認めたくない
「ひとりぼっち?ずっとここにいるの?」
「うん…もう何年も。だからね、サルハチを案内すればミンナが居るアッチ側に行けるかなって」
レールを歩き、小さな声でそう呟いた。
「チョゲ…」
「ね、サルハチ!遊ぼう!案内してあげるから」
「う、うん。わかったよ…」
くったくのない笑顔を前に私は頷き、空を見上げた。眩いほどの星はなく、どんよりとした薄曇りの夜空が広がっている。
あまりのめまぐるしさに、いい加減疲れた。休む場所にいきたいとチョゲに提案してみる。学校に行こう、と。
「えーっ!線路ごっこしよう!」
「案内してくれるんでしょ」
「ええ〜」
しょうがないと、彼女は学校がある方の道に戻る。二人で林道を歩きながら話していると、通学用の道に──厳重に張り巡らされた鉄柵があった。
まるで行く手を阻むように固く道を塞いでいる。
「な、何これえ!?」
「柵だよう!」
「分かるわよ!と、とにかくっ途切れてる場所を探さないと!」
しかしチョゲは首を横に振る。「これ以上先には行けないよう。サルハチが行けないと思うなら、いけないと思う」
「え?は?」
「気づいて。猿橋はもう、自分と友達なんだよ」
「友達だから…なにそれ?」
「一緒なんだよ。みんな、友達なの」
訳も分からず、気が抜けてその場にへたりこんでうずくまった。
「ああ…もう、疲れた…」
「ねえ、バッタ!」
呑気にチョゲがバッタを食べているのを眺めていると──この化け物は人など理解できないのではないかと、諦めさえわいてくる。
体がオオカミなのだから。そういえばこの村には山犬がたくさんいたという、エイコの話を思い出した。この村の始まりは一人の娘と犬だとも。
狗守村は遠い昔、山犬が神の使いとして獣たちを支配していた。人間も彼らを敬い、先祖たちがいるあの世への案内役を託していたのだと言う。
ある伝承では雨乞いをし山を穢してしまった。
今は工場建設の際の森林破壊。林業を辞めてしまい、放置されたりもしている──山を守っていた山犬たちはもう村を見放したと、悪い事が起きる度に集会の時、大人たちは怯えていた。
私はまさかそれが生活に関わるとは思っていなかった。
「山犬たちは、待っているよ。チョゲは案内役だから」
「だからその案内役って、縁起でもない」
「もう薄々気づいてるでしょ」
「…私さ…」
「サルハチは、認めたくないの?」
「うん」
「なんで?」
「妹に──海美に謝って、話してないから」
「そっかあ。お姉ちゃんっていいね」