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第22話

 夜になって須藤からre:inで連絡があった。


 風見鶏のグループから萌々花に次ぐ離反者が出た模様。萌々花を最初の離反者というならば、崩壊の始まり的なヤツだったりして?


 須藤とは以前から離反したという二人の女の子と交流が有ったようだ。


 横網と三原と言ったな。

 片や日光アレルギーで真っ白な肌と肥満、片や高身長で昭和スケバン趣味。まあ、彼女たちも色々有ったんだろう。


 他人とは相容れる事ができず転がるように低いところに集まって風見鶏のところに行き着いてしまった、そんな感じだろうか?

 でも、須藤がよく見ていてやったようで、落ちるところまでは落ちずに済んだようだ。


 師匠として鼻が高い、などとは恥ずかしすぎて絶対に言えない。俺なんて本当に何も出来ないガキだとつくづく思うもんな。




『彼女たちが言うにはやっぱり鈴原さんの自転車破壊の犯人は風見のグループの戸影という男子みたいです』


 ああ、損切くんね。


『それで風見は、鈴原さんは平気な顔していてもダメージはあるはずだから放置して置くつもりらしいです。気落ちしたところに自らがしゃしゃり出ていって優しい言葉をかけて落としてやろうって魂胆なんでしょうけど』


 それはそれは見事なうんこっぷり。


『戸影ともうひとり金魚ってのが手下のような感じでいるらしいんですけど、そいつら二人が師匠の身辺を調査するらしいです。こっちもなにかしますか?』


『いや。どういうことしてくるのか分からないから、こっちはこっちで尾行とかされないように気をつけるよ。また何かあったら連絡してくれ。俺からも相談するから』


『了解です。あゆみにも言っておきます。ちな、今もお風呂入ってます!』

 ……既読スルーで終わりにした。




 風見鶏がただの陽キャから悪意を振りまくある意味本物の()湿()()()()に変わったことで女の子二人は離れた、と。

 男の方はなんだろう、何か旨味があるのだろうな。金か? まあ、大体そうだろうな。女の子のおこぼれとかなさそうだしな。



「どうしたの? すごく深刻そうな顔しているけど?」

 萌々花が風呂から上がってきた。佐藤先生だけじゃないんだよ風呂に入っていたのは!

 って、どうでもいいや。


「須藤から連絡があってな、あのグループから女の子二人抜けたらしい。横網さんと三原さんの二人だって」


「ああ、あの二人か。あんまり話したことはないけど、吉見さんよりは普通に話せる感じだったかな? ちょっと変わってはいたけど」


 反対に取ると吉見ってやつは普通には話せない感じということか。射殺す眼光ギャル女だもんな。ゼッタイ萌々花に敵意を持っているよ。



「それで、何で須藤先生があの二人のことを漣に話してきたの? 須藤先生とあの二人って接点ってあったっけ?」


「まあ、萌々花は分かるだろうけどあの二人って結構周りから浮いた感じになるじゃん。それを須藤が気にしてやったところが始まりみたいだよ」


 体育教師が生活指導をやるなんてよく聞く話だし、そういうところからなのかな?


「師匠の指導のおかげ?」

「いや、違うね。俺は人に近づくどころか離れて殻に閉じこもる方だったからな。全部あいつが頑張ったからだよ」

 誠治父さんに指示されなければ俺自身が須藤にだって近づかなかったかもしれないし。


「今の漣は人を突き放すようなことないのにね」

「ついこの間まで突き放してばっかりだったけどな」

「それを言ったらわたしも同じだね」


「「かわればかわるもんだね~」」

 最近良くハモるな。



 なにもかもを無くした後、君方の養父母に温かく迎え入れられて俺は変わったのだと思う。


 全てを奪われ真っ暗闇の中にいた俺を引き上げてくれたのは養父母の二人。

 父母が俺の進むべき道にしるしを置いてくれた。


 俺のやることを、俺のやってきた、通ってきた道を認めてくれた。

 ただ迷いはあったし、今でも迷っている。越えられていない。

 本当にこれでいいのか?


 そんなときに俺の前に現れてくれたのが萌々花だった。


 最初こそ彼女に対し同類のあわれみのような気持ちが無かったかと言えば嘘になる。

 そもそも憐れむなど烏滸おこがましいにもほどがあった。

 俺だって同じじゃないか、と。


「漣。また余計なこといっぱい考えているね?」

「……」


「わたしは漣に逢えてよかったよ。もちろん住むお家が見つかったって言うのもあるけど、それ以上に漣に出逢えて良かった」

「何が言いたいかよくわかんないよ」


「へへ。わたしもわかんない」

 ――ただね、わたしをあの暗くて冷たい場所から引っ張り上げてくれたのが漣で良かったなって心から思えるんだよね。


 それだけ言うと萌々花は夕食の準備に台所に行ってしまった。

「暗くて冷たい場所……か。それは俺も同じだな」



★+。。。+★+。。。+★+。。。+★+。。。+★



 その後、水曜日の放課後からは損切くんと金魚くんに後を付けられたり、行く先々で写真を撮られたりと散々だった。


「めんどくせ」


 元々木曜日以外は萌々花もバイトがあるので俺と登下校時は別行動だし、学校以外で俺と一緒にいるところを撮られるようなヘマも犯さない。


 一度だけその木曜日に俺達二人と拓哉のカップルとジンのカップルと六人で放課後に遊びに行ったけど、帰宅時はあの四人にも一緒に暮らしていることは言えないので当然別行動にしていた。


