特典なき異世界転生~生きろ~
見切り発車継続中です。
「面倒なので帰してください。すぐに。」
そう告げた俺に対し、女神っぽい少女はピシリと固まる。
ややもすると、
「パンパカパーン、超おめで……ふぎゃ」
「それはもういいから」
少女の頭を鷲掴みして、四度目の当選告知を遮る。固まった後の復帰の早さや、折れない心は称賛に値するが、俺は異世界転生などしたいわけではないのだ、多分。つらかった受験勉強と大学入試を乗り越え、春から始まる新生活に期待を膨らましていた。それらを無為にする異世界転生など望んではいないのだ、多分。
「でもでも、異世界転生ですよ!?なろう民ならヨダレをたらしながら、嬉し涙を流して感謝するんじゃ……」
「どんなヤツだよ!気持ち悪いよ!」
なろう民とはとある小説投稿サイトの読者の通称だ。異世界転生、転移等のファンタジーから、恋愛、文学、ホラーまで幅広いジャンルを網羅している。その中でも異世界ものは根強い人気があった。俺も中学から高校までの間、はまりにはまったのだが……
「なろう民が全て異世界に行きたいと思うわけないでしょう。現実に人一人がいなくなったらどれだけ周りに迷惑が掛かると思うんです?そして貴女はどちら様ですか!?」
「あっ、申し遅れました。私は異世界の女神アイナスと申します。」
と深々と礼をする少女。同時に俺は頭を鷲掴みにしていた手を離し、一旦心を落ち着けてから女神アイナスに話しかける。
「やはり女神さまでしたか……。せっかくの異世界転生ですが、家族、友人等が心配しますので、お断り致します。帰らせてください。」
と言葉と共に深々と頭を下げる。とりあえず下手に出ておいて、すんなり帰してもらおうという作戦だ。そして今気付いたのだが下手にもめたり、仲違いをすれば、この場に放置等異世界転生より酷い状況になるかもしれない。
言ってしまえば俺の生殺与奪は女神アイナスが握っているのである。頭を鷲掴みなどとんでもなかった。と内心で汗がダラダラと流れる。
「それが……そのぅ……断られるとは思っていなかったので地球帰還に使う神力が残っていません。貴方を地球から召喚するだけで膨大な神力が必要だったのです。ですから召喚には地球の神と相談して、なろう民なら絶対に断らないとお墨付きを頂いていたのですが……」
うぉぉぃ、地球の神様何言ってくれてるんだ!?
内心で舌打ちをしながら俺は考えを巡らせ、質問する。
「その、地球へ帰還する神力というのはどれくらいで回復するのですか?」
質問を受けて女神アイナスは考え込んだ様子で、
「そうですね……。ひたすら回復に集中して……。地球時間で約100年ほどでしょうか。力を使わないようにこの空間に滞在し続ける必要もありますね。」
…………詰んだ。これはもう転生しか道が残されていない。それだけの力を使うからこそ女神アイナスも地球の神様に相談したのだろう。これはもう心を切り替えて転生し、次の人生を謳歌するしかない。
「わかりました。この空間に寿命までいたくはないので、転生します。ですが、先ほど言ったように急に私がいなくなると家族や知人が心配します。地球の神様にお願いして、私が自然にいなくなるか死んだようにすることはできませんか?」
「本当ですか!よかった。地球の神様にはそのようにお願いしておきますね。」
転生を受け入れた俺に対し、どうやら女神アイナスはこちらの願いはある程度聞いてくれそうだ。もはや転生は決定事項なので、転生先の世界や転生特典など情報を女神アイナスから聞き出すことにする。
「それで、転生先はどのような世界なのでしょうか?」
と俺が聞くと、
「そうですね、貴方の世界で言うと中世時代くらいのイメージでしょうか?地球のように科学はある程度しか発展していませんが、魔法が存在しています。」
少しずつできるペースで投稿します。