第七話 方針決定
「わわっ! こ、これ完全に人を殺せる威力じゃん!? 頭おかしいんじゃないの!?」
寸でのところでかわし、怒りながらそう告げる。
実際、レイランの強さは、アリスと同じ程度だ。ただ、アリスはギルドの中でも下から二番目の強さで、世間一般からしたら化け物だけど、化け物からしたらまだ一般的な強さ……何か言葉がおかしい気がするけど、兎に角そういうことだ。
ならレイランは、アリスよりも強い人になら気配に気が付かれていたんじゃないかと言われても、そうではない。
レイランは、冒険者支部組合長という称号を受けているが、彼女の得意分野は隠密だ。そのレベルは僕やリーリアに次ぐと言っても過言ではないだろう。
「ね、ユッキー。こんな危険な人たちとは一緒にいちゃダメだと思うの、お姉ちゃんは。だから、王都に戻って一緒に暮らさない? いーっぱい甘やかしてあげるからさ!」
「だ、大丈夫? そんなこと言っちゃって……」
「え、何言って――うひゃあぁぁぁぁぁっ!? 何やって、アホォォォォっ!!!」
レイランの言葉を聞き、一瞬で大広間の殺気が膨れ上がり、やがて爆音が響き渡った。
えーっと、確認できるのはユレイアにアリス、アイとルーウェンかな。予想するに、ユレイアとアリスは、馬鹿にされたことに対する怒り。アイとルーウェンは、かなり僕のことを慕ってくれているから、連れ去ろうとしたことによる怒りといったところかな。
シャロンは単純にアホらしくて参加してないだけだろうし、バレンは、正々堂々と戦いたいから、こそこそ戦うレイランとは昔から合ってなかったし、興味がないのだろう。……やばっ、僕天才?
レイランが捕まり、ユレイアが首に剣を当てがったところで漸く仲裁を入れる。レイランは泣いて縋ってきて、ユレイア達は気に食わないと怒っていたが、どちらも適当に受け流してレイラン用の椅子を創り出す。
「はい、適当な場所に座って」
「じゃあ、ユッキーのとな――嘘です嘘です! しゃ、シャロン。隣失礼するね?」
「……あまりうるさくしないでよね?」
嫌そうにしながらも椅子を横にずらしてレイランを入れてあげる辺り、シャロンまじ神。……あれ? まだずれるの? ……あ、ごめん。前言撤回。ただレイランに近づきたくないだけでした。シャロンさりげなく酷い。
「というか、こうなること何となく分かってたんでしょ? レイランってマゾだったりする?」
「んなっ!? 酷いよ、ユッキー……。ウチはただユッキーへの妹愛が抑えられないだけで――」
「お・と・う・と、じゃなかったっけ? あ、いや、まぁ弟でもないんだけどさ」
「うわっ、ユッキー優しい~! 他の誰かさん達ならこれだけでも殺気をバンバンに当ててくる――ひぃっ!? もう馬鹿しかいないじゃん、このギルドぉっ!!……ひうっ!?」
「……もうさ、話進まないから茶番は外でやって?」
「「「「「「「……っ!?」」」」」」」
レイランが挑発してはみんなから殺気を当てられ、そしてまた懲りずに挑発して殺気を当てられの繰り返しに痺れを切らし、軽く殺気を込めて注意したところ、何故か全員が悲鳴を上げ、数名は椅子から落ちてしまった。
やばっ、つい殺気を出し過ぎちゃったかも。二日前、といっても六百七十年前か。は、毎日が強敵との戦いのせいで、殺気を遠慮なく撒き散らしてたからなぁ。抑えられるように、勘を取り戻しとかなきゃ。
「え、えっと、ごめん。やりすぎた。……でもちゃんとお話はしよ?」
「ひゃ、ひゃい。ごめんなさい、ユキさん」
震える声でレイランが謝り、他のみんなは流れる汗を拭いて安堵の息を吐く。
え、そんなに怖かったの? ほ、ホントにごめん……。
「……それで、何でレイランはここに?」
「えっとね~。ほら、王城に変な手紙送ったでしょ? それで、何か知らないかってウチの所に相談に来たから、何となく意味が分かってね。それに変なギルドが出来たって慌てて報告に来た人がいたからさ~」
なるほど。それで来たのね……じゃなくて、手紙? ギルドは普通に分かるけど、手紙なんか送ったっけ?
ふと、ユレイアが思い出したかのように、ポンと手を叩いた。
「あぁ、確かに数日前に送りましたね。ユキ様の魔力が一気に安定したので、もうすぐ目覚めます的なことは書きました。主要な場所には送ってありますよ?」
ん? てことはあれ? あの戦争の生き残りで且つ各地域の上層部にいる人たちは、みんな僕が起きたことを知ってるってこと?
……僕ってさ。神様、というかリーリアを殺しちゃったから、あの狂信教皇にめちゃくちゃ恨まれてるんだよねぇ。んで、多分あいつのことだし、今もビンビンしてるでしょ?
つまりは、そういうことだよね?
「……リーラス聖王国からはもう、完全に敵対視されてるってことかぁ」
狂信教皇が直接統治する、女神教徒一色の国、リーラス聖王国。現在はどうか知らないけど、かつては大陸で最も勢力のある国だった。それもそのはずで、女神教は当時圧倒的な力を持っていた宗教で、大陸の二十五パーセント近くの人が女神教だったからだ。
リーラス聖王国は、女神教の聖地とされており、当然ながら自然と信者たちが集まってくる。お陰で、あの時は苦労したものだ。……というか何よりも、リーリア本人が、勝手な妄想をされて迷惑極まりないとか言ってたし。
「そういうことになりますね。しかし、逆にあの狂皇には、準備をさせて調子に乗らせておきましょう。あれはボロを出しやすい性格ですからね。それのほうが便利です」
「んー、確かに言われてみたらそうだけど……。まぁ、政策に関しては全く分からないからユレイアに任せるよ」
「はうっ!? ゆ、ユキ様が私に任せると……。つ、つまりは両想い!? はぅあぅ、私はいつでも準備できてますからね!?」
「いや、色々と意味分からないから!?」
机をバンと叩きながら、どうしてその考えに至ったのか謎の言葉を発するユレイアから、少しでも距離を取ろうと椅子を少し引く。
ま、まぁ実際に、政策とか頭使う系には少し弱いからユレイアに任せるしかないかなぁ。それをこっそり潰していく感じでいこう。何回も失敗させれば流石に諦めてくれるでしょ。多分ユレイアは、うまくいかなかった場合、武力行使という禁じ手を使うはずだし、そしたら僕がねじ伏せればいい。よし、完璧!
「リーラス聖王国とかって、何の話をしてるの~? ウチにも教えてほしいんだけど……」
「知らないほうが身のためな気がするけど……というか知らないで話に参加してきたの?」
「そりゃまぁ、ユッキーを見たら盗み聞きなんかくだらない事やってられないし~? そもそもユッキーにバレバレだったじゃん」
「うん、めちゃくちゃ分かりやすかった」
「うぐ~、そんなはっきり言われちゃったらお姉ちゃん泣いちゃうぞ?」
勝手に泣いてなさい。
心の中で突っ込み、適当にあしらう。
ふとシャロンが挙手をし、ユレイアがめんどくさそうに指名すると、立ち上がって喜々とした表情で話し始めた。
「どうせ、みんながユキの側にいたいって言ってるんだから、ルーウェルティア王国は全員独断で行動して、最も優秀な働きをした人が、次の標的を責める際にユキといる権利を手に入れるなんてどう? あれ、この考え、私天才じゃない?」
うーん、最後の言葉はいらない気がしたけど、それが一番丸く収まりそうかもね。特にユレイアとアイ辺りは頑張ってくれそう。……アリスは頑張ってくれるか分からないけど。あ、頑張ってくれなかったら結構ショックかも。
「そ、それですわ! 先に王国をユキに渡した人がユキ所有権をゲットするのですわ!」
所有権って……。でもアリスもやる気でいてくれてるのかな? それなら少し安心。
それに、このやり方、丸く収まるというだけでなく、更なる利点がある! それは、僕が誰かに縛られることなく自由に行動できるということだ!
もし常にユレイアと行動するとかになってたら碌に邪魔することができなかった。でも自由に動けるのならこっそり介入しやすくなる!
「じゃあ、そうしようよ! ね、ユレイアもいいでしょ?」
「……そうですね。それだと王国攻略がしづらくなりそうですけど……まぁユキ様が賛成なら私は構いません。それに、ユキ様との時間が邪魔されることがなくなる権利を貰えるなら好都合といったところです。では、そういうことにしましょう!」
みんなが拍手する中、バレンはめんどくさそうな顔をするも、反論はしなかったため、この案は可決されることとなった。
確かに、バレンは完全な脳筋だからそういうのは不得意だよね。でもバレンにとっては、強いやつと戦闘するのが目標だし、僕と戦う約束をしてる時点であまり参加する意味がないのかな。
「……ん? 王国攻略って……え? どゆこと?」
「はぁ。そのままの意味ですけど? きしょ猫女。 王国をユキ様のモノにするという事ですよ。全く、これだから馬鹿は嫌いなんですよ」
いや、多分意味は分かってると思うよ? ただその意味に困惑してるだけだと思う。
ふと、レイランの動きがピタリと止まり、やがて息を大きく吸った。嫌な予感がし、咄嗟に耳を塞ぐ。気が付いたのはユレイアとシャロンにルーウェン。同様に耳を塞いだところで、レイランの口が開かれた。
「はあぁぁぁぁぁぁっ!?」
あ、アリスとバレンとアイが倒れた。……こわっ。
次話は明日の午前九時です!