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第7話 コントロール初心者





 月夜の晩の洞穴の入り口。ぽっかりと空いた空洞に川の音がドウドウと反響している。


 俺は、冒険者ギルドの受付嬢ロアさんと共に、周囲を探りながらその内部へと入っていく。


 月明かりのある外とは違って、少し進むともはや真っ暗闇。

 灯した“ライト”の明かりが洞穴のぼこぼことした壁にくっきりとした陰影を作る。

 いかにも探索って風情も楽しいが、このままではちょっと見づらい。


 奥へと続く道はさらにクネクネと曲がり見通しが悪く、大小いくつもの穴ぼこが地面にも壁にも天井にも開いていて光が届きにくい。


 光の届かない暗い空間のそこかしこには何かしらの魔物もいそうに思えるが、上手く気配を拡散させていて正確にはつかめない。


 “魔導視”のスキルを使って内部を確認する。

 見えてくるのは、無数のマナの痕跡。

 入り口付近には兵士が戦った時のものであろうマナの斬撃跡がうっすらと残っている。

 

 そして奥には…… グニャグニャとめちゃくちゃに放出されてるマナの乱流。

 意図的な妨害が施されてるように思う。


「ロアさん、中に何匹いるか分かりますか?」

「正確にはつかめません。ジャミングされてます」

「やっぱり。だけど何かがいるのは確かですね」


 あからさまに何かが隠れてる。ならば、ひとつ試してみようかな。


「ロアさん、少し明るくしてみます」


「ライトを、ですか? 分かりました」


 生活魔法“ライト”。

 通常、この魔法は使用者の頭上に必要な明るさの光球を発生させ、自分の周り半径数メートルの視界を確保する為に使われる。


 今のような状況では単に明るさを上げても効果は薄いから、出来れば光球の数を増やすほうが良いだろう。しかし数を増やすほど制御が格段に難しくなる。

 特に戦闘中は意識を向けるべき対象が多いからなおさらだ。


 というわけで、これからやるのは至極単純。自分の魔法制御能力がどこまで上がっているのかを試しつつ、先を急ごうと思う。


 俺は試しに光球を1つ、自分の頭上から洞穴の奥へと移動させてみる。

 これは問題ない。遠隔でも普通に動かせる。

 次に、その数を2つ、そして3つに。

 うむ、まったく問題は感じない。


 これならば……

 少しばかり多めにマナを練り上げて周囲に放出。

 4、5、6、7…… 20 …… 100 ……  


 うん。いくらでも増やせる事が分かりました。


 ピカッ  ピピピピピピ ピッッカッッァァ


「うわ、うわわ、ちょっ、エフィルアさん?」

 急激に増加する光球に目を細めるロアさん


「ちょっ、こんなに明るくしたらっ、まっ、眩しく、ないっ。眩しくない」

 洞穴内全体を完全に適度な明るさで照らす無数の光球。

 それはせっかくの不気味なおもむきのある雰囲気を台無しにするのに必要十分なものだった。


「なんなんですかエフィルアさん。この、大出力でありながら眩しすぎもしない適切な光量の無数の明かりは」

「もちろんライトですロアさん。生活魔法です」


 俺の“ライト”はLV15で、S級スキルの直接魔導操作というものもある。

 おかげさまで制御は大成功のようだ。


 それから俺は光球の一つ一つを敵の潜んでいそうな穴やくぼみにまでくまなく、次々と送り込む。

 そこに照らし出されたのは――

 

 いた。人のような顔をした獣。

 地面の窪みに、壁の穴に、そして天井にペタペタと張り付いている人面獣達だった。

 昼間の太陽の下かのように明るくなった洞穴内で、能面のような無表情さのまま動きを止めている。

 

