表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猿橋と光と影の巷談  作者: 犬冠 雲映子
現し世へ
36/45

山中他界

 夜の山は異界だ。


 昼だとしてもヒトの世界とは一線引かれた異質な空間だと思う。鳥獣保護法や所有林など法律上の問題もあるけれど、私たちが暮らしていける領域ではないのはスピリチュアルな感覚で頷ける。なんと言おうが古来から獣たちの領地なのだ。

 かくして一体私は人なのだろうか。それともチョゲのような人ならざる者へ成り上がっているのだろうか?


 だからこうしてさ迷い歩いているのだろうか?


 お盆になれば死後からご先祖さまは人間界へ「降りて」くるというし、神さまも春になれば同じく人里へ降りてくる。お年寄りたちが先人から教わった不思議なお話を私は何度か耳にした。そこで拙くも理解した、神と霊が存在する山という空間は人の知っちゃいけない未知の領域なのであると。


 私はそこを歩いている。異界の生物を探して異界へ迷い込んでいる。

 でも、人間の世界は私を拒むかのように突き放してきた。助けも温かい日差しも私へは与えてくれないがこの常夜の闇はとてもそこが無く冷酷なものだと感じられた。


(詠子は…どこにいるの。)


 チョゲもどこかでうろついている?

 家族は私が失踪したと勘違いして探し回っているのだろうか。──神隠しの如く忽然と消えた娘を必死になって探している?

 堪えきれず涙が出る。帰りたい。これまでチョゲに振り回されて夜を突っ走ってきたけれどガス欠状態だ。


 日の光が見たい。家族とおはようの挨拶がしたい。妹と弟の顔がみたい。平凡な毎日を送りたい。さまざまな欲求が脳裏をかすめて失せていく。なんて陳腐なんだろう。

 今更になって平凡さを望むなんて。

 気配がする。多数の鋭い殺意が私を取り囲む。──魔物たちが唸りを上げてこちらを伺っている。


 オオカミだ!

 彼らの姿は可視できない。漆黒の壁が四方を取り囲んでいるだけで彼らが狼だなんて断言はできない。でも私の周りには狼しかいない。神秘と謎を秘めた獣たちしか、私の前に現れない。

 這うような唸りがじりじりと感覚を狭めてくる。あの白と黒の狼らと同じだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