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大きなペン、小さなつるはし  作者: ろーみぃ
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1話 ほの暗い洞の帰り道

 雲ひとつ無い爽快な青空の下、木々が茂る清らかな空気が満ち溢れた大地で、ほんの少しばかりの小さな冒険があった。


 背中に銀色に光る鋭い鶴嘴と、鉱石のたっぷり詰まった鞄を背負い、金属製の円盾と柄が木でできた簡素な造りの鎚矛を携えて、鼻歌交じりに楽しげに歩く耳の長い少女が一人。


 今日の舞台は森の中にひょっこりとある小ぢんまりとした洞穴。立派な鶴嘴で目一杯鉱石を掘り漁った帰りの出来事である。石油灯の優しげな明かりが道をほそぼそと照らし、次に行くべき順路を指し示す。時折姿を表す枝道が帰路につかんとする少女に道草を食っていけと誘惑する。もう少しだけ寄っていこうか、はたまたまっすぐ帰り今日の疲労を労ってやろうかと悩む少女に首からぶら下げた時計が早く帰るようにと少女に提案する。時刻は夕刻。外に出れば真っ赤な夕焼けが空を美しく彩っている頃合いだろう。


「覗いてみたいけど、そろそろ母ちゃんがご飯作ってる時間だしなあ。今日はやめとこう」


 母の作る夕飯は少女にとって毎晩の楽しみだ。出来立てを逃すなどというのは愚かな行為だと、自分に言い聞かせ後ろ髪を引かれる思いながらも来た道を戻ることにする。


 刹那、少女が片足を地面から離した瞬間であった。丁度惜しまれながらも進むことを断念した小さな脇道の一つから大きな声がした。それは人の声のようであり、女性の悲鳴のようにも聞こえた。

 

 夕飯を急ぎたい心持ちではあったが、仮に今の声が人の物であったとしたならば、見殺しにしたことになる。これは安否確認である。決して道草を食うわけではないと、何度もそう思うことにして、外から光指す方向へ背を向けた。出来たての夕飯が食べられないと思うと少し、いや、とても残念な気持ちになった。


 声のする方向へ歩を進める。声は、どんどんと大きくなる。大きくなるにつれて、確信が持てた。これは、人の悲鳴であると。女声であると。


 歩いていた足が早くなる。早足、気づけば駆け足になり、背負っている鞄は上下に揺れ動き、中身が激しくぶつかり合う。石の削れる音が洞内いっぱいに鳴り響いた。


 反響の感覚が短くなってきたことでこの道が終わりへと近づいてくることを知らせてくれる。

揺れる石油灯が四方八方を橙色の光で照らし、駆ける爪先にぶつかった小石が跳ね回る。

心細く照れる明かりが幾つかの影を形作って、声の持ち主とそれの置かれた状況を大雑把に表した。


「大丈夫?生きてる!?」


 詰まった空気を振動させる大きな声で少女は叫ぶ。ただ、目と鼻の先にある答えを求めて、少女は叫ぶ。


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