「じゃ、このまま魔法ぶちこみますので」

 さっきは視界の効かない暗闇の中でジャミングまでされていたから位置を上手くつかめなかったが、肉眼で見えてしまえば問題ない。

 近くにさらわれた子もいないようだしな。


 未知の敵なのだから、まずは遠距離から様子を見るのが得策だろう。


 闇属性魔法、魔弾:C-LV8

 こいつはすでに森で試しているから使い勝手は分かっている。


 C級スキルとはいえLV8。上級魔法使いの領域だ。

 マナエネルギーの塊りをそのまま敵にぶち込む魔法で、その威力は魔狼相手なら一撃爆散が余裕といった具合だった。

 手のひらに魔力を込めて、"魔弾"を放つ。


 ドンッ ドッパァン

 結果を言えば、人面獣も一撃爆散でした。

 残った獣の身体からは何かモヤのようなものが抜け出して、奥の方へと飛んで行く。


 ドォドォドォ ドドド……

 手当たりしだいブチかましながら奥へと進む。

 実に風情ふぜいがない。ロアさんの眼も気になる。しかし今は攫われた子を助ける事に集中しよう。

 そのまま殲滅。


「あの…… 私の“ライト”はバカらしいので消しますね。それにしても。うーん、どうも私はエフィルアさんの力を見誤っていたのかもしれません」


 すっかり探索し甲斐のなくなった洞穴を速やかに突き当りまで進む。

 ロアさんが目の前の壁をペタペタと触り始めた。


「この奥に魔物の反応がありますね。おそらく子供も。さてと、本来なら何か魔術的な仕掛けを探して道を開くところなのですが、出来る限り最短の方法で……」

 こちらを見つめるロアさん。


「エフィルアさん。もしかしてこの壁もなんとか出来たりしますか?」

「なんとかですか?」


 それはまったく分かりません。なにせ覚えたてのスキルで1つ1つ手探りですからね。


 俺はとりあえず壁の厚さを確認してみる。

 コツンコツン

 石の壁だ。厚さは良く分からない。薄くはないという事だけは分かる。

 そしてこの壁を構成している要素の半分程度はマナによるものだろう事が分かった。


 “魔導視”を使ってみると、そのギミックは手にとるように分かってしまった。

 基本的に特定の魔物だけがすり抜けられる造りになっている。制作者はあの人面獣たちだろうと思う。


 何とかすれば上手くすり抜ける方法もありそうだが……。

 それよりもぶつかった方が早いだろうな。普通に。

 崩落だけしないように気をつけるべきか。

 あまり広い範囲ではなく、なるべく小さい範囲で。


「力技でやってみてます。少し気をつけてくださいね」

 そう言ってロアさんの了承を得てから、壁から少し距離をとる。

 

「それでは、いきます」 

 むん。全身にマナを漲らせ一気に爆発させる。踏み込んだ足が地面を抉り、一歩、また一歩と踏み込むたびにグゥンと景色が加速する。

 あと一歩で壁に激突。

 そこで、全身を覆っている魔力を拳に集中、力を込めて最後の一歩。せいっ


 スカアアン!!!

 上手くいった。拳より一回り大きい程度の穴が気持ちよく開通。


 と、思いきや、その後に発生した余波によって、その穴を起点にして石とマナの壁が吹き飛んだ。

 少しだけ威力が高すぎたようだが、なんとか想定の範囲内か。

 まだまだ制御の練習はこれからだろう。


 結局、壁の厚さは1mないくらいだった。

 目の前には奥へと続く通路が現れていた。

 急な坂道になっていて、地下へと続いている。


 ロアさんは抉れた壁の残骸をコツンコツンと叩いて何かを確認した後、クルリとこちらに振り返り口を開く。


「パンチで石を爆散させるなんて非常識かもしれませんよ?」

「そうですね、次から気をつけます。ロアさん」 


 ロアさんにやってくれと言われたからやってみたのだが。

 なにはともあれ道は開けた。いざ進もう。

 目的の相手はもうすぐそこ。


 なにせ目の前で、ハァハァと荒い息づかいでヨダレを垂らしながら半裸の少女にまたがっている人面獣がいるのだから。 

 俺と目が合う。 

 その獣は少女を置いて洞穴の奥へと逃げていくのだった。


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