惨劇
「ええ〜なにそれ〜」
「あ!アタシのコト!バカにしてる!」
廊下を一際照らしている部屋がある。久しぶりの文明の灯りに自然と吸い寄せられた。
私たちは研究室のような、不思議な場所にたどり着いた。
「これなら電話も繋がって──」
ぶち破られたドアが血溜まりに染まっていた。
室内は奇妙なほど静まり返っているのに、異様な気配がした。
──オオカミの死骸が散乱している。首を千切られ、内臓をぐちゃぐちゃにされ、皆血にまみれていた。
どう見ても人がやる諸行ではない。何か、巨大な獣に捕食されたような──。
脳裏に否が応でも村を徘徊していたヒグマがチラつく。あのヒグマがオオカミたちを食べたのなら、この有様に納得がいく。
入口から漂っていた異臭は──血の臭いだと気づくのに遅かった。
「は、早く逃げようぅ」
チョゲが怯え、震えている。あまりの惨状に足がすくんで動けなくなってしまった。
このままだと自分たちも殺されてしまう。ヒグマは、まだこの建物にいるのか?
息を殺して私は電話に飛びついた。早く、村役場に知らせなければならない。それに警察に助けを呼ばなくちゃ──
背後から荒い呼吸が聞こえた。受話器を持った手が震え、音を立てる。
獣臭さと血が混じった最悪な臭い。背後を振り返ると、先程のヒグマがいた。
「ヒイッ!」
「サル八チ!アッチのドア!」
チョゲが咄嗟に逃げ道に走っていくのを見て、私も研究室の左側にある半開きのドアに突進した。
廊下に続いている。この部屋もオオカミたちが転がり、息絶えていた。