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第2話

よろしくお願いいたします。

 横浜から俺が一人暮らしするこの自宅マンションに着いたときには既に日は沈み、辺りは暗くなりかけていた。


 荷物は業者に頼み搬入も設置もほぼほぼ終わっているので急いでいたわけではないが、まだ自宅の周りも駅周辺でさえもどの様な環境なのか理解していないこともあり、明日の学校が始まる前にはある程度知っておきたかったが完全に失敗した。


 最寄り駅の周辺は高層マンションが何棟も立ち並んでいたけど、俺の住む地域は昔からの住宅街のようで戸建住宅のほうが多い。

 そういった周りを見る余裕もなくスマホのナビで築三〇年のマンションの一室に真っ暗になる前にたどり着く。


 今夜の夕食はコンビニ弁当。もう、外食するのもましてや自炊するのも無理。疲れた。

 組み立てられただけでシーツも掛かっていないベッドにダイブしてそのまま寝てしまった。





 翌朝。


 やたらと早く起きてしまったが、朝食を作るにも材料がないことに気づく。買い物に行っていないのだから当たり前だ。


 最初にここに来たときは荷物の搬入と幾つかの手続きをしただけでそのまま部屋の片付けもせず横浜の養父母の家に行ってしまったからだ。


 有り難いことにマンションの目の前にコンビニがあるので、シャワーを浴びた後に適当な身だしなみチェックだけして朝食を買いに出かける。


 俺の住むマンションは三階建、一フロアに四室あるのだが一階は大家さん一家と店子として大家さんのご子息経営の不動産屋が入っている。

 よって、賃貸物件は二階と三階の二フロアで俺は二階のベランダ側から見て左端、不動産屋の直上の2LDKの部屋を借りている。


 基本家族向け物件なので、一人暮らしは俺だけのようだ。俺の事情もしっかり話し、養父母の印象も良かったみたいで借りることが出来たのはラッキーだった。


 六時台なのにもう出勤する人、ゴミ出しに向かう人などと階段ですれ違うときにはしっかりと挨拶する。近所付き合いはあるかどうか分からないけど、挨拶一つで住環境が良くなるなら挨拶するに越したことはない。

 大家さんの人柄なのか、感じのいい人しか住んでいないような気がする。希望的観測でなければいいけどちょっと今の俺が他人を疑いすぎるのは許してほしいとこっそり思う。



 コンビニでたまごサンドと鮭おにぎり、ペットボトルのお茶を買って自宅に戻る。

「外食とコンビニじゃ体調崩しそう。早く自炊生活に戻さないとな」

 外食やコンビニの食事が悪だとは思わないけど、自炊することは俺の精神的安定を維持するのに役立っていると思う。

 レシピを考えたり調理をしたりすることは結構好きなのでストレス発散になっているのだ。




 真新しい制服に袖を通して高校に向かう。自宅から高校までは徒歩で一時間ほど。


 俺がこれから通う高校は県立彩の丘高校。偏差値的にも中の上くらいの高校。

 以前通っていたのが男子高校だったので、共学というのもちょっと新鮮だ。


 暦の関係上、金曜日に始業式。土日挟んで来週からは健康診断やLHRでいろいろ決め事をするというスケジュール。それなら月曜日からで良いのではないかと思うけどそこには大人の事情が絡むのだろう。


 まあ二年生だから、俺以外の生徒にとっては目新しいことは特には無いのだろう。教室内は落ち着いた感じに思えた。但し、廊下側の後ろの方に屯している所謂いわゆる陽キャの連中は除く、と。


 そんな中で俺こと編入生くんの登場にクラス中沸き立って……なんてことはあるわけない。そんな事は望んでいないし沸かれても困る。

 一応クラス替えはあったようなので、一年の時に知り合いではない人も相当混じりあっている様子が伺われた。


 そのせいでみんな様子見をしているのか元々の知り合い同士が数人くっついて話しているだけのようだ。

 そんな中俺は指定された座席について、机上に纏めて置いてあったレジュメに目を通している。

「おまえ見ない顔だな?」なんてギルドの新入り的なイベントも起こらない。当たり前か。

 俺のように座ってレジュメを眺めている生徒も結構いる。ボッチ率高くない?


 俺は陰キャではないが少し人見知りをするほうなので、いきなり話しかけられることがなくて安心していた。


 それに実両親のせいで、俺はあまり人のことを信用できなくなっている。他人を信用することに臆病になっているといったほうが合っているかもしれない。


 今突然に話しかけられてもキョドってしまう可能性が否定できない情けなさ……

 話しかけてこないのにも理由がありそうで、それは多分俺のれだろう。


 自分でもよくわかっているが、はっきり言って最悪の部類。

 身長一七八センチでたぶん体重は今六三キロぐらい。もしかしたらもう少し減っているかもしれない。暫く食欲なかった期間があったからね。


 脱ぐと本当は細マッチョなのだけど着痩せするせいなのか見た目が無茶苦茶ひょろい。

 でかガリひょろの色白さん。ジャカジャカジャーンッ♪って言い出しそうな二人組な感じといえば分かるかな?


