工場探検 開始
日本で有名な大企業が手がけるバイオテクノロジーを扱う工場兼研究施設が狗守村に突然できた。
山奥に研究開発拠点ができるのは珍しい事ではない気がする。ただ問題なのは地主や土地を無理やり奪い取り、建設した点だ。
光子の祖母である彼女のおばあちゃんも、被害者の一人だと思う。
農産物を売りにして生計を立てていたのかもしれないし、きっと土地が失われたのだから何も作れなくなってしまったに違いなかった。それと光子の一族は企業側と揉めてしまった。噂もたったし、村の空気も悪くなった。
あれからほどなくしておばあちゃんは死んでしまい、彼女の家は没落した。引越しをするかもしれない、と光子に泣き疲れた時もあった。
──光子のおばあちゃんはよくパラソルの下で休憩していた。あの楽しそうな顔が忘れられない。
無慈悲な行いから狗守村では変な話が出回る。人体実験をしているだとか、人肉を加工しているのだとか…根も葉もない怖い話が村を駆け巡る。
だが、村はなにも言えない。出ていけとも中身を見せろ、とも。
私はあのバイオテクノロジーを売りにする施設の工場長や職員を見た事が無い。いや、わざと見ないようにしていた──
「うわ、なんか鉄くさ…」
鉄を扱う会社だったのだろうか。嫌な匂いがする。
荒れ果てた廊下と傷だらけの壁に異様さを覚えながらも、仕方なく進む。電話で救助を呼べるかもしれないからだ。
それにチョゲが言っていた"おうさま"に会えるかもしれない。おうさまに頼み込み、この世界から逃げ出せるかもしれないのだ。
廊下は普通の施設と言った所で、どうやら私は研究施設の方に入り込んでしまったようだ。
常夜灯だけが廊下を照らしている。居心地の悪い緑色の光に怯えながら、チョゲを見やる。
興味津々といった様子でキョロキョロしている。
「おうさま、って私を助けてくれるかな」
「おうさまは一人だけを助けないよ。誰も助けず、誰も見捨てないの」
否定され、ムッとした気持ちがわいてきた。