第19話 トカマル君と古城の奥と、
さてと。
イカも食材になってしまったし、今日はアンデッドが巣食うという埋もれた古城まで来てみたわけだが。
実際にこの場所から城の外観を見ただけでは、本当にこれが城なのかどうかも良く分からない。
なにせ城全体が地中に埋まっている。この入り口の前だけが露出しているにすぎないのだ。
扉はそれほど大きいものではないが、確かに城か砦か、そういった構造物の造りではある。
コボルトさん達がこの城を怖がっているから様子を見にきたのだが、トカマル君的にも冥界への繋がりをここに感じるらしい。俺としても何か呼ばれている気がしないでもない。
そんな感じで俺とロアさんとトカマル君と、それにコボルトの騎士団から選抜された10名。
このメンバーで内部の探索を実施する予定だ。
「エフィルア様。情報どおり中にアンデッドが巣食っているようでしたら、僕に戦わせていただけませんか? それで、不足しがちな栄養素が摂取できるのです」
健康食品のうたい文句のような事を、骸骨トカゲ系美精霊少年のトカマル君が言い出した。
「危険のない範囲でなら良いけど、十分気をつけて」
俺はそう言ってから、ギルマスにもらった丈夫な剣を彼に渡す。
「これを? よろしいのですか?」
「ああ、どうも使いそうにないからね」
俺の場合、剣を使うより拳や爪のほうが強いからな。結局あまり使っていないのだ。
いちおう世間体の為に腰に下げてはいたのだが。
「なんてことだ。エフィルア様から賜ってしまった…… ね、見てた? ロア姉」
「いいな、トカマル君。いいないいないいな」
トカマル君に自慢されたロアさんが駄々をこねる。
なんでもいいから何か貰いたいと駄々をこねる。
しかし、何もあげられるようなものを俺は持ち合わせていない。
今準備出来そうなのは、肩叩き券くらいだろうか。
「ロアさんはまた今度ですね。なにか良い物があれば」
「はぁい……」
ロアさんはすんなり聞き分けてくれるが、しかし悲しそうに返事をした。
「たの もーーう」
一方のトカマル君は元気いっぱい意気揚々。古城の扉を勢い良く開け放ち、剣を握って入っていこうとするのだが、俺はそれを止める。
「トカマル君まって。危ないから」
「???」
俺の呼びかけに首を傾げるトカマル君。
「エフィルア様、トカマル君なら大丈夫ですよ。中には普通のスケルトンぐらいしかいませんから」
ロアさんはすでに城内の広い範囲を探知術で把握している。
俺とて少しは中の探知はしてあるので、入り口付近にはたいした相手がいない事は分かっている。
トカマル君は種族特性的なものなのか、人間のように特別な訓練をせずとも初めからある程度戦えるらしい。草食動物の子供が生まれてすぐに走りだすようなものだろうか。
これが人間形態での初めてのまともな戦闘。それでも実際にトカマル君の身のこなしは素晴らしいものがある。
あらためて周囲を見回してみると、どうもうちのメンバーは皆ちびっちゃい。
ロアさんだって人型のときは華奢な体だし、ついて来てくれたコボルト騎士団のみなさんにしたって、2足歩行の中型犬くらいの身長しかないのだ。
俺だとて身体は大きいほうではないのだが、どうしても引率者感がでてしまう。
だから出来るだけ俺が最前線に居たくなる。
みんなより俺のほうが圧倒的に頑丈なのだし。
「よし、やはり初めに俺が。次にトカマル君。ロアさんはコボルト騎士団の皆さんをフォローしてくれますか」
「はい。お任せください」
そんな感じで、、石造りの古びれた城へと突入する。
中に入り、あたりを見回す。
「かなり広いね、そしてスケルトンだらけだ」
城内に1歩入ってみると、そこはエントランスホールの中2階のような場所だった。
この階の下が本来の入り口だったのだろうか?
そこら中に骨の破片が散らばっている。
それが俺達を察知してカタカタと動き始める。骸が起き上がり、剣を抜く。
「エフィルア様、やっていいですか?」
トカマル君がまっすぐな瞳で訴えてくる。
「十分気をつけて、離れないように」
「はいっ、じゃあ行ってきます!」
いや、トカマル君よ、行ってきますじゃないが?
