午後の廃駅ホーム
例外なく国鉄から私鉄となったその鉄道会社は私が物ごころつくころには撤退していた。
まあこんなド田舎。走行していたって隣町に出向く老人ぐらいしかいない。
撤退したあとも待ちぼうけを食らったホームとその周辺のみしかれた線路が誰にも注目されることもなく放置されていた。村の人たちもなにもいわないし、あまり近づかない。あくまで景色の一つだと割り切っていた。
(転校してきたし…まさか廃墟マニア?)
最近では秘境駅なるものが流行っているというし…。
私のことなど上の空で雲間に瞬いている星を眺めている。確かに暇つぶしにはああするのがベストだと思う。なにもないし。
私服をきた彼女は普段の雰囲気と異なっていた。
地味ではない。どちらかというと過激な方のファッションだ。
心外だ。彼女があんな服を好んでいるなんて…。
あちらからしたら傍迷惑でしかないだろうが。所詮偏見でしかないわけだし。というか…私としても恥ずかしい光景を目撃されてしまったわけであるし、逃げるのは往生際が悪い気がした。ここは素直に受け入れ彼女と一戦交えてみようと…
…とかつらつら妄想していると――詠子さんは不意にホームに腰かけたかと思えば線路内に踏み入った。廃線になったからよかったものの、まちがいなくあれは村人から注意される行動だ。彼女と周囲に亀裂が入りかねない程。
何をしてる?こちらとしてはとても気になってしまうのだけれど、やはり独りの時間を邪魔しちゃいけない気がして。興味と好奇心が止まらない私はわけもなくホームへ近づいた。
初めて間近で見たホームはさびれていた。
古いだけのベンチや施設が時間に取り残されているような、陳腐な感想を抱いてしまうぐらい荒廃している。おまけとばかりに積み上げられた得体のしれない廃材と生活用品が風雨を浴び色あせていた。
夜なら絶対に近づきたくない場所なのに彼女はなにくわぬ顔で空を仰いでいる。
星ならどこでも拝めるはずだ。やはり謎の存在を一ミリたりとも理解しようなど無理なのかもしれない。
「…あの」
どうしてここにいるの?
そう聞きたかったんだけれど―遠くから車輪がけずれる耳障りな音がしたような気がした。気のせい?