お墓参り
墓参りをするために山の中腹にある墓場に案内する。村人たちだけの、内輪向けの素朴な墓地だった。
二人で詠子の妹が眠っている墓標に向かい、手を合わせる。
真相を知っているのは私なはずだったのに。
知らんぷりをしてさ迷っていた。現実を直視できなくて異界をさ迷っている振りをしていた。
海美と同じくらいバカで間抜けだ。
チョゲ、また会えるよね。
彼女は腕時計をちらりとみた。ゴールデンタイムにさしかかる針先が忙しなく再び時を刻んで行く。
「そろそろ家に戻らないと。なにかと世の中物騒だから親が心配してる」
腰を上げて喪服についた砂利を払う。
「恩着せがましいけれど、もし、またあの子に出くわしたらお姉ちゃんのこと、伝えておいてくれないかな。また夏にくるって。君が覚えている間に会えることを祈るよ」
「うん」
あの子はいなくとも残されたものへ施してやれることはそう頷くしかなかった。
彼女が妹ときちんと死別できたのなら──チョゲという化身は本当の意味で天国へ行けるのかも知れない。
それも全て憶測だ。
「あ、これを渡したいの。これ、光子の日記帳なんだけど…」
大事に隠していた日記帳を彼女に渡す。それをパラパラとめくると、詠子は頷いた。
「なるほど。コレを警察に届ければいいかな。それとも記者?」
「どっちでも…あたし、そーいうの分かんないし」
「そっか、ありがとう」
今までになく、彼女の言葉に感情が宿っていた。怒りかもしれないし、悲しみか、それとも喜びか。分からない。震えた声を飲み込み、また頷いた。
「ありがとう」
「──あれ…詠子さん?」
気がつくと周囲には人っ子ひとりいなかった。
彼女が供えた花束も墓には存在していなかった。ただ、色あせたチョゲに空似の女の子が笑っているだけだった。
「詠子さん!」
しつこく彼女の名を呼んだ。悪戯でもなく…詠子さんは消失してしまった。どちらが幻覚なのか分からなくなる。
山を支配する王の遊びはまだ続いていたのかと怪訝になるほどに、夜の森は凪いでいた。
ひょっとしたら詠子さんこそ、亡霊だったのかもしれない。だから私を惑わすような言葉を助言して…彼女は死神だったのかもしれない。
私は…本当に死んでしまっているのだろうか?この世から消えてしまったのは私の方?
真相は神のみぞ、って奴なんだろう。
それとも私を迎えに来てくれたのだろうか。後者が望ましいけれど、車のヘッドライトは徐々に霊園へと近づいてきた。いや、それは…
「…来たのね」
光輝くものがいる。
あちらも視線に気づいたのか不意に振り向いた。
ネムフスキーだ。