宣戦布告
戦争が始まる。
何故いつの時代も人間はこんなに醜いのだろう。
「・・・――グレイラ、それは無理な話よ。」
王妃は静かに言った。
「さっきも言ったはずよ。頭のいいあなたならわかるでしょう?」
「そうだ、グレイラ。お前たちが生きることが私たちの最後の望み。そして、この国の未来なのだ。」
王はグレイラをなだめるように言った。
「・・・納得がいかないのはわかる。だが、お前たちには生きてほしいのだよ。それに、私たちだってみすみす殺されやしないさ。だから、逃げなさい。」
「グレイラ、逃げよう。・・・私はお父様やお母様の望みを叶えたい。だから・・・」
「リリア、あなただけが逃げてください。あなたがこの国の未来なら、私はこの国の望みになります。」
グレイラは一歩も譲る様子は見せない。
「・・・な・・・んで?どうして?!何で戦うの?!!生きたくないの?戦に出ることは死にに行く事と同じでしょ?!いやだよそんなの!!私は・・・誰にも死んでほしくない。」
リリアは声を荒げて叫んだ。
普通の人間なら、誰だってそう思うだろう。死にたくない。大切な人を失いたくない。
別に悪い考えじゃないんだ。誰も、悪くはないんだ。
「わかってます。分かってますよ、そんなこと。」
グレイラは何気ない様子で言った。
「じゃあ、どうして・・・。」
「リリア、あなたが戦いたくないと思うのは、別におかしいことじゃない。人間なら誰だってそう思うでしょう。」
「そうでしょ?!だからっ、グレイラ・・・!」
「でも、それはおかしいと思いませんか?」
「・・・・何が・・・?」
リリアは訳が分からないという様子でグレイラを見た。
「戦いに出る兵士も、皆家族がいて死にたくないと思うでしょう?それに、市民だって皆平和に暮らしていきたいと思っています。なのに、私たち王族だけがこっそりと逃げて生き延びるなんて、おかしいでしょう?」
グレイラは優しく言った。
「グレイラの言っていることは、確かにわかるよ?でも、だからと言って何でグレイラが戦わなくちゃいけないの?」
リリアは納得しない様子で言った。
「私は・・・この国に恩返しをしたいんです。この国のためならば、私は命を惜しみません。」
グレイラがとても自信に充ち溢れた様子言うので、リリアは何も言えなくなってしまった。
「恩返し・・・・・?」
王が訝しげに聞く。
「だから、私は戦います。必ずファルデ王国を倒して見せます。これは、宣戦布告です。」
「待ちなさいグレイラ。あなたは戦争がどんなものか分かっていないわ。被害が出るのは承知の上で王は決断なさった。一人でも犠牲者を少なくするために宣戦布告をしたのよ。何度言ったらわかるの?」
王妃は焦った様子で言っていた。普段は王妃や王を困らせるような事は絶対にしないグレイラが、ここまで言うことを聞かないということは、意思を曲げる気はないと王妃は考えたからだ。
「お母様、私は本来なら此処にいてはならないはずの人間なのです。私は、自分のことはすべて分かっているつもりです。」
グレイラはどこかさみしそうに言った。
「・・・グレイラ・・・あなた・・・まさか・・・・・?!」
王妃は驚いた様子で、大きく目を見開いた。
歯車は壊れた。もう二度と戻ることはない。
そこから見えるものは、悲しい過去か、明るい未来。