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猿橋と光と影の巷談  作者: 犬冠 雲映子
幽世を彷徨う
30/45

認めたくない

「ひとりぼっち?ずっとここにいるの?」

「うん…もう何年も。だからね、サルハチを案内すればミンナが居るアッチ側に行けるかなって」

 レールを歩き、小さな声でそう呟いた。

「チョゲ…」

「ね、サルハチ!遊ぼう!案内してあげるから」

「う、うん。わかったよ…」

 くったくのない笑顔を前に私は頷き、空を見上げた。眩いほどの星はなく、どんよりとした薄曇りの夜空が広がっている。

 あまりのめまぐるしさに、いい加減疲れた。休む場所にいきたいとチョゲに提案してみる。学校に行こう、と。


「えーっ!線路ごっこしよう!」

「案内してくれるんでしょ」

「ええ〜」

 しょうがないと、彼女は学校がある方の道に戻る。二人で林道を歩きながら話していると、通学用の道に──厳重に張り巡らされた鉄柵があった。

 まるで行く手を阻むように固く道を塞いでいる。


「な、何これえ!?」

「柵だよう!」

「分かるわよ!と、とにかくっ途切れてる場所を探さないと!」

 しかしチョゲは首を横に振る。「これ以上先には行けないよう。サルハチが行けないと思うなら、いけないと思う」

「え?は?」

「気づいて。猿橋はもう、自分と友達なんだよ」

「友達だから…なにそれ?」

「一緒なんだよ。みんな、友達なの」

 訳も分からず、気が抜けてその場にへたりこんでうずくまった。

「ああ…もう、疲れた…」


「ねえ、バッタ!」

 呑気にチョゲがバッタを食べているのを眺めていると──この化け物は人など理解できないのではないかと、諦めさえわいてくる。

 体がオオカミなのだから。そういえばこの村には山犬がたくさんいたという、エイコの話を思い出した。この村の始まりは一人の娘と犬だとも。

 狗守村(いぬかみむら)は遠い昔、山犬が神の使いとして獣たちを支配していた。人間も彼らを敬い、先祖たちがいるあの世への案内役を託していたのだと言う。

 ある伝承では雨乞いをし山を穢してしまった。

 今は工場建設の際の森林破壊。林業を辞めてしまい、放置されたりもしている──山を守っていた山犬たちはもう村を見放したと、悪い事が起きる度に集会の時、大人たちは怯えていた。

 私はまさかそれが生活に関わるとは思っていなかった。


「山犬たちは、待っているよ。チョゲは案内役だから」

「だからその案内役って、縁起でもない」

「もう薄々気づいてるでしょ」

「…私さ…」

「サルハチは、認めたくないの?」

「うん」

「なんで?」


「妹に──海美に謝って、話してないから」

「そっかあ。お姉ちゃんっていいね」

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