最初(夏休みが始まりました)
誤字脱字があるかもしれません。直していきたいです。
日本列島のどこかにある──とある山間部の、窪地にある狗守村。そこは昔から山に住み、里に降りてくる山犬──オオカミの伝承が多く残る地であった。彼らは神秘性を纏い、人間に敬われ神と同一視されていた。
人口はさほど多くは無いが、人々は稲作などの農業を生業とし、周囲の村には数少ない学業施設などもある。
そんな平和な村で、ある事件が起きた──
私の名前は猿橋 南風見。変哲もない、庶民的な女子のつもりだった。ベタだけれども、あの時までは。普通だった。
七月の気配がして生命が生き生きとしている。
村の、山の中腹にある木造建ての校舎。授業が終わり、生徒たちが思い思いの時間を過ごしていた。
ざわめく教室の中で私はぼんやりとしていた。
「今日から夏休みだねえ。何する?市街地の花火大会に行く?その時は私んちに泊りなよぅ」
「…はぁぁ。あんたさ…あたしと話していて楽しい?」
「だってさぁ…私たち、幼馴染じゃん」
友人の稲光 光子がさも当然のように口にする。
柔らかさを表したかのようなタレ目にのんびりとした話し方。ふわりとした茶髪。
自分とは真反対の、垢抜けた印象を持つ女子だった。
「幼馴染…」
この狭い世界では当然の関係性だ。生まれた時から近い距離感で、やがてそのまま朽ちていく。それが嫌だった。
だからといってこの村に、上京するほどの嫌悪感はない。惰性で生きていくしかない半端者だった。
「そういやお母さんがミツコのためにスイカを育ててくれていたらしくてさ。明日食べにおいでって」
「スイカぁ?…猿橋スイカ嫌いなのにお母さん懲りないよね」
「妹も弟もスイカ狂だから…。」庭にスイカが大量発生すると寒気がする。スイカは嫌いだ。種が取りにくくて食べるのに時間がかかる。
「ありがとう。毎年ごめんねえ。でも私だけにあげても余っちゃうんじゃないの?影ちゃんに食べさそう」
「影ちゃんなんて言ったら怒られるよ」
「あ」
わざとらしく彼女は口をふさぐ。騒がしい教室の隅で湿っぽく荷物を整理していた"エイコ"が、こちらをガン見していた。あの子はこの村で浮いている。遠くから引っ越してきた本物の余所者だからだ。
「影井 詠子」という字面から、詠子を「エイコ」と呼び「えい」に影を当てた…云わば仲間ずれの隠語だった。カゲちゃん、なんて呼ばれてもいる。
でもそれは当たっていて──暗くて独りが好きな、思い切り村の慣れ合いを拒絶している影みたいなヤツだ。
あたしはそのキャラもらいたかったのに。村から切り離されるのは怖かった。どこまでも情けない性分だ。
家族は対照的に行事にも集会にも積極的で、なんというか空回りな印象がある。あんなうるさい親からあのエイコが生まれたなんて信じられない。
「…ん~。ってことで猿橋。スイカよろしくねぇ」
あたしとエイコを交互にみやってからこれまたわざとらしくリアクションする。
光子はエイコをなんとかクラスに馴染ませてやりたいのだろう。残念ながらクラスで人気絶頂のモテモテ光子と真逆に走る彼女が釣り合うのは不可能だ。
「光と影」なんて囁かれているぐらいなのだから。光子はそれを知らない。
エイコは興味を無くしたようでもくもくとスクールバックに荷物を詰めている。あたしも手元にあるリュックのファスナーを閉めて、光子が教室から出ていくのを見送った。
夏休みがやってくるせいで放課後というのに人気が多い。声もでかいし、はしゃいでいるのもみっともない。嫌気がさしてそそくさと教室を出た。