 損切くんも金魚くんも何の成果も得られないのでは彼らも立つ瀬がなくて可哀想だし――スミマセン嘘ついていました。可哀想などと毛頭思ってないけれど、佐藤先生に指示されたので写真は撮らせて尾行も少しだけさせてやった。


 彼らになんの成果もないと風見鶏が次の手に打って出てくるかもしれない、金にもを言わせプロを雇うとかが考えられる、とか佐藤先生に脅された。

 凄く凄くめんどくさかったけど佐藤先生が『君のことを思っていうのよ』というので渋々従った。須藤が言ったなら従ってなかったかもしれないが、佐藤先生は怖いので仕方なく従った。

 佐藤先生は別の目的で俺を利用しているような気もしてならないけど須藤に聞いてもぜんぜん理解すらしていない様子だった。脳筋だしな。仕方ないか?


 俺は何度か偽装のため駅まで行ったら来た電車に直ぐ乗って一駅で下車ってことをやって、そこから歩いて萌々花のバイト先まで行って一緒に帰ってくるという行動をしていた。


 損切くんも金魚くんも電車の中にまでは尾行してくるつもりが無いようで、駅の改札前まで来ては俺の後ろ姿の写真を撮って帰っていった。


 そういう風に彼らも最初こそ尾行をしたり張り込みをしたりしていたが、あっという間にお座なりな調査方法になって二週間もすると俺が校門を出て五〇〇メートルも移動したら居なくなっていた。

 土日なんか彼らは自宅から一歩も外に出なかったようだしな。そのお陰で俺と萌々花は普通に出かけたりして過ごせた。

 彼らはそれでいいんだろうか? とこちらが心配になるグズグズっぷりだった。調査のプロとか出てきたら嫌なんで頑張ってほしいところ。



 それで俺がどうして彼奴等の尾行や近くに居ないことを分かっているかってことなのだけど、それは――



 ――体育の授業中はスマートフォンを教師に預けなければならないのだけれど、そのときに()()()()()()()()使()()()風見鶏と損切くんと金魚くんのスマホにGPS追尾アプリをインストールしていたからでした。ところで『佐藤先生が須藤を使って』と言ったほうがしっくり来るのはなぜなのだろう。


 先生がそんな事していいのかという公序良俗的なのと法的なのとどうなのよ? って思いが錯綜したけど、なんと言っても便利なので目をつむることにした。


 俺と萌々花が既に自分たちで自分のスマホに入れてあるやつだったので使い方は直ぐわかった。


「スマホってロックとかしてあるのではないですか? 先生はどうやってロックを解除してアプリをインストールしたんですか?」

「ふふふ。ナイショ」


 佐藤先生の微笑みは可愛いんですけど怖いのでそれ以上は聞けませんでした。


 射殺す眼光ギャル女の方は体育の先生が違うし、スマホを入手出来なかったけどほぼ風見鶏と一緒の行動をしているので構わないかと言うことになった。

 どうせ今回の尾行には風見鶏は加わってないみたいだし。

 加わってくれる必要はないけれど、奴は本当に自分では何もしないのだってことはよくわかった。




 損切くんと金魚くんが俺のことを調査(?)している間は風見鶏にはこれと言った動きは無かった。

 二人の調査結果を待つってつもりだったのだろうか? 大した結果は得られないと思うんだけど。


 あの二人の調査が始まった途端に女子二人があのグループからあからさまに距離を置くようになりグループの構成員は萌々花が居た頃の七人から一気に四人にまで減った。

 自分の勢力図が縮まったからなのか単に離れられたのが気に食わないのか、はたまた調査結果が芳しくないのが宜しくないのか、ここ最近ずっと風見鶏はカリカリしていた。


 その姿を見ていた佐藤先生がニヤニヤしているので非常に怖い……


 それにしても風見鶏は自宅に帰る前によくボロ雑居ビルに入っていくんだよな。マップアプリで確認したけどテナントも入っていなさそうな三階建ての何の変哲もないビル。ビルに入られるとGPS追尾が出来ないからビルの何処にいるのだか分からないけど、どうせ碌なことやってないんだろうな。

 俺には関係ないからどうでもいいけど。




 そんなことよりも、明日からはゴールデンウィークでなんと一〇日間の連休だ。

 風見鶏の阿呆の顔も見ないで済むし、さすがに尾行もないだろう。

 萌々花のバイト先も休業だっていうから一緒に横浜に心置きなく連れていける。


 風見鶏が次に何をやってくるか知らないが、何があっても萌々花を守るためにGWは父さんに稽古をつけてもらう。

 俺が何かを成すべきか道筋を示してくれる父母には感謝しかない。





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