第二話 会議
「ということで冒険者組合に行こう!」
宣言を終えた後、旗をしまってそそくさと大広間に移動し、長机を囲うようにして皆が席に着く。僕はギルマスということで、所謂お誕生日席に座り、静かになったところでこの提案をした。
ギルド再結成と大きく宣言したはいいものの、実際ギルドというのは冒険者組合にギルドの登録をして漸く結成となるので、言っちゃえばあの宣言は全く意味がないのだ。
「あー、マジか。そんなんしなきゃいけねぇのかよ」
「そうですわ。そもそもわたくしはこのお城から出たくないのですけど。勝手に行ってきてくださる?」
バレンとアリスが立て続けに愚痴を言ってきたため、むぅと口を膨らませ二人にジト目を向ける。バレンは気まずそうに目をそらし、アリスは顔を真っ赤に染めて俯いた。そしてユレイアは何故か鼻息を荒くし涎を啜った。
ふっ、僕には最強の武器があるんだよ! ジト目を向ければ全員僕の言う事を聞いてくれるという原理不明の武器がねっ!!
「あぁ、ユキ様を食べてしま……んんっ! 駄々をこねるのはよくありませんよ。それにこれはしょうがないことなのですから拒否権などありません。諦めるべきですね」
い、今一瞬恐ろしい言葉がユレイアから聞こえた気がしたけど気のせいだよね? 気のせいなんだよね?
疑念を振り払い、ただ無表情で正面を見つめ、意見を言いそうにないルーウェン、アイに尋ねてみる。
「私は皆様の意見に従うまでです。こちらのことはお気になさらず」
「……マスターの命令に従うだけ」
あぁ、二人に聞いた僕が馬鹿だったよ……。
頭を抱えて、机に突っ伏すと、こんこんと左から腕をつつかれる。顔を上げそちらを見ると、同情するかのように僕を見つめるシャロンがいた。
「シャロンぅ……。僕ってそんなに頼りないかな……?」
涙目でシャロンに質問すると、何故か呻き声を出されてしまう。
「そ、そんな目で見つめないでよ……。とにかく! これはやらなきゃいけないことなんだしどうしようもないでしょ? あんたがお願いすればここにいる皆は言う事聞いてくれるから」
「うぅ……。ば、バレン、アリス。冒険者組合いかないとギルド作れないしお願い!」
「……ったく、そんな顔すんなよ。そもそも俺は反対してねぇから。別に構わねぇよ」
「ば、バレンっ!!」
目を輝かせてバレンをじっと見つめる。
なんだかんだ言ってバレンは結局いいやつなんだよなぁ。めんどくさそうにしながらもしっかりとやってくれるし。人は見かけによらずとはまさにこのことだね。
「あ、アリスは?」
「う、あー、もう! 分かりましたわよ! その代わり今度一緒にお出かけですわよ!」
言葉を聞いた瞬間、席から立ち上がり思いっきりアリスに抱き着く。
「ありがとう、アリス! 大好きだよっ!」
家族としてっ!
すると、アリスからバフン、と聞こえるはずのない音が聞こえ、ぐったりと僕に寄りかかってくる。
全く、アリスもアリスで素直じゃないんだから……。まるで反抗期の妹みたいな感じで微笑ましいよ。かわいいなぁ、もう。
「ちょ、ちょっとユキ様!? なら私だって行きません! あ、でもお願いしてくだされば考えが変わるかもしれませ、あだっ!? 何するんですか、この無駄乳エロフ!!」
「んなっ!? あんただってそうでしょうが!? 大体エロくないわよっ! むしろギルドの中では一番まともだと思うけど!?」
「はぁ!? ユキ様に見つめられるたびに恋に落ちた乙女みたいな気持ち悪い顔してる人の何がまともなのですか!! 私の方がまともですよ!?」
「どの口が言ってんのよ、どの口が! いちいち涎垂らすとか気持ち悪すぎんのよ! たまにユキですら引いてるわよ!?」
突如、ユレイアとシャロンが胸倉をつかみあって言い争いを始めた。お互いに体を揺らし合っているために、リズミカルに震える四つのマシュマロが実にけしから……。コホン。
というかごめん。確かにユレイアはまとめ役的なキャラだけど、たまに出てくるキャラがヤバいし、一番まともなのはシャロンだと思う。めちゃくちゃ正論しか言ってない。
「全く。騒々しいですわよ。少しは静かに……」
「「絶壁は大人しくしてて(してなさい)っ!!」」
「ふぬぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! 何ですってぇぇぇぇっ!!??」
僕を振りほどいて立ち上がったアリスが二人のもとに近づいていき、背伸びをして胸倉を掴む。
一人だけ色々とちっちゃ……げふんげふん。
「もう一度言ってくださるかしら、このエロフと痴女!!!」
「はぁ!? 元はといえばあんたのせいじゃないの!! 何で城から出たくないとか言っといて、あとで一緒にお出かけなのよ!? ただユキとお出かけがしたかっただけじゃない!」
「なっ!? それは、その……ふん! 付き合ってられませんわ!」
あっ、帰ってきた。
え、えと、どう対応してあげればいいんだろう。とりあえず……頭撫でとく?
