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猿橋と光と影の巷談  作者: 犬冠 雲映子
夏休み初日
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スイカと妹

「きっと転生して、いい身分に生まれるよね?罪のない魂は人に生まれ変わるか、そのまま高層界にとどまり続けるの。」

 海美がふいにそんなことをつぶやいた。


「なにそれ?高層界って?」

 私は海美の顔色が豹変したのを察した。饒舌に喋っていたというのに俯いて一言も放さない。


「それってやばいやつなんじゃないの?」

「違うよお姉ちゃん。私はそんなの…」と大きく頭を振って空元気な笑いを浮かべる。明らかにおかしく何か隠しているようだった。


 引っ込み思案で強く言えない妹はまた(うつむ)くしか姉を(あざむ)く手段がなかった。

 友だちと秘密を隠しているのはさして悪くない、それもあって人間関係は(きず)かれていく。けれど妹が肩入れしているのは危ない世界への切符だった。

 都会で同様の新興宗教が流行っているという。

 ニュースで耳にタコが出来るほど流れている旬な話題だ。こんな辺境へまで余波が及んでいるとは寝耳に水であった。

 宗教を信じるのは個人の自由だ。


 他人がどうこう指図するものではなく、各個人の人生観で選択すべき事柄だと私は思う。でも妹がはまっている新興宗教は一般世間からしても首を傾げざるえない内容である。

 姉としての強情さで海美へ当たってしまったのは間違いだと気付くのは次の瞬間だった。


「お姉ちゃんはあんたのことを思って言ってるんだよ。」

「何も分かってない。お姉ちゃんは何分かってないよ!私はもうお姉ちゃんにあれこれ言われなくても出来る年齢なんだよ?!あんたのことを思って、って…結局はお姉ちゃんの思い通りにしたいだけじゃない!」

 ありったけの声量で当たりつけられ唖然とする。


 海美が、彼女がここまで怒鳴るとは…。


「海美っ!」叱りつける前に海美はスイカを地面に投げつけてしまった。ぱかりとビニール袋の中で割れたスイカが赤い汁を漏らす。

「待ちなさい!海美!」


 妹は脇目もふらず畦道を疾走していった。

 くしゃりとへたってしまった袋を抱えて溜息をついた折、こちらを見つめている気配に気づく。


「あっ…」口から声が出た。出すつもりはなかった。

 しまった!と唇をかむ。

 ゆらりと動いたのはいたのは――暗くて独りが好きな詠子さんだったからだ。

 彼女も何か買い物を頼まれたのか…それとも反対に町にでむくのか。待ちぼうけをしているようだった。でも、この村には鉄道がない。彼女が立っているのは廃材と雑草に塗れたホームだった。


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