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第6話 夜、洞穴



 ギルドからの非常召集によって、宵闇の町を冒険者達が駆け回る。


 どこからか沸いて出てきた蝶を観察しつつも、俺はまず人面4つ足の獣にさらわれたという少女を探すことにした。

 他にも魔物の侵入はあるのだろうか? 大事にならなければ良いが。

 それにしても未確認の魔物? 怪物? なんであれ町の中にまで侵入してくるなんて本当に珍しい。


 ギルマスによると、洞穴から何やら魔物が沸いて出てるって話だった。

 もし本当にその人面獣もそっちから来たのなら、巣でも出来ているのだろうか?


 だがな、あの洞穴は調査部隊が張り付いてるはずだから、何かあったなら連絡がギルドに来てるはず。

 

 いくつもの可能性があるが、俺はまず子供がさらわれた現場に行ってみることにした。1つ考えもあるのだ。


 “魔導視:S-LV1” なるスキルについて考えている。

 どうやらこのスキルは、人であれ物であれ魔法そのものであれ、その魔導的成り立ちを見る事が出来るようなのだ。

 

 普通目には見えないマナの存在そのものや、流れ、動き、そういったものを肉眼で見ることが出来る。


 闇属性スキルの特徴として、どうもマナそのものを直接扱えるような感覚がある。

 マナを何かに変換したり、術式によって構築したりといった間接的なものではなく、ダイレクトにマナそのものに触れている。

 

 もっと言えば、マナとは、魔法とは元々そういうものなのではないだろうか?

 闇属性が扱うのは魔法の源流、元素そのもの。

 

 昼間に体験した肉体にダイレクトに働きかけるようなマナの奔流も、今考えてみればそれと同じ事なのだ。


「さて、到着か」 


 能力について考えを巡らせながら走っていると、すぐに少女が連れ去られたという現場に到着した。

 そこには先にギルドを出ていた者達が数人いる。


 俺は周囲を見渡す。

 瞳にマナを流し、“魔導視”を発動させながら。


 見えた。あっさりとその痕跡は発見される。

 例の人面獣と思わしき魔物が、高速移動する為に発したマナの痕跡が石畳に点々と残されているのだ。

 それは人間のものとは明らかに違うマナの性質だし、四本足での移動だという事がわかる痕跡でもあった。



 その他にもいくつものスキルが飛び交っている様子が俺の目には映っている。

 夜空に展開されているそのほとんどは、探知系のスキルだろう。

 細かい網目模様をしたマナの輝きが花火のように散らばっている。

「知らなかったね。これが魔法の形なのか」


 思わずため息を吐くように、言葉が口を出てしまう。 

 いつもの町並みの上に、今まで自分が見てきた世界とはまるで違う世界が広がっていた。


 しばらく眺めていたいような思いにもかられるが、一度スキルをオフにして、人面獣の痕跡を追う。 

 飛び交うマナの輝きは鮮烈で、普通に道を進むには少々邪魔でもあるためだ。


 痕跡は町の西側。外へと抜ける門へと続く。

 やはり北西にある洞穴へ行ったのだろうか?



 西門には数名の人々が集まっていた。

 誰かを取り囲んでいる様子だ。



 「ロアちゃん、1人で行くなんて危ないから俺達も付いていくよ」

 「いえ、私は大丈夫です。今は1人のほうが早いのです。道を開けてください」


 人だかりの中心にいたのは受付嬢のロアさんであった。

 周りにいるのは、いつもの男達のようだ。

 無視してそこを通り抜けようとすると、

 

「エフィルアさん」

 ロアさんに声をかけられてしまう。


「はい。ああロアさん、どうしてこんなところに?」


 なんでしょうかね。あまり関わらないほうが良いと思うのですが。

 男達の視線がザクザクと俺に突き刺さる。

 ロアさんはかまわず話を続ける。

  

「私、洞穴の調査に向かうように言われまして」

「ロアさんが? ふうむ。お1人で?」


「はい、1人です。私はこう見えても結構強いのです」

 ざくざくざくざく突き刺さる。


「それでですね、良かったらエフィルアさん手伝ってくれませんか?」

「はい?」

「「「 !!!! 」」」


 周りにいた男達がどよめく。いや、ぶちきれる。

 無論ロアさんに対してではなく俺に向かってぶちキレル。


 まあ怒るのも無理はない。なにせ、ついさっき自分達は同行を断られたのに、よりによって俺なんぞにロアさんが声をかけたのだから。 


「あー、ええと、やめときましょう。皆さんが・」

「もーーーちろんだ、エーーフィルゥゥァァアッ」

 ロアさんに断りをいれようと話をしていると、不意にどこからか現れた男が間に入ってきた。

 相変わらずギャーギャーと声のデカイ、聖女の仲間ギャオである。いたのか、お前もいたのか。


「エフィルア、お前なんかお呼びじゃない。ボロ小屋に帰って寝てろ。ロアちゃんはオレが守るからな」


 それをきっかけに、予想通りというか予想以上というか。

 そこにいた男達がロアさんを取り囲む。


 いやいやいや、この人たちはいったい何をやっているのやら。

 まあいいや。とりあえず俺は俺の出来る事をやろう。

 そう思って走り出す。

 と、今度はいっそう大きな声でロアさんが叫んだ。


「ごめんなさいっ! 私LV32あるんです。それについてこれそうな方だけお願いします」

「え? なにいってるんですかLV32?……」

 ロアさんの声に続いてギャオが反応した声が聞こえた。


「30以上の方だけでお願いします!」

 再び念を押す、その言葉と共にロアさんは走り出す。

 突然告げられた言葉は男達をいっせいに押し黙らせ、その場に棒立ちにさせた。

 そして俺に併走するロアさん。


「じゃ、行きましょうかエフィルアさん」

「え? 何で? 俺?」


 ロアさんはクイッとこちらに顔を向け、ささやくように告げる。

「私、分かるんですよ。他人(ひと)の強さとか」


 他人の強さ? とか? それってもしかして俺の変化に気づいてるって事だろうか?

