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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

万年3位の男はモブに徹したい〜万年3位の器用貧乏ニートなのに王女から求婚されて困ってます〜【短編版】

作者: Colut Sholom

 俺は万年3位の男だ。

幼年学校の頃から士官学校までずーっと、座学も体を動かす訓練もみんな3位だった。


 3位以内ならいい方だろ。

銅賞でも取れないよりまし、贅沢言うなよ!


 俺はそれをみんなから言われてきた。

だが人間、上を目指したいものなんだ。どうせなら1位になりたい!


 だが、無理だった。

まるで呪いでもかけられてるみたいに俺は3位のままだった。


 物語の主人公とかは1位みたいな人間ばっかだよな?羨ましいよな?俺もそれを目指してた。

なのに俺は万年3位。まぁ才能って言われたらそれまでだけどよ。


 クラスメイトにあるやつがいた。

数百年ぶりの勇者で、貴族生まれで、イケメンなやつだ。


 俺のいた士官学校は田舎も田舎にあるところだった。

いなかっぺが集まるようなとこだ……そこになぜか伯爵家の御曹司のエリートが入学してきた。


 どう見ても怪しいしやばいよな?

俺も周りに俺より実力ないやつばかりばっかだし1位になれる!って息巻いてたのにそれだよ。まぁ甘ちゃんは痛い目見るってことさ。


 ん?たとえ3位だとしても軍では優遇されただろ!って?

残念ながら、ど田舎の平民生まれの3位野郎は軍では中途半端に見られるらしい。ど田舎士官学校で2位にもなれないやつは3位以下の人間からもゴミとして見られるらしい。


 まぁだが、そんなクソな軍にいていいことがある。

昼飯時にキレイな姫様が来てくれることだ……唯一の癒やしだな。




「オ、ス、カー!今日はどんなご飯食べてるんですか?」

「あ、姫様。今日もそんな大したもん食べてないですよ」

「屋台のですか〜?」

「まぁ、そんなもんですね。安月給なんで」

 真夏の昼下がり。王城の庭の中で昼飯をくおうとしてたら、どこからともなく現れた金髪紅眼の姫様……正確には第三王女のカタリナ様が目をくりくりさせながら俺の飯を見てきた。


 飯って言っても本当に大したものじゃない。

薄く切ったぼそぼその黒食パンでなんかを焼いた薄い肉とキャベツの酢漬けを挟んだサンドウイッチ。


 飲み物は安めのユモンの実の絞り汁だ。 

原液だと酸っぱいし喉に来るから水と半々で割られてる。まぁうまいもんじゃないけど暑い日とかはコレが一番コスパいいんだ。

 

「ユモン水ですか?ちょっといただきますね〜!」

「あ、ちょ姫様!腹壊したらどうするんすか!」

「すっぱまずい!でも、慣れたら美味しいかもですね!」 

 俺から木のコップを奪い取れば一口ユモン水を飲んでは目と口をしわしわにして酸っぱさに悶絶し、そしてそう言葉を放つ姫様。まったくぶれねぇなこの人。


「姫様。何度も聞きますけど、どうやって城から抜け出てるんですか?いくら自由にされてるからって軍の区域に来るのはまずいでしょ?」

「うーん?それは企業秘密ですよ〜」

「いつも昼に来ては他人ひとの昼飯つまんでるんですからそれくらい教えてくれてもいいじゃないですか」

「オスカーはすぐバラしそうなので嫌です!あ、そうだっ」

 話題をそらしたな。

まぁ、そこまで追求するようなことでもない。

姫様は無駄に可愛いその美貌をふりまきながら、わざとらしく唇に人差し指を当てて頭をこてんとかしげる。  


「オスカーって実力があるのに、なんでいまだに兵卒長なんですか?」

「いや、姫様。買い被りっすよ……」

「だってオスカーは士官学校で3位をキープしてたんですよね?それで近衛軍に入れたんですよね?しかも近衛軍に入ってもう4年ですよね?」

「スゥー……まぁ、今年でそうなりますね」

 痛いとこ突いてくるなこの人。

あと姫様に俺のプライベート知りすぎでしょ。さすが王族ってところなのか?