「ふみゅぅぅぅぅ……って、何をやっているのかしら!? この汚い手を離しなさいっ!」
「え、あ、ごめん。励ましてあげようと思ったんだけど……迷惑だったよね。ホントにごめん」
アリスに怒られて急いで手を離す。
そ、そうだよね。僕みたいな男に頭を撫でられるなんて屈辱中の屈辱だよね。勝手に妹みたいなんて思ってたけど、実際アリスは僕よりも何百年も年上だし、アリスにとっては僕は虫けらみたいなもんだよね。はぁ、何を勘違いしてたんだろ……
肩を落としてとぼとぼと自分の席に戻っていく。
「あ、あぁ、ち、違うのですわ! 今のは言葉の綾というものでして、決して本心ではないのですのよ!? むしろ、もっと撫でてほしいくらいで……あぁぁぁ! 何を言っているのかしら、わたくしは!? と、とにかくユキのことが嫌いなわけでは断じてありませんのよ!!」
「……はぁ。もうどうでもいいからさっさと冒険者組合に行ってこようぜ?」
「……うん、そうだね」
人差し指の先を合わせてツンツンしながらバレンの言葉に賛成する。
うぅ、アリスの優しさが逆に刺さるよ……。いいんだよ、アリス。嫌いなら嫌いって言ってくれた方が楽だからさ……。はぁ……。
パン、と両頬を叩き、気を引き締めて立ち上がる。
「アリス、これからはどんどん言ってくれていいからね? 僕、アリスへの理解が足りなかったみたい。できれば、これからも家族でいてくれると嬉しいよ!」
「……ざまぁですね」
「……自業自得よ」
あ、アリスが倒れた。……え、そんなに僕と仲良くするのが嫌だったの? け、結構くるなぁ。でもギルマスとしてここで諦めるわけにはいかない。これから頑張ってアリスとの仲を深めていこう!
念のためアリスに回復魔法をかけ、そのあと転移魔法の一つである【ゲート】を使う。
「ったく、やっとかよ」
僕の目の前に紫色の靄で覆われた、人ひとりが通れるくらいの長方形が創られる。
転移先は適当な小さめの街につなげてある。王都の冒険者組合で登録すると多分あいつが出てくるだろうし、めんどくさいからあまり関わりたくない。
って、そういえば六百七十年経ってるんだからいくら何でも変わっちゃってるよね? 地形とか国とか。
「あ、ルーウェルティア王国ならほとんど街並み変わっていませんよ? エルフの里や龍人の里とかは変わっていますけど」
少し考え事をした僕に気が付き、ユレイアが的確な答えを伝えてくれる。
こういうところはホントにすごいんだけどなぁ。ユレイアのこの部分とシャロンの大部分を混ぜれば完璧超人の出来上がりだ。シャロンはたまにアホなところがあるし。
そうこうしてる間に、アイが魔法でアリスに雷を落とし強制的に起こす。めちゃくちゃ痛そうだったけど、これ以上雑談するとバレンに怒られそうだ。
「よし。いざ、ルーウェルティア王国へ!」
先陣をきってゲートへと飛び込んだ。
次話は明日の午前九時を予定しています!