怪しい女子生徒
「あの…お姉さん」
改めて呼び直してきたのはエイコと同じぐらい地味な子だった。いかにも地味地味な眼鏡をかけた小太りな女の子だ。
「あのぅ…ちょっとお話しませんか。」
底知れぬ不気味さを感じて眉を潜めてしまう。あちらもあからさまな嫌悪を理解したのか改めて、と訳の分からない手帳を差し出してきた。
この人とあたしに接点はほとんどない。制服のワンポイントからして一つ下の学年のようだし…これからあり余る暇に、こいつはどう干渉しようと企んでいる?
「お話?」
「あ、はい。お話というか、なんというか。私、海美さんと帰り道、途中まで同じなので。そこまで…」
「海美と同じクラスなの?」
「そう、です。たぶん。」多分?
明瞭としない口調で彼女は先に歩きだす。服装も汚いし、生きにくい性の子なんだろうと一目でわかる。あんまりしらないけど授業中ぼぅっとしているし、体育もいつも馬鹿にされる役だ。
あたしもそんなに運動神経はよくないけど。運動音痴とはこういうことなんだと証明してくれた子でもある。
…今日はどきどきする日だ。
「…お話といいますと。」
校庭までやってきた所で話を切り出す。だって速足で歩くから追いつけなかったんだもん。
「…」挙動不審に周囲を確認するとさらに歩みを速める。
「あの…あなたの妹さんと文通していまして…その今回は交換日記をしたくて…」あの海美と?!コイツが。
驚愕したあたしに彼女の態度が優越したものが加わる。けっ。
「とてもいい人です。」
「あいつは八方美人だからね。」
「…。」
中学二年生のつまんないほどおとなしくて、頭の悪い妹。海美。あいつはどっか幻想に夢を見すぎているせいか、家族間で呆れられている。小さいころから妖精が見えるとか、変なことばっかり言っている。自作ポエムが机の下に大量にしたためられているのが痛い。どうしてあんな方向に…。
この変な子と巡り合うのは必然か。おまけに最近は挙動もおかしいしプライベートなるものを気にし始めた。
年頃になったという証拠なんだろうけどあまりの変わりようにちょっとばかり心配している。
「まさかポエムとか…交換してるとか…」
「いいえ。普通の文通です。」
ただの友達?…家に帰っても妹の会話に彼女の気配はしない。秘密の友情という間からなのだろうか?
「…そっか。それは毎日楽しいでしょうね。」
「ええ!趣味が合うのか小旅行へ何回かご同行させてもらいました。」とまざまざと仲が良いことを見せつけて彼女は息巻いていた。
「…。そう。それはそれは。好きにしなさい。」
「姉さまから許可が得られて嬉しいです。」
「じゃあこれ、あいつに届けとくから」交換日記を受け取ってカバンへしまう。
「くっ!だらない」って言ってやりたかったけどそれは無理矢理嚥下した。
「あ、あの…お姉さんはこいういうのに興味ありませんか?」
別れを告げようとした私を押し倒さんばかりの形相で、彼女はなにかを手に握らせてきた。──なんだこりゃ。
「祖霊の囁き?」
なんとも怪しげなパンフレットだった。