人身事故
「チョゲ!どこ?!」
あの子はどこにもいない。どこへ行ったの?
「チョゲーっ!」
お化け屋敷に行くと、仏間にチョゲにそっくりな写真があるのに気づく。
──あの子は人だった。
あのね。サルハチ。わたしね、秘密でぼーけんしてるの。みんなに内緒で。だからね。ごめんね。
ホントはね、線路を歩こうと思ってたんだ~…。
あの子は、ぼーけんをしたかったんだ。
誰かが、外でハルカという名を呼んでいる。たくさんの呼び声で、あれは捜索している村の人たちだと知る。
ハルカとは誰だろう。まさか、私の名前だろうか?
助かるかという思い、希望。私の中から明るい気持ちがわきでる。
「ここにいますっ!私は──」必死になって捜索隊の方へ向かう。
「あ」
捜索隊がいるはずの外にはオオカミの群れがいた。オオカミたちは牙を向き、一斉にこちらを睨みつけてくる。
毛を逆立て、彼らは唸りを上げた。捜索隊の人たちはどこへ?これは何?
「お前のせいだ!」
誰かが叫ぶ。
「お前があの子を外に出さなければ──」
知らないオオカミが一匹のオオカミを倒し、こちらをみる。
眩い光を放つ、異色の存在であるネムフスキーだった。
今だと走って森に逃げた。途中で踏切に阻まれる。
「なんで!こんな所に?!」
「サルハチ!」
「チョゲ?」
遠くから車輪が削れる耳障りな音がしたような気がした。電車がくる。来るはずのないあの電車が──
「チョゲ!逃げて!」
このままではチョゲが轢かれてしまう。
ああ──
景色が滲んでいる。私の眼球は閃光にやられて。
気がついたらチョゲはいない。いるのは私だけ。ぽつんと割れたスイカを前にへたりこんでいる。
隣町に向かう電車は終電を迎えたのか──村は全て消灯している。暗い月明かりの世界で私はどうしてここにいる?
私は消えてしまった彼女を探す。どこにも痕跡は無い。血溜まりも、何も…。
ネムフスキーがこちらを見ているのに気づく。彼は幻の電車が再びやってくるのを見て、どこかへ立ち去っていった。この世界は繰り返されているのだ。