おうさま
「あたしんたちを統べる人だよ。今は──どっかにいっちゃってるひとだよう」
「行方不明になっちゃってるの?」
「うん。おうさまはあっちとこっちを自在にゆけるひとなんだよ。いろいろなものになってあっちとこっちを行き来するひとなんだよ。サルハチは…見たことないの?」
まるで目撃していないこと事態がおかしいと言いたげにチョゲはころりとした瞳を輝かせた。
「どういう人?」
「おうさまはおうさまだよ」また来た。
「ね、ネムフスキーさん?…も見たことある人なの?」
冷静沈着な趣の白狼はちらりと私を一瞥して興味をなくしたようだった。私の言葉を理解しているのかも謎であるけれど、知性は感じる。チョゲより数倍聡明な「狼」だ。
「あるってー」本当に言っているのか謎である。
おうさまはあっちとこっちを自在にゆけるひとなんだよ。「あっち」と「こっち」を行き来する人。現実と夢を往来する人。
いろいろなものになって夢と現実を行き来するひと。
想像ができない。
「ぐるるる…」いきなり大人しくしていたネムスフキーが鼻に皺を寄せた。何か不服なことをしてしまった?ともかく彼が怒ると足が震えるほど怖い!「ひ、ひぃ!」
「ずるいヤツだねネムちゃん。…ううー」
ネムフスキーに小突かれているチョゲ。
「あれ。いっちゃうのネムちゃん!」
無言で彼(?)はてくてくとこちらから離れていた。私にも興味をなくしたみたいに。不思議な光を纏った狼の歩いた跡には同様な光がちらついている。神々しい。もしやとても偉い人なのかもれない。
「ネムちゃんはムレから外されたんだよう。エラくもなんともないよーん。乞食なんだよう」