わお。でっかいクマさん〜。
「そう。光子はマドンナだった。クラスみんなの。」
「みつこってだれ?」
夏の日差しはジッと浴びているだけでも辛いものだった。パラソルの下で麦茶をもらい、光子たちでたわいもない話をするのも楽しくて、私たち姉妹は最高に日に焼けてしまった。
「夏休みって感じがするねーっ」なんて、珍しく喜んでいたね。
事件があってしばらくしたある日、母に彼女の様子が心配なので見て欲しいと。規模の小さい田舎では異変は直ぐに伝わる、仲が良かった私たちならどうなっているのか、近づけるだろうと―白羽の矢が立ったのだった。
それからどうしたのだろう?空白地帯を埋めるなら、多分二人で光子を訪ねたのだろう。
散らかった部屋が彼女の内面を映し出していた。可愛らしい内装だった子供部屋は荒んで陰鬱としている。ベッドに変り果てたマドンナが心ここに在らずと座っていた。
何も言えずただ傍受していた。何もせず二人で。
「おばあちゃん…工場の人と言い争って…心労で死んだの。そんなこと絶対ないってお母さんがいうけどあんなに元気だったおばあちゃんが…。」
死ぬわけがない。
「あたしがスイカ、毎年届けるから。」
自然とそんなことを口走っていた。ぐしゃぐしゃになって痩せこけた光子は目を宛てられないほど枯れていたからだ。
「私も…スイカ届ける。」後ろで呆然としていた美々がぼそりと呟いた。
美々が賛同するとは思わなかった。いつも他人事の美々。成長したと思ってたのに。のに?私は美々に裏切られたことがあったろうか?分からない。記憶が虫食いになっている。
それから光子とはスイカを通じて家族ぐるみの付き合いとなった。
「ありがとう。毎年ごめんねえ。」
彼女に何気なく言われると温かいものが胸に広がる。親友の光子。スイカ。私は覚えている。
こんなに不思議な出来事に巻き込まれていても。
不意に獣の体臭が鼻腔をくすぐり目を覚ました。クマだろうか。
スイカの臭いに魅かれ里へ降りてきたのか―「ひっ」
悲鳴をあげそうになったのを必死にこらえた。鼻先に毛むくじゃらの塊がいる。それも大きな、本州にいない動物だ。
ヒグマだった。もちろんこの村にはヒグマは生息していない、ツキノワグマの体躯をとうに越した巨体が村をうろついている。
人がいたら悲鳴をあげ、八つ裂きにされていたろう。私は当然フリーズして無様に震えた。人は大概悲鳴を上げるよりは固まるという、私も例に漏れずヒグマを前に固まってしまった。
「わお。でっかいクマさん〜。」
人面犬が嬉々として声をあげる。心臓がひっくり返った。
「バカッバレるでしょ?!食べられたいの?!」無理やり小型犬を抱き上げ騒ぎ立てないようにがんじがらめにした。これまた結構な重さで幼児ぐらいの体重はあるだろうか?
「…な、なんで…だっそうしたの…サーカスか、な、何から」
「サーカス?イイなあ!アタシも行きたい〜」