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8.人は顔じゃない

 正装したキャロラインの前に、アイルの姿は霞む。

 アイルは何事もなかったかのようにフードを元に戻すと、座っていたソファーに戻った。

「それで、何の話をしていたかしら?」

 アイルがミアを見る。どうやらキャロラインのことは触れないことになったらしい。

「造形美を語るには見た目が大事だって話だったが」

 そしてどうやらキャロラインはまだそのことにこだわるらしい。


「そんな話したかしら?」

 そしてアイルはその話すらなかったことにしたらしい。

「見た目など、やはり関係ないだろう?」

「……そうね。見た目は関係ないようね」

 アイルの言葉に、キャロラインがニヤリと笑う。

「やっぱり、顔は頭についているだけだから、どうでもいいだろう?」

「え? いや、それは……」

「そうですアイル様。人間、顔は重要じゃありません! 私としては、ミカルノ様がアイル様にはピッタリだと思います」

 ミアはここぞとばかりにキャロラインの言葉を借りた。


「それとこれとは違うわ」

 だが、アイルは抵抗するらしい。ミアは奥の手を出すことに決めた。

「アイル様。生憎私がご紹介できる顔の造作がいい人間は、一人しかおりませんの」

「誰?!」

 アイルの声が跳ね、瞳が煌めいた。アイルはやはり顔にこだわりがあるらしい。

「アイザック・グルグガンですわ」

 アイザックは性格はひどいが、浮名を流すだけあって、顔だけはいい部類と言えるだろう。そして、独身だ。

「アイザックですって?!」

 カッとアイルが顔を赤らめる。それは、照れではなく、怒りのためだ。


「ええ。アイザックならば、ご紹介できると思います」

 レインもこの作戦は聞いていたため、落ち着いて大きく頷いた。アイルが顔がいい人間がいいとごねたら、アイザックの名前を出そうと決めていたのだ。

「嫌よ! どうして私がアイザックなんかと!」

 ミアは首を横にふる。

「ですが、顔という点と、生活レベルを下げずに済む、という点ではクリアしていますわ?」

「嫌よ! お断りだわ! それに、アイザックはあなたと結婚するんでしょう?!」

 ミアに向けられた言葉に、ミアもレインも唖然とする。もしかしたらアイザックはミアと結婚するとうそぶいて歩いているのかもしれない。


「そんな事実はないだろう。ミアには他に婚約者がいる」

 キャロラインが肩をすくめる。

「え? でも、ロット様が」

 アイルの言葉に、またもやミアとレインは戸惑う。

 少なくともロットとアイルの婚約破棄が行われたのは、半年前のことだった。つい最近の事ではない。なのに、アイルの情報源がロットであることに、二人は困惑したのだ。

 半年よりもっとその前にも、確かにアイザックからの結婚の申し出はあったが、断っていた。


「その話はいつ聞いたんですか? 最近ですか?」

 ミアの問いかけに、アイルが憮然とした表情になる。

「婚約破棄される前に決まってるでしょう?!」

 ミアとレインは首をかしげる。どうしてそんな話が半年以上前に広がっていたのかが全く分からなかった。

「あの、ロット様は、どこでその話を?」

「アイザックから直接聞いたらしいわ。あの家はグルグガン商会を使っているから」

 なるほど、とミアとレインは納得する。


「少なくとも、我が家がアイザックとの結婚の話を受け入れたことはありません」

 レインが苦笑して答える。

「そうなの? ……アイザックはもう決まってるって話し方だったみたいだけど?」

 ミアとレインは顔を見合わせた。少なくとも半年前には結婚の話を受け入れる余地など全くなかった時だ。

「父はきっぱりと断りましたし……アイザックがそういうつもりだって話だっただけじゃありませんか?」

 ミアが首を横にふって事実と違うと告げる。

「……そうなのかしら? ロット様はダイアン伯爵もその結婚に喜んでるって話していたんだけど?」


「……ダイアン伯爵? 伯爵が、どうしてグルグガン家とサムフォード家の結婚など気にするんです?」

 レインの問いは当然だった。少なくともグルグガン商会を贔屓にしているダイアン家とサムフォード家には、何の接点もない。

「流石にそれは分からないわ」

 アイルが肩をすくめる。そして慌てたように続ける。

「私はアイザックとの結婚なんて御免だわ!」

 ミアとレインも話が元に戻って、何の話をしていたか思い出した。


「ですが、顔にこだわられるのであれば……」

「嫌よ! そんな顔なんていらないわ! しかもアイザックは人の話を黙って聞けないんじゃないの?! アイザックと結婚するくらいなら、話を黙って聞いてくれる人の方がマシだわ」