「あなたと同じ士官学校で20位くらいだった人が近衛軍で兵卒長より二周り上の筆頭百人隊長なの、おかしいと思わないんですか?」

「まぁ士官学校の実力が全てではないですし、俺の実力が悪いだけっすよ姫様」

「そうなんでしょうか。でもオスカー。少しくらい不満はないんですか?」

「いや、まぁ文句は言えないっすよ。金もらってんですから……」

「オスカー。私が言うのもなんですけど、実力に比例してお給金貰うのが軍隊ですよ?」

 まぁそんくらい気づいてるよ。

俺が士官学校卒業してない人間にも4年の間に抜かれて最初の階級の兵卒長のままなのはおかしいって。

昇級できるくらいの基準は確かにこなしてるはずなのに、昇級できねぇのはなぁって。


 でもまぁ、お上には逆らえないし。

なにより俺は万年3位だしこういうのがお似合いなんだよ。


「どうせ平民の俺は才能なんてないんですし、上はお貴族方がやればいいんすよ。平凡に暮らせたらそれでいいんっす」

「むぅ……オスカー、そうやって卑屈になるのは悪い癖ですよ?あなたのことを凄く思ってる人だっているかもしれないじゃないですか?」

「あはは、そんな人本当にいるんすかね〜」

 どことなく、姫様が不満げな表情になる。

あれ?なんか気に触ることしたか俺?

 

「まぁ、姫様。俺は今の階級に満足してますし大丈夫っすよ。それに昼休みも終わりますし、そろそろ帰らないと陛下にどやされますよ」

「ん?あ〜……確かに、そうですね。じゃあまた明日昼休みに来ますから美味しいの用意しておいてくださいね?約束ですよ」

 そうしてカタリナ様は俺に手を振ってはどこかへ歩き去っていった。

未だに一年くらい昼飯時で遭遇しては話してるけど掴みづらい人だよな、あの人も。






「おい、オスカー兵卒長ぉ」

「ロナルド筆頭百人隊長殿じゃないですか。お仕事お疲れさまです」

「お前さ、まだ軍辞めないわけ?」

「まぁ、仕事には満足してますし金も貰ってますんで」

「はぁあ……これだから無能はさぁ。さっさとやめたほうが楽だぜ?」

 金髪でぱっつんのいかにもな貴族男。

ロナルド・フォン・フロンギー。フロンギー子爵家の次男坊らしい。


 まぁど田舎士官学校でクラスメイトだったやつだが、貴族のくせしてあんなど田舎に来るってことはだいたいろくでもないやつってことは分かってる。それでも20位以内にはいつもいたし近衛軍に入れてるから実力はあるんだろう。俺と違って世渡りも上手そうだ。