 ついでに、キモロン毛。目が隠れるほどの前髪が邪魔で仕方ない。


 年末年始、ついこの間まで実両親のせいで髪の毛を切る暇も気力もなかったので、もの凄く髪が伸びた。

 誠治父さんにも新学期までになんとかしておけと言われたけど引っ越しやら手続きやらで忙しくて間に合わなかった。


 俺自身もこの髪の毛が鬱陶うっとうしいのだけど縛ったりしたらなんだか負けたような気がして伸ばし放題で何もしていない。


 今日の午後か明日までには絶対に切りに行こう。ゼッタイだ!

 それにはまず近隣で、どこに床屋だったり美容室だったりがあるのかをまず調べないと。チャラい人に話しかけられながら髪切るのは辛いからそこはよく調べよう。

 いやそれよりも食料品を買わないと今夜のご飯もないんだぞ。髪の毛よりもご飯。さっきのゼッタイ! はもといで。


 俺は実質昨日引っ越してきたばかりなので近所に何があるのかさえこれっぽっちも理解できていない。せめてスーパーマーケットとホームセンターぐらいはおさえておきたい。

 今朝、学校へは予定通り徒歩で来たけれど、一時間以上かかった。迷わなければもう少し早かったハズ。都心ほど目印や案内が少ないと想定していなかった。


 レジュメも見ずに余計なことを考えていたらいつの間にか担任の先生が教壇にいた。

 佐藤あゆみ先生。先日編入の挨拶に行ったら非常に丁寧に説明をしていただいた。

 一応信頼のおける大人のひとりに入れておいた。第一印象大事。因みに同席していた教頭を除外しているのは彼が自己保身に走りそうなタイプだったからだ。


「おはようございます。今日から皆さんは高校二年生です。中弛みするとよく言われますが、そう言われないように頑張って勉強に部活に精を出してください。さて、初めに――」


 定形の挨拶から近々の行事予定をお話しいただく。特筆するようなことはなかったけど、佐藤先生はやはり人気者のようで、時たま合いの手っぽい掛け声が男女の双方の生徒からかかっていた。


「――では、連絡事項は以上なので。次は皆さんの自己紹介とその後はお待ちかねの席替えに移りたいと思います」


 うーん。やっぱりやるのか。自己紹介。


 俺の場合、都内トップクラスの進学校から平均的な県立高校に編入なんてもの凄く異色だし、千葉で生まれて世田谷で親に捨てられ次の実家は養父母の家で横浜、現在住んでいるのがここの高校から徒歩通学圏内の築三〇年の賃貸2LDKマンション。2LDKなのに一人暮らし。


 怪しさしかない。ラノベの主人公のプロフィールのほうがまだ一般的だよ。


 俺にはその他言えないこともいっぱいあるので、昨日考えた無難そうなストーリーで自己紹介をこなしてしまうことにする。


「では次、君方くん。お願いします」


「はい。俺は君方漣です。漣はさんずいに連なると書くさざなみという字です。都内の高校から編入してきたのでこの高校のことを色々教えてもらえると助かります。」


 滑り出しは上々。


「趣味は特にはないですけど、深夜アニメはたまに見ます――」

 ザワザワ……


「あと読書もしますが、あまり文学的なものは得意ではないのでライト系の小説なんかよく見ますね。異世界物なんか心躍りますから――」

 ザワザワ……ザワザワ……


「あ~ 運動はですね、最近はやってないのですが、昔は瓦とかよく割っていました。今でもたまに腕がうずきます。はやく皆さんに溶け込めるようにしますのでよろしくおねがいします」

 シーン……


「あ、終わりです。けど?」

「あ、ああ。ありがとう君方漣くんでした。拍手」

 パチパチ……ぱち。


 あれ? ちょっと想定していたクラスの反応とは違うような気がする。


 一時期あまりにもリアルが辛すぎたとき、転生物とラブコメ物のラノベを何冊か読んだことがあった。辛い現実から逃避するには絶好の娯楽だったんだよね。

 その小説の一つがアニメ化されたと言うのでそれだけは見たんだけど、それってそんなに特異なことだったのかな? 前の高校ではそこそこ読んでいる奴らがいたような気がするのだけれど、後で誰かに聞いて確かめてみよう。


 自己紹介にアドリブで運動系の話も入れてみたけどウケが悪かった。瓦割りって人の集まるイベントでは結構ウケが良かったはずなのだけどな。

 あれって昔、叔父さんいや誠治父さんに演出が派手だからって客寄せの見世物としてイベントで俺がやらされていたんだよな。


 そっか。あれも二年以上前のことだから、今はもう瓦割りイベントって廃れたのだな。


 たぶん、きっと。



評価いただけると嬉しいですので、よろしくお願いいたします。

次話もよろしくお願いいたします。

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