 アイルの口から望む言葉が出て、ミアたちはホッとする。

「では、ミカルノ様とお会いになりませんか?」

 ミアの問いかけに、アイルは渋々頷く。

「会うだけならいいわ」

 ミアもレインもホッとした。少なくとも会うのだがまず第一だ。


「でも」

 アイルの声に、ミアとレインはギクリとする。また新たな条件が付けられるのかと思ったせいだ。

「私が良くても……相手の方がダメって可能性はあるでしょう?」

 トーンの落ちた声に、ミアはホッと息をつく。

「大丈夫ですわ。ミカルノ様は断りません」

 ミアは断言したが、レインは不安そうにミアを見た。

「そう。……ねえ、あなた占い師なんでしょう? 私とミカルノ様の相性は、どうなの?」

 アイルがキャロラインを見た。まだ不安があるらしい。


「そうだな。……お前がいつも通りでいられる相手だとしたら、大丈夫だろうな」

 カルロをモフモフする手を止めたキャロラインの言葉に、アイルがホッと息をついた。

「そうなのね! ……じゃあ、会う時にいつも通りでいればいいのね?」

 アイルの言葉に、キャロラインがコクリと頷いた。

「わかったわ。じゃあ、ミア様。このお話、進めておいてくださる?」

「畏まりましたわ。ミカルノ様とお会いする日程が決まり次第、お知らせいたします」

「よろしくね。さ、もう用はないわ。帰りましょ」

 アイルが立ち上がる。ミアとレインもその後ろに付いて行く。キャロラインは勿論、カルロをわしゃわしゃと撫でまくっている。


「では、ごきげんよう」

「ありがとうございました」

 フォレスの押さえる扉から去って行くアイルを見送って、ミアとレインは顔を見合わせた。

「キャロライン様って、予知もできるの?」

「まさか。魔力があるから予知ができるとか聞いたこともない」

 二人は首をひねってまた応接間に戻る。

 応接間には、隣の控室にいたジョシアが戻ってきていた。


「キャロライン様は、予知ができるんですか?」

 ミアの問いかけに、キャロラインが首を振った。

「そんな力はない」

 きっぱりとしたキャロラインの言葉に、ミアとレインは首をまたひねる。

「でも、キャロライン様。二人の相性はいいって言ったじゃないですか。何を根拠にあんなこと」

「レイン。私はいつも通りにいればいい、と言っただけだ。それでいつも通りでいて相手が受け入れられればそれは相性がいいってことになるだろう?」

 ミアが苦笑する。


「キャロライン様。それは……ごく当たり前のことですよね?」

「ああ。そうだな。ごく当たり前のことしか私は言ってない。だが、あのアイル嬢は、私の言葉に納得して帰って行ったから、それでいいんじゃないか?」

「騙したみたい」

「いや、騙してなどいない。勝手に勘違いしただけだろう」

 きっぱりと言い切るキャロラインにミアもレインも苦笑しか生まれない。

「……怒らないかしら?」

 ミアは肩をすくめる。


「それよりも、相手の方がアイル嬢を拒まないと言っていただろう? あれは、なぜ断言できるんだ?」

 キャロラインの問いに、ミアはレインを見る。

 レインは少しだけ考えて、口を開いた。

「キャロライン様は、他の令嬢がいらっしゃるときには、いつもこちらにいるつもりですか?」

「ああ。勿論だ」

 キャロラインの言葉に、ミアは首をかしげる。

「キャロライン様にとって、面白いことってあるかしら? ……キャロライン様は、誰が誰と結婚するかって話を聞きたいんですか?」

「いや」

 即答したキャロラインに、ミアが困惑した表情になる。


「ならば、なぜ?」

「カルロが私の部屋に来てくれないからだろうな」

 なるほど、とミアとレインは頷いた。ジョシアは同情した視線をカルロに向けた。

「では、今後も応接間での会話は聞かれるつもりなんですね?」

 レインの念押しに、キャロラインは首をかしげる。

「気になれば口は出すかもしれないが、はっきり言って会話の内容などどうでもいいのだ」

「……ならばなぜ、ミカルノ様のことを知りたいんです?」

「断言していた理由が知りたいだけだ。それ以下でもそれ以上でもない」

「他言しないと約束できますか?」


「他言? なぜこの場の話を誰かに話すのだ? 話す相手がそもそもいないが」

 はぁ、とレインがため息をついてミアを見た。

「キャロライン様は、誰かに言うようなことはないだろう。……言ってもいいか?」

 ミアが頷く。

「そもそも、知っている方は知っていることですしね」

 頷いたレインが口を開く。

「ミカルノ様は……その……」

 言いにくそうに口ごもったレインはミアに助けを求めた。

「ミカルノ様は、虐げられるのがお好きなんですって」

 躊躇したレインと対照的に、ミアはあっさりと告げた。キャロラインは首をかしげたが、ジョシアは口元を覆って顔を背けた。


「どういう意味だ?」

「そうですね。……他にどう説明したらいいんでしょう?」

 ミアが眉根を寄せる。と、キャロラインがジョシアを見た。

「ジョシア。お前、わかったんだろう? 私にわかるように説明しろ」

 今度はレインが同情的な視線をジョシアに向けた。

「……え、いえ。私にも、ミア様以上の説明は出来かねますので」

 逃げた、とミアとレインは思ったが、ジョシアを責める気にはなれない。当然の反応だと思うからだ。

以前は、ミカルノが出てくる短編(リズが主人公だった)が他にあったんですが、探してみたけど、どうやらミカルノが出てくる短編は捨ててしまったようです。読者さんには先の話を読んで理解してもらうより他はなさそうです。

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