「士官学校のときもよぉ。平民のくせに無駄な努力して3位とかなってたけどよ。へへっ、ウェブリーとアイツにはいっつも勝てなかったじゃねぇか」

「まぁ、自分は平民ですしあの頃も若かったので許してください。あと、前通してもらってもいいですか?」

「そんでもって調子乗って近衛軍に入ったのに兵卒長のまんま!お笑いだぜまったくよぉ!」

 まぁ正直相当面倒くさい奴だけど、こいつも管理職だしストレス溜まってるんだろう。

それに3位から上には上がれなかった上に万年兵卒長なのは事実だし反論する余地はない。たださっさと前をとおしてくれないかな。


「士官学校のとき、俺と模擬戦してお前が勝ったけどよ……あれは俺の調子が悪かっただけなんだぜ?」

「うっす、まぁ筆頭はお貴族様ですもんね。平民に負けることはないと思います」

「わかってんならいいんだよ!わかってんならよ!へへへ!」

 あーめんどくせぇ。

顔色伺うのばっかだな俺……まぁ平民で近衛軍に入ったらこんなもんなのかなぁ。


「あの、ロナルド筆頭百人隊長殿。今から業務があるので向こうに向かわないといけないんですよ。ですので、少しずれて頂いても構いませんか?」

「あ?おう、そりゃすまなかったな……なら通してやるよ」

 お、そこらへん素直なんだな。

と思ってたら、通せんぼのまんまだ。性格わりぃなこいつ……士官学校の頃から薄々知ってたけど。


「えっーと、これは?」

「俺はよぉ。お前自体がここにいる時点で気に障ってんだよ。――土下座しろよ」

「は?」

「土下座して、すみませんロナルド様そこを通してください〜、ってお願いしたら通してやるよ。頭をすりすり床にこするのも追加な。さっさとやれよ、平民野郎」

 “そんなこと“か。

いいぜ、階級が上なのはそっちだからな。


「わかりました」

「きぇひぇひぇ!ならさっさと土下座しろよ!ほら、早くしろ!」

 周りの兵たちが俺らを見てるのを知ってるな、こいつ。

俺が土下座して情けないとこ見せてるのを見せつけたいわけか。しょうもねぇな。ガキかよ。


 でもまぁ、俺は所詮モブだ。

階級は上のやつがモブより上なのは当たり前……そうだよな。なら従わねぇとな。


「おら、さっさと膝つけよ。早くしろよ!」

 膝を地面につける。

ロナルドの顔が笑ってるのがわかる。気持ちよさそうだな、こいつ。あぁー……『殴って』やりてぇなぁ!


「おら、さっさとしろ!さっさと土下座、さっさと土下座!んぁ?」

「うるせぇクソ野郎ォォォォォォ!」 

「ごげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!??」

 渾身のアッパーがクソ野郎の顎を穿つ。

小さい骨みたいなの……多分歯がぷひょおおおお!といくつか空を舞っている。これは決まっただろう。


「士官学校のときからさんざん絡んできやがって!貴族相手、上司相手だからこっちが下手に出てたらいい気になりやがってよぉー!ふざけんじゃねぇぞクソ野郎!!」

 げしっ、げしっ、と気絶したロナルドの顔面を蹴りまくる。

この際こいつがゴブリンみたいになっても関係ねぇ!クソ野郎!クソ野郎!死ね!死ね!二度と顔見せんじゃねぇ!


「平民キックゥ!平民キックゥゥゥ!」

「兵卒長!やりすぎです!もう気絶してますよ!」

「みんなぁぁぁぁ!兵卒長を止めてくれぇぇ!」

「兵卒長、ロナルド筆頭死んじゃいますよぉお!!」












「それで、軍をクビにされたんですか?」

「あっはい、まぁ。そっすね……全治3ヶ月らしいっす」

「今日昼いるのは書類整理で出勤したから?」

「まぁ、そっすね。ついでに姫様にもお別れの挨拶ってことで……」

 姫様が少し寂しげな表情をする。

ん?普通に笑って再就職頑張ってねニートくん!くらいは言われると思ってたんだけど……。


「君は私をなんだと思ってるんですか?」

「え、口に出てました?」

「バッチリ出てましたよ〜。さすがの私でも傷つきますよ?」

「あ、その、すんません。これ、謝罪の印……っていうか今まで仲良くしてくれたお礼、なんですけど」

 しくしくと嘘泣きをする姫様。でも案外メンタル弱い可能性があるのでネタにするのはやめて俺も反省しよう……と思いつつ、姫様にそこそこ高品質な感じの紙袋を渡す。


「これは?」

「あー、王都で結構有名なお菓子屋の高級ユモン水っす。屋台のユモン水の100倍くらいの値段してびびりました。砂糖入ってるらしいっす」

「へぇ〜、わっ!これ私が朝飲んでるやつと同じじゃないですか!」

「えぇ!?」

 うそっ、王族やばすぎ?

まぁそりゃそうだよな、王族だもんな、いいもん食って飲んでるよな。


「でもすっごく嬉しいですよ!オスカー。私こんなふうに友達に贈り物してもらったの初めてなので!」

「あっ、そうなんすか?そんなふうに言ってもらえて俺も嬉しいですよ姫様!」

 きゅぽん!と空気の抜ける音が聞こえる。

見れば、姫様が瓶入りの高級ユモン水の封をけていた。


「ごきゅっごきゅっ、なんかいつものより美味しいです!」

「姫様……そんな平民相手にお世辞なんて……」

「お世辞じゃないですよ!本音です、本音!」

「いやだって姫様がいっつも飲んでるのと同じなんでしょ」

「違いますって!……というより、なんで私がオスカーといっつも会いに来てるかわかってるんですか?」

「え?ペット感覚では?」

「いや、そういうのではなくて!私はオスカーのことが好きで来てるんですよ!」

 え?

いや、え?


