第4話 コボルト族とのプチ交流
爆滅した魔狼と、折れて消し飛んだ愛剣。
これが闇属性を抑え込むのをやめた結果の1つだった。
しかし、おかしいな。
レベルがほぼ3倍に上がったというのは、ベース出力がほぼ3倍になったという事を示している。
しかし、とてもこれが3倍程度の強化だとは思えない。
他に思い当たる点…… スキル一覧にあるのは…… 強化体:A-LV3 か。
聞いた事の無いスキルだけど原因はこれではなかろうか。
身体を動かしてみた感じでは、筋力とか、反射神経とか、骨格強度とか、この身体の何もかもが別次元に進化していた。
うん。たぶんこれ、複合上位スキルだよ。それもとびきり上等な。
この類のスキルは普通、色々な物理強化系スキルを身に着けた後に習得できるもの。
総合的に身体能力を上げる上位スキルだ。
ただ一般的に複合上位スキルといえば“身体強化”なのだけど、その効果はこれほど強烈なものではないのだ。
"強化体"か。“身体強化”の上のスキルって事だろうか。聞いたことないけど。
俺は試しに適当な岩を素手で殴りつけてみる。
ヴァボッッゴッォンンン
結果は俺の勝利。俺の拳は岩を余裕で打ち滅ぼした。
さきほど剣を失ってしまったから、いったん町に引き上げようと思ってたけど。
「ふーむ、はっは~~ん、さては、これ…… 剣いらないな?」
剣無しで全く問題は無さそうだ。
むしろ素手で殴ったほうが強いと思う。安い剣など何本あっても爆散するだけだろう。
それからしばらく、俺は力の調整を練習しながら森の魔物達を狩った。
始めは簡単に爆滅させてしまい、なかなか素材が獲れずに困ったほどだった。
今までとまったく変わってしまった身体感覚に戸惑いながらも、しだいに程良い力加減で獲物をしとめる事に成功し始める。
「よーし、もう一匹」
前方に見える魔狼をロックオン。
ヒューッと行って、ドッ・
拳を繰り出した瞬間に異変を感じる。
「おっ、お待ちください!」
俺は撲殺直前で手を止めた。
「魔狼がしゃべった」
魔狼が両手を挙げて降参し、突然言葉を発したのだ。
今朝は小さなトカゲが言葉を発したし、今度は魔狼。今日は動物や魔物が喋る日なのだろうか?
「偉大なる御方。魔狼のような狂った狼と我らは違います。我らは大地の精霊、コボルト」
二足歩行の犬がそう名乗った。
確かに。近くで見たら全然違う。
魔狼は大きくて牙が長く、よだれダラダラの狼。
いま目の前にいるのは、そもそも2足歩行だし全体的にかわいらしい。服も着ている。
藪に隠れて顔しか見えなかったから間違えてしまったようだ。
「いやはや、すみません。突然襲いかかってしまいまして」
「めっそうもございません。弱肉強食は世の摂理。あのまま倒されてもしかたのない事です」
お互いに、いやいやこちらこそ、いやいやこちらこそと恐縮してしまう。
そこに現れるのは数匹の別なコボルト。
土がモコモコと盛り上がったかと思うと、モフモフのコボルトが姿を現したのだ。
その中で少し身なりの良い1匹が前に出る。
身長1mちょっとかな?
