の対策だけをしっかりするだけ。


 そのために父さんに稽古をつけてもらうのだから。大丈夫、俺は守れる。萌々花を守れる。


「あ、ありがとう……漣」

 そっと俺の手を握り、潤んだ瞳で俺を見る萌々花。


「どっどどど……どういたまして、いで」

 噛んだ。どうした俺。動揺しすぎ……慌てて萌々花から目を離して真正面を向く。


 ちょっとそれはズルいです、萌々花さん。可愛すぎました。

 色々我慢してきたものが漏れ出そうでした。でも、それはダメだって。


 もしも、もしものことがあったら……うん。やっぱりダメ。

 手を握り返して安心させてあげる。ただしここまで。







「お邪魔します。今日からまたよろしくおねがいします」

 ペコリと頭を下げる萌々花をにこやかに迎える父母達。


「いらっしゃい。よく来てくれたね。私も佳子も君たちが来てくれることを楽しみにしていたんだ。畏まらずももちゃんも実家に来た感じでリラックスして過ごしてくれ」


「ありがとうございます。お父さん、お母さん」

 萌々花の『お父さんお母さん』という呼び方はどういうわけかデフォになっているようで、父母の目尻は下がりっぱなしだ。


「じゃあ、萌々花の部屋はこの前と一緒でいいのかな?」

「そうね。お布団も用意しておいたので、漣が案内してあげて」


 そんなに広くはないので萌々花ももう覚えているだろうけど、彼女用に準備された部屋に案内する。因みに通路挟んで俺の部屋の隣なんだけどね。


「なんだかわたしの部屋のほうが立派で漣に申し訳ない気がしてならないんだけど?」

「良いんだよ。俺の部屋はこっちの狭いところを自分で選んだんだから、萌々花は遠慮せずにそっちを使ってあげて」


 気持ちは分かる気はするけどね。


 布団が用意してあるって聞けば、本当に布団だけ用意があると思うじゃない? でもさ、萌々花に用意された部屋にはなぜかベッドは置いてあるし、テレビもテーブルも駄目になる系のクッションまで置いてある。


 ついこの間まで何もなかったはずなのだけどいつの間に……


「それだけ萌々花はこの家に歓迎されているってことなんだから、ね?」

「うん。お父さんお母さんにお礼言ってくるよ!」


 萌々花はトコトコと父母の居る階下へ走っていった。

 俺はキャリーケースから自分の分の衣類などを取り出して、自分の部屋の衣装ケースに放り込んでおいた。

 一瞬でやることが無くなったので、俺も階下に降りることにする。



「ももちゃんも明日から下のジムでアルバイトしてくれるんだよね? 時間があるなら今からでも構わないけど? 案内して説明するよ? 漣も再度復習のつもりで一緒に来てくれ」


 やることが中途半端に無くなっていたので、早速バイトを始められて丁度良かった。俺達はジムの制服に着替えて、ジム内の説明を受けることにした。


 俺達は三階の事務所に連れて行かれて案内をしてくれるマネージャーに紹介される。


「三井君、ちょっといいかな? こっちは知っているだろうけど、息子の漣。で、そちらの彼女が鈴原萌々花さん。今から次の金曜日まで雑用バイトをしてくれるから、案内と説明をよろしく頼むよ」


 三井さんはここのジムの統括マネージャーさん。


「やあ、漣君久しぶり。元気だったかな? で、こちらのお嬢さんが鈴原萌々花さん、と。よろしくおねがいしますね、マネージャーの三井です。漣君の彼女さんかな?」


「あ、いや……三井さん。それは良いじゃないですか?」

 やっぱりそう思われるよな。萌々花も赤くなって俯いちゃって……チクショウ。可愛いじゃないかよ。


「ふ~ん。漣君も隅に置けないな。まあ、それは置いておいて、バイトに来てくれて助かるよ。連休中の利用者さんは多いし、スタッフは少ないしで大変なんだ――」


 流石にマネージャーを任されるだけあって、人が気にしているところには触れてこない。もし触れてもそのことは無かったかのように上手に話題を変えてくる。


 スマートにこういうことが出来る大人ってかっこいいなと思う。





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