 



「え、まじすか?」

「マジに決まってるでしょう!二度も言わせないでください!恥ずかしい!」

 見ると、いつもは飄々(ひょうひょう)としている姫様の顔が恥ずかしく真っ赤に染まっていた。それこそ、夕焼けみたいに。


「えっと、Likeのほう?」

「めちゃくちゃLoveですよ!あなたに求婚してるんです!今私は!」

「え……ちょっとすっ飛ばしすぎて何がなんだか……理由とかはあるんですか?」

「それはっ……言え、ないです」

「えぇー?」

「とにかく!返事をしてください!好きなのか!好きじゃないのか!」

「えっー、えー……」

 ……。

逃げよう。


「姫様すみません!それではまた会う日まで!」

「あ、こら!逃げないでください〜!」

 ニートが姫様養えないし、ニートがokしちゃったら陛下から斬首刑されそうなんだよ!!

でも結局OKしちゃいそうなんだよなぁ……と心の片隅で思いながら、俺は青い空の下で全力疾走するのであった。

 

  









 


「お嬢さん、そこで何してるんすか?」

「ひっく、ひっく」

「あー、そんな泣かないでくださいよ。親御さんと離れたんすか?」

 雪の降る王城の軍管轄の中庭。

冷たく白く染まった芝生の上で、一人の少女が泣いていた。

そして一方で、少女をなだめようとしている一人の男もいた。


「ひっく、あなた、誰、ですか?」

「あ、俺っすか?俺はオスカーって言います。ただのオスカーっす!お嬢ちゃんは?」

「私、私は……知らない」

「名前知らないんすか!?記憶喪失?」

「違う!……お母さん、死んじゃったの。ひっく、私今すっごく悲しいの。だから、そっとして!!」

「あー。そりゃ災難でしたね……」

 男……オスカーは少女の視線に合わせるようにしゃがむ。

少女は寒さよけのフードを被っていて顔はわからない。ただ涙に濡れたルビーのような瞳がオスカーを見つめている。


「でもそんなかわいいんすから鼻水垂らしてちゃだめっすよ。それに寒いし中に入らないとお嬢ちゃんも死んじゃいますよ?」

「お母さん、いないならもう死んでもいいの!だからほっといて!」

「こんな雪の中で泣いてるお嬢ちゃんほっとけるやつはいないでしょ……うーん、どうしたもんか」

 難しげな顔で思案するオスカー。

そしてぽんっと手を叩き思いついたかのようにごそごそと持ってきていた袋を開き始めた。


「口に合わないかもしれないけど、お嬢ちゃんにいいものあげるっす」

「ふぇ?」

「じゃーん!ユモン水の温かいやつ!屋台で買ってきて飲もうと思ったけど、お嬢ちゃんにあげる!」

 そういって袋から取り出したのは、まだ手がほんのり赤くなるほどに温かいユモン水の瓶だった。庶民の味ともいえるユモン水。

山吹色の果汁が水に溶け込み薄金色を醸し出すそれは、よく見ればとても美しい。


「わぁー。きれい……」

「え、きれい?あー、見慣れちゃったけど確かにきれいっすね。そういや、俺も子供の頃はよくユモン水の中にさくらんぼの蜂蜜漬け突っ込んで飲んでたなぁ。水ん中で蜂蜜が溶けて金色のほどけた糸みたいになるんすよ。んでさくらんぼも宝石みたいになってね」

「ほぇ〜」

 少女はすっかり泣くのをやめて、瓶入りのユモン水を手に取る。

冷えていた青白い手が、ほんのりと温まって肌色に戻っていく。


「おじさん、ありがとう!」

「あーまだお兄さんなんすけど……元気になったかい?お嬢ちゃん」

「まだ……だけど、でもありがとう!」

「あはは、いいってことっすよ。次会ったときはさくらんぼ入りのやつおごってやるっす」

 そう言って彼はがしがしとフードの上から少女を撫でた。

少女は嬉しそうにユモン水を抱えながら、にっこりと笑うのだった。


 四年前の冬の出来事。 

それを彼が覚えているのかはわからない。

もし少しでも面白いと思っていただけたら感想、評価、ブクマなどなど……ぜひよろしくお願いします!


また、別で小説を書いています!もしよろしければそちらもよろしくお願いします!

https://ncode.syosetu.com/n1986gm/

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