 俺はその場の雰囲気とロアさんの勢いに逆らえず、結局彼女に連れ去られるのだった。


 ――――


「ふぅ~~、この辺りまでくれば大丈夫でしょうか」

 西門を通してもらい、洞穴のある方向に俺達は走ってきた。

 もはや町の魔導灯はないので辺りは暗い。


 俺は一度足を止め、昼間に覚えたばかりの生活魔法“ライト”を試してみる。


 これは魔法を使う者ならほとんど誰でも習得しているものである。

 まっ、俺はついさっきまで使えなかったわけだけどもね。


 よし。“ライト”は成功。周囲を照らすほのかな炎の球体を頭上に発生させた。

 やや黒っぽい炎で構成された光球ではあるが、明かりとしての役目はちゃんと担っている。

 俺の属性でも出来るんだな。


 そもそもこの世界で言われている闇属性の性質は光に相反するものというよりは、聖なる力に対するものだ。

 邪属性と表現したほうが正しいと主張する者もいる。

 しかし語呂が良くないのかなんなのか、あまり使われていない。


 聖なる光と炎属性の光という違いなんかもある。

 やはり暗いところのほうが落ち着く俺ではあるが、焚火の明かりなんてのは好きなのだ。

 考え出すと、このあたりの分類は非常にややこしい。

 そもそもが6属性分類を使わない陰陽五行分類を是とする魔法学派もあるし、分類の難しい属性魔法もたくさんあるし…… と、このあたりはまた追々、いずれ時間が出来たら試してみたいことも多い。

 


 さて、ロアさんも同じように明かりを作ったようだ。

 それにしても、ここまで来る間に思ったのだが…… 


「ロアさん。流石に足速いです。LV32っていうのは本当なのですね」

「もちろんですよ」

 彼女は俺のほうをまっすぐ見つめて答える


「そして私に余裕でついてこられるエフィルアさんも、やっぱり相当な強さって事になりますね」

「うっ」

 な、なんてことだ。ついうっかり普通に走ってついてきてしまった。


 今の俺にとっては普通の速さだったから、まっったく意識せずにやってしまった。

 これ、まずいだろうか? 

 そもそも他人の強さが分かるとか言ってたし…… 

 もしかして今日突然変化した俺の強さを何か怪しまれているのではないだろうか……。


「エフィルアさん、大丈夫ですよ心配しなくても。悪いようにはしませんから。ちょっとした興味と期待と、そうですね、そう、ギルドとしては戦力に期待しての事です。さっ! さっ! そんな事より調査ですよ!」


 うーん、気になるけどしょうがない。無理に問い詰める事はしないでおく。


「分かりましたよ。まずはさらわれた子供を見つけないとですし」

「そうですそうです。がんばりましょうっ」

 俺達は洞穴に向かって走る。


「ロアさんも、やはり子供は洞穴にいると?」

 時折“魔導視”で確認すると、やはり地面の痕跡は洞穴に向かって続いている。

 

「おそらくは」

「なぜそう思うんです?」


「それはですね。私、気配探知がとても得意なのです」

 走りながらクッと軽く胸を張るロアさん。

 ちなみに彼女の胸部は未だ成長途中の様相を呈しており、凶悪な破壊力などを有していたりはしない。

 

「エロすけ……」

「はい?」


 えろすけ? なぜか彼女の胸部分析をしている事が一瞬でバレ。さくっとそれを端的な言葉で指摘されてしまう。


「こんな小さな胸を見ている場合ではありませんよエフィルアさん」

「あ、はいすみません」


 受付のロアさんてこんな感じだったっけ?


「とにかく私についてきてください。場所は大体突き止めてありますから」


 2人だけで話すようになってから、少しキャラ変わってるような?

 

 小首を傾げる俺からサクッと目を背け、ロアさんは今までよりも一段早い速度で駆けぬける。



 向かっているのは町の北西。

 川沿いにある小さな林のようになった場所だ。


 そこに、ほんの数日前に小さな洞穴が突然現れた。

 中はたいして広くなかったそうだが、不可思議な点がいくつかあるからとギルドが人を派遣して管理し、探索していたようだ。


 探索の最中、どうにも魔物が湧き出るような様子も観測されたようで、今は監視の兵が立っているはずなのだが……。


 洞穴の前に到着し、ロアさんが動きを止める。

 入り口には川の水が少し流れ込み、水溜りになっている。


 その周囲に倒れている兵士が数人。

 すでに全員命は無い。


 ロアさんはテキパキとポケットの中から何かを取り出し、火をつけて夜空に発射した。

 パァァン パァァン パァァン


 宵闇に赤い閃光が3回放たれる。

 ギルドへの合図のようだ。


「やはり人面獣は洞穴内に入って行ったようです。少女も生存しているように思います」


 俺達はぽっかりと開いた洞穴の暗闇を覗き込む。





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