赤い塊
あれから二人で学校の怪談や七不思議を話していると、里の方へ続き──または犬塚沼へ向かう道で不明瞭な、塊に近い人が現れた。
「ひッ!」
──お化けだ。ヒグマの次はお化けに追いかけられる…嫌な予感がした。
塊は赤く見えた。それがヨレヨレと歩いている。不意に赤い服を着た人がいるという噂話を思い出した。
夜中に出歩くと赤い女が出る。だからきちんと門限を守り家にいろ、と。
「な、七不思議に襲われるの?」
「すご!!せっかく七不思議に会えたんだから追いかけてみよー!」
「嫌だよ!」
「ほら行こー!サルハチ!ほらー!」
元気いっぱいにチョゲが走っていく。もはや止める気力もない。だが、赤い塊に興味が無いわけではなかった。
なぜだが既視感がある。あの光景を、私は一度見たことがあるのだ。
腰を上げて、私は後をつけるのに加わる。あの塊がどこに行こうと何も変わらないかもしれない。もしかしたら、"おうさま"に会えたりもするかもしれない。
分からないけれど、チョゲについて行った。
──赤い人は稲光家の、光子の家に消えていく。半開きのドアを開け、玄関に入っていった。
村にある有数の、大きな農家の古民家を改築した素敵な住宅だった。
「そんな…」
後を追わなければよかった。でもなぜ、光子の家に?
あれは…。
私はゆっくりと忍び足で家におじゃました。いつもの見慣れた室内。いつもの嗅ぎなれた稲光家の匂い。内装。
赤い人はよろめきながら暗い廊下を歩いていき──光子の部屋を通り過ぎた。ホッと胸を撫で下ろし、あれがただ村を徘徊している妖怪か、化け物の類だと確信する。
「あーあ、びっくりした…」
アレはゆっくりと廊下を進み、スッと消える。「え…?」
私が常日頃、遊びに来ている時には無い、古びた扉がある。あそこはいつも棚があり、インテリア雑貨が並べられている場所だ。
隠し部屋とでも言えばいいのだろうか?あんな扉見た事がない。
知らない部屋の扉を開け、塊は階段を降りていく。驚愕しつつも、好奇心と恐怖で後をつけてしまう。もう知らないフリはできなかった。
光子は、稲光一族は何を隠しているのか?
階段を降りるとアメリカの映画に出てくるような地下室があった。物置部屋というべきか。
蔵にしまわれているような物が所狭しと並べられている。
その一角に世間一般が想像するような、邪悪な儀式を行った痕跡があった。
蝋燭と奇妙な──魔法陣?そして数多の血痕。
光子はエイコを憎んでいる…それは光子のおばあちゃんが研究施設で話してくれた。
…光子か、彼女の家族はこの魔法陣を作り、何かをした。それだけは確かであり…認めがたいものだった。
「な、なんで」
声が震える。私は咄嗟に、自然と安全地帯であった光子の子供部屋に逃げ込んだ。彼女ではなく、家族の誰かがやったのだと信じたくて──。
彼女の部屋から、ベッドの上に血まみれの服が置いてある。それは光子がお気に入りと公言していた可愛らしいTシャツだった。
赤い人の塊とはこれだったのだ。