本物と偽物
「・・・お母様、何を考えているのですか?」
グレイラは低く単調な声で言った。
「言ったとおりよ。そんなに戦に出たいのなら、先に私を殺していきなさい。」
どうやらお母様は譲る気はないらしい。
「お母様、グレイラ!やめて!こんな時にそんなこと・・・!お父様っ・・・・!!」
助けを求めるように王を見た。
お父様は首を横に振って言った。
「リリア、黙っていなさい。」
正直言って分からない。
なんでお母様が命を懸けてまでグレイラを止めようとするのか、そしてお父様はそれを止めようとしないのか。
「お母様、答えはNoです。私はファルデ王国を倒すために戦に出るのです。そのために、お母様を殺してしまえば、戦う意味もなくなってしまいます。でも、私は行きます。」
「行かせないわ、グレイラ。分かっているでしょ?みんなあなたが必要なの。」
「いやですね、私は行きます。」
「ならばさっさと私を殺せばいいじゃない。」
どちらも一歩も引かない。これではきりがない。
「ではお母様、これではどうでしょうか・・・?」
グレイラが挑発するように笑った。まるで、普段のグレイラからは想像もつかない。
「なにかしら?グレイラ・・・」
お母様もグレイラと同じ様に笑った。
「お母様が私を行かせてくれないのなら、私は首を切りますよ?」
そういってグレイラは、近くにあった果物ナイフを自分の喉元に突き立てた。
「・・・・っ!」
お母様はその言葉に怯んだ。
「グレイラ!だめだよ!そんなことしないで!」
私は叫んだ。
「グレイラ!よしなさい!!」
お母様はとても動揺している様子だった。
お父様はその様子を見て困惑している。
これは止めなきゃ本当に危ない。
「お母様、ならば行かせて下さい。早く、そこをどいてください。」
グレイラはナイフを首に当てたまま言った。
「だめよ!もういい加減にしなさい!!」
お母様は声を張り上げて叫んだ。
いつも何が起きても落ち着いていて、笑顔で対応するお母様がここまで取り乱すのは初めて見たかもしれない。なんでだろう、悲しいんだ。
「・・・・いやです!!」
グレイラは意地でも行く気らしい。そればかりかナイフを当てている首元から血が流れている。
私はそれをぼーっと見つめている。
考えが、私の思考が、体が一瞬動かなくなった。いや、動いていない。
頭の中で誰かが私に何か言っている。
――ねぇ、ねぇ!
だれ・・・?
――・・・さぁ、誰だろうね?
何がしたいの・・・?
――可哀想に。
唐突に言われたその言葉に、何故か私は泣きたくなった。
何が?何が可哀想・・・?
――私が。そして、あなたが。
あなたと、私が・・・?
――そう、悲しくないの?
何が悲しいの?
――お父様もお母様も、あなたには何も期待してないじゃない
そんなわけない・・・。
――本当のことでしょう?だって、グレイラが全て二人の期待を背負っているんだもの。
違う、お父様もお母様も私に優しくしてくれる!
――ねぇ、グレイラが邪魔だと思わない?
?!、何言ってるの!?グレイラは・・・!
――本当は思っているくせに。グレイラが私のすべてを奪ったんだって。居場所も地位も・・・。そう、全てを!!
・・・それは・・・っ・・・!!
――何も言えなかった。言い返せなかった。
何でそんなことを・・・。答えは自分でもわかっているんだ、ちゃんと。
グレイラはいつも私を助けてくれる。
分かってるよ、そんなこと。
でもどうしてだろう、違うって言えない私がいた。
「グレイラ・・・!お願い!行かないで!!」
泣き叫ぶお母様の声で私は我に返った。
「申し訳ございません。お父様、お母様・・・。恩を仇で返すようなことをして・・・。」
「でも、私は決めたのです。だから・・・。」
お母様は泣きじゃくっている。
お父様は静かにグレイラを見つめていた。
「これが、私の願いなのです。たとえ、命に代えてでも惜しくはありません。」
そう、グレイラは静かに言い放った。
「しかし・・・!」
お父様が何か言いかけた。
それと同時に、口から言葉が勝手にとびだしていた。
「お父様、もう、いいじゃないですか・・・。グレイラはここまで思っているんですよ?」
お父様もお母様も驚いていた。
グレイラは嬉しそうにこっちを見ていた。
でも、一番驚いたのは私だった。
――分からない。私はおかしかった。
でも、ひとつだけ分かることがあるんだ。
降り積もった陰は、最後には自らをも呑み込んでしまうことを。
・・・・私は知らなかった。
今回はリリア視点です。
分かりにくくてすいません(汗)