2足歩行のわんちゃんがぴょこぴょこ歩く感じなので可愛らしい。
「膨大な闇のマナを扱う偉大な御方。お近づきになれて光栄です」
恭しげに頭を下げる。
「いやいや、やめて下さい、どうしたのですか。俺ごときはそんな、偉大どころか町の最底辺ですから」
俺の話がいまいち通じない。
とにかく恐れ敬われる。
いちいち話が長いので要約してしまうと、要するに俺のマナを分けてほしいらしかった。
「マナですか」
「はい。この地に出てきてみたところマナの消耗が予想以上のものでして、我らこのままでは消滅してしまうのです。住処に帰るための力すら失っている状態でありまして」
そういう事らしい。
「ふーむそうですか。どこにどうやって帰るのやら分かりませんが、俺の身体に問題がない範囲でしたら、マナをお分けするのはかまいませんよ。やり方も分かりませんが」
「「「おおお」」」
「ありがとうございます。これで我らは救われます」
なんだか突然の出来事にあっけに取られている内に、コボルト達が集まってきて俺の指先に口をあてる。穏やかにマナを流し込むと、コボルトさんの喉がごくごくと脈動した。
初めは腕ごと喰われまいかと少し心配してしまったのは内緒だ。
それから代わる代わる順番に進めてほんの数分。
「偉大なるエフィルア様。我らをお救いいただきありがとうございます。私はこの部隊の長、じょいぽん。ぜひ、お近くにお立ち寄りの際にはお越しください。一同歓待いたします」
コボルト達はその言葉を残し、大地に溶け込むように消えていった。
地面の上には、握りこぶし大の銀白色の塊が残された。
「なんだろうか、これは」
「あ、すみませぬ。お礼のコバルト鉱です」
一瞬、ひょこりと地面から顔を出してそう言うと、今度こそ消えていった。
お近くにお寄りの際って言ってたけど、どこなんだろうか?
コボルトの住処? この近くにあるのだろうか?
聞いたことがない。
出来れば今すぐ連れて行ってほしいぐらいなのだが。
「おーい、じょいぽんさーん」
俺の願い虚しく、彼らが再び姿を現すことはなかった。
いつまでもこうしていてもしょうがないか。
俺は気を取り直して狩りを再開する。
かなりコツをつかんできた。
とりあえず魔狼3匹に魔ウサギ2匹をゲット。
他にオークとレッサートレントなんかも数体倒したが、かさばるから持って帰るのはあきらめた。
運搬手段が無い。
オークは、1人で手ぶらで来て討伐するような相手ではないのだ。
魔物の核である魔石だけは小さくて持ち帰りやすいので無論回収したが。
そんなこんなで近くにいた魔物との戦いを終えると、またLVが1つ上がってLV36になっていた。
これでちょうど、もとのLVの3倍になってしまった。
気がつけば空では太陽が傾き始めている。
そろそろか。暗くなる前に町に帰ろう。
町に…… か。どうなるかな? ま、行ってみよう。
スキルやLVの事なんて、基本的には他人には分からないのだ。
無理やりステータスチェッカーを使って測定されない限りは。
それにだ、最初はこの身体の事がばれたらどうなるかっていう不安はあったのだが、戦っているうちにはそんなものは消し飛んだのだ。
たぶん何とかなる。
今の俺、あの町の誰よりぶっちぎりで強いだろうから。
いやそれどころか付近の町全てを合わせてもそうだろう。
各町で一番強いのが、町の防衛責任者でもある冒険者ギルドのマスターで、上級冒険者の上のほうの実力だ。
いっぽう俺は、LVだけで考えたなら上級の下のほうにギリギリ入るくらい。
ギルマスには少し及ばない。
だけど、バケモノ用のスキルがそろってるから実質その何倍も強いだろう、間違いなく。
例えばギルマスというのは、素手で岩を砕けないはずなのだ。
それに天敵だった聖女エルリカの聖魔法だって、今なら純粋な魔力の高さと魔力強化のスキル補正でまったく問題にならないだろう。
いくら弱点だといっても、根本の魔力が圧倒的なら十分に耐えられる。
そんなわけで、今の俺に町に戻る恐怖心は一切無くなっていた。
何かあっても蹴散らして出てくれば良いだけだ。
ボロイながらもかろうじて存在する我が家へ帰ろう。
…… もっと早く開放してたら結果は違ったのだろうか?
これまでの生活に思いを巡らせながら、俺は住処へと帰るのだった。