むろん俺も一緒に戦うのだが。
だいたいだね、スケルトンは戦闘能力こそ高くはないがタフなのだ。
物理的に破壊して倒したと思っても、いずれ復活してくるから厄介なのだ。
しっかり粉みじんに爆滅したり、聖属性魔法で浄化したり、骨も残らないほどの火力で焼き尽くしたり。それぐらいしていかないと、気がついたら倒したはずのスケルトンの群れに囲まれていたなどという事態に陥ってしまう。
ロアさんとコボルト騎士団には、入り口付近で退路の確保をしておいてもらうとして、まず俺がお手本を見せてあげようじゃないか。などと考えている一瞬に、
「ひゃっほーー」
もう楽しそうに大暴れしているトカマル君。
各種スケルトンたちは、速度的に全くついていけないようで、一方的に蹂躙されていっている。
ふうむ。やはり戦闘能力自体は大丈夫そうか。だが、これから徐々に倒したはずのスケルトン達が…… ん? なんだ? そのまま消滅していってるな。
トカマル君に打ち倒されたスケルトン達から、なにかホワホワした仄かな光が抜け出していくのが見える。それは宙をさまよった後にトカマル君の身体に吸い込まれてゆく。そしてスケルトンの骸は灰のようになって消滅。
いったん止める。トカマル君を止める。
何がおきているのか確認する。
どうやらトカマル君は、霊魂の残骸などを摂取しているらしかった。
あるいは怨念や、瘴気の類までも。
すでにこの数日でマナや鉱石は十分な量を摂取しているそうで、後はこれさえあれば、デスナイトっぽい姿になれるらしい。
もっと大きく、丈夫な身体になるらしい。
そうか、分かった。それならば沢山お食べなさい。
しっかり食べて大きくなるのだぞ。
戦闘再開。
トカマル君の強さは十分承知した。
特に、対アンデッドに対する相性の良さは抜群だ。
どうやら本当に冥界から来た精霊らしい。
ただのなトカゲ系精霊男子ではなかったのだ。
眼光鋭く、次々に襲い来る骸骨剣士、骸骨アーチャー、骸骨アサシンなどなどを、モリモリとトカマル君が打ち砕いていく。
俺はなるべく防御行動に徹することにした。
盾役は慣れているので任せてほしい。ただしアーチャーに対してだけは、魔弾を放って武器を破壊しておく。危ないからな。
トカマル君が相手を俊殺していく。
だんだん俺は暇になる。
これなら身体をかじられなきゃいけないような事態も起こりそうにない。
「エフィルア様! 溜まりました!」
ひとしきり各種骸骨軍団を倒したところで、トカマル君が報告してきた。
ついに超進化の時が来たようだ。
デスナイト系の姿と言うが、実際どんな感じなのだろうか?
俺達が見守る中、暗く眩い光を放ち始めるトカマル君。
その光が膨らんでいき、新たな姿が形づくられていく。そして……
「どうですかエフィルア様?」
変体を終えたトカマル君は、俺よりかなり背が高くなっていた。デスナイト感が凄い。
頭部には、すっかり全体を覆ってしまう、厳つい外骨格のようなものがある。
いや、それは頭部だけではない。
身体のほうには鎧のような外骨格がある。
骨と宝石と金属と鱗で出来た禍々しい鎧兜を身にまとった人外の戦士の姿。
おまけに闇の波動? みたいなものもグィングィン渦巻いている。
とても逞しくなったなトカマル君。
「うむ、とても強そうな感じだ」
「はいっ! ありがとうございます! エフィルア様の魔力もたくさん食べさせていただいたので、こんなにもキラキラですよ!」
嬉しそうに、屈託の無い笑顔を向けてくるトカマル君。
顔を覆っている仮面のようなものの奥には、今までと同じ元気な彼の表情が垣間見える。
中身や性格に変化は無いようで少し安心する。
成長して凶暴になったり、グレたりしたらどうしようかなどという心配はいらなかった。
「トカマル君っ! かっこいいねその外骨格。禍々(まがまが)しくて素敵だよ!」
「へへっ、そうでしょう?! ありがとうロア姉」
「ああ~、私ももう少し凶悪な見た目に成れれば良いんだけどな」
「え、ロア姉のオオカミ牙は凄くかