第六話 世界征服会議
「それでは始めましょう、世界征服作戦会議を! ユキ様、お願いします!」
「えーっと、それじゃあ、会議を始めます。頑張りましょう」
ユレイアに振られ、適当に挨拶をする。
目が覚めて二日目、朝食を食べ終えてそのまま大広間に連れていかれた結果、始まったのがこれだった。
ルーウェンとアイ以外は顔にどこか嬉しそうな表情があり、ユレイアとアリスなんかはもはや体を左右に揺らして、待ちきれない気持ちがあふれ出ている。
「では、まず最初に最終目標を決めます。……といってもこれはやはりユキ様による世界の完全支配。全ての国が服従し、また、全ての生物がユキ様を崇拝するようになること。これに異論はないですね?」
「異議あ――」
「異議ありますわ!」
ユレイアの言葉に僕が異議を唱えようとするも、割り込んできたアリスの声に最後まで発することができなかった。しかし、アリスが異議を出したということにみんなが少なからず驚きを見せた。
つ、ついにアリスが事の重大さに気が付いた!? もしかしたら、このまま仲間に引き入れられるんじゃないか? ここは更にアリスの意見に賛成して、より説得力を高めよう。
「服従、ではなく全ての国を統一して、ユキの、そしてわたくし達の国を創り上げなくては意味がありませんわ!」
「そうだよ、アリス――え?」
「そ、そうでしたね! 完全に見落としていました。では最終目標は、全ての生物が暮らす、ユキ様が国王の国、ユキ様から頂いた家名を取って、リーヴェルテ王国の建国という事にしましょう!」
パチパチパチとまばらな拍手が大広間に響き渡り、可決が決定されてしまう。
え、えーっと、ん? 国を創る? 全ての生物が暮らす? な、何を言ってるのかな?
「それでは続いて、最初に制圧する国を決めていきましょう。今のところ、私の案ではルーウェルティア王国、グラス帝国、またはエルフの森か夜の国ヴァンプスのいずれかです。龍人の里やリーラス聖王国は大陸の半数以上を征服してからのほうか良いですね」
「……ルーウェルティア王国がいい」
「腹グロイドですか。……コホン、理由をお聞きしても?」
……今すごい呼び方が飛び出さなかった? ほら、すごい顔で睨んできてるし。
にしてもアイが自分から発言するなんて珍しいかも。いつもみんなの会話には入らずに、僕くっついてリンゴジュース啜ってるだけなのに。
「……あの猫女を先に殺しときたい」
「そうですわ! メカ女の発言はあまり賛成できるものがないですけど、今回は良い案ですの。褒めて差し上げますわ!」
「……蝙蝠に言われても気持ち悪い。マスター、褒めて?」
それだけ言うと、アイが椅子から立ち上がって僕の元までテトテトと走り寄り、僕の膝の上にちょこんと座る。
苦笑いしつつも軽く頭を撫でてやり、座りづらそうな体を支えてあげる。
まるで妹みたいな可愛さだよね、アイって。ホント可愛い。最高。
手を離したところで、アイが僕にもたれかかってきたため、思わず笑みを零す。
おいそこの二人、あからさまに殺気を放つな! あと、ルーウェンはもうちょっと動け! 椅子に座ってから瞬きと拍手以外一切動いてないぞ!?
「……ま、まぁいいです。メス豚ロイドは後で私の部屋に来てくださいね? で、実際私もそのアンドロリドの意見には賛成です。反対意見はなさそうなので、ルーウェルティア王国を最初の目標としてよろしいですね?」
再び、まばらな拍手が響き渡る。というか僕以外の全員が拍手をする。
……色々と突っ込みたいところがあるんだけど、何から突っ込めばいいのかな? それともこれは無視の方向で行った方が良さげ?
後頭部を胸にすりすりしてくるせいでくすぐったいアイの頭を抑えて、何も言わずにただ会議を見守る。
「では、役割分担をしていきましょう。まずユキ様にはルーウェルティア王国にて、冒険者活動をしていただきます。私はその仲間ですね。そして、数日後にアリスとルーウェンに、変身して王都を襲ってもらい、華麗にユキ様が倒す。ここの過程で、アイとシャロンに猫女を殺してもらいましょう。バレンはその後に、ユキ様の活躍を多くの人に語り聞かせてください。貴方みたいな人の話なら説得力が出るでしょう。活躍により、ユキ様は王城への入城権利を貰い、そこで私が王族の虫共と接触。ルーウェルティアは、国民から尊敬されるユキ様により王国の支配が成されるというわけです。どうでしょうか?」
お、おぉ~。内容は置いといて、こんなにもすぐに考えられたのすごいなぁ。あ、それとも全ての国に対しての攻略法を考えてたのかな? どっちにしろすごいなぁ。
え? いや別にユレイアの能力がすごいって言ってるだけで、その案自体は全面的に却下ですよ?
「待ちなさいよ! 私が何であの女と接触しなきゃいけないのよ!?」
「……ん、私も無理」
「わたくしだって怪物の役なんか嫌ですわ!」
「俺は戦いてぇんだが? そんな糞みてぇな役やるわけないだろ?」
「私もやはり、主と戦うのは避けさせていただきたいですね。従者ともあろう者が主を攻撃するなど論外です」
「おぉ!」
一斉に始まったユレイアの案へのデモに、思わず驚き半分喜び半分の声が飛び出る。
みんながみんな、キャラが違うからこそ起きたことだ。これほどまでにキャラが違って嬉しいと思ったことはない。
「私は安全そうなユキの隣にいたいわ!」
「……マスターと一緒じゃなきゃやだ」
「ユキと別々なんて……その、わ、わたくしが守ってあげられないですわ!」
「ユキといりゃ、怪物と戦えるんだろ? んならユキの隣を希望するよ」
「主の側にいるのが従者としての役目ですよ、ユレイア様」
「おぉ?」
続けて発せられたみんなの希望に、思わず驚き半分困惑半分の声が飛び出る。
何その変な一致は。あれ、おかしいな。みんなキャラが違うんじゃなかったっけ。
「い、嫌です! これだけは譲れません! 私がユキ様と行動するのです!」
ユレイアも加入したことにより、唐突な言い争いが始まった。アイは何故か自分の席へと戻っていき、怒った顔で席に着いて、言い争いに参加する。
いつも騒がしいアリスは勿論、無口なアイとルーウェルティアも、熱心に、如何に自分が僕と行動するのにふさわしいかを語っていた。
いや、確かにこれぞ議論っていう光景だけどさ。今まではユレイアが内容を淡々と話して、あっさりと拍手が起こるっていう、子供の会議みたいな感じだったし。これじゃあもうただの報告会じゃない? みたいな会議は幾度となくあった覚えがあるもん。
というかさ、急に話が変わって悪いけど、この六花城の警備セキュリティどうなってるの? いくら何でもがばがば過ぎじゃない?
感じていた気配が僕の椅子の後ろに立つと、驚かそうとしていたのか僕の両目を手で覆って耳に息を吹く欠けてきた。
「ならウチがユッキーの隣にいる~。ユッキーはウチといたほうが楽しいよね~?」
彼女の手に僕の手を重ねてごく僅かな電気を流すと、変な声を上げて離れ、痛い痛いと手をブラブラと振る。
「うぅ……。相変わらず酷いなぁ、ユッキーは。こんなのただのスキンシップじゃん! お姉ちゃんにもっと甘えなさい! 反抗期はメッだよ!」
「……うぇぇ」
ぶりっこポーズをしながらそう僕に言い聞かせる彼女を見て、拒絶反応を起こしてしまう。
彼女の名前はレイラン。冒険者組合組合長であるめちゃくちゃ強くてめちゃくちゃ偉い人だ。ただ正確に難があって、何故か僕のことをいもう……弟として扱ってきて、しかも過剰なシスコ……ブラコンなためにめんどくさい。
なんでも昔に妹が死んじゃったらしく、僕と面影が重なるのだとか。
「むふふ~、久しぶりだね、ユッキー。元気してた?」
「あ、まぁ、うん。元気、だったのかな? レイランも久しぶり」
「もう! レイランじゃなくてお姉ちゃんと呼び――」
「「猫女ぁっ!?」」
ユレイアとアリスの声が響き、レイランのもとに巨大な火の球と電磁砲がぶっ放された。
次話は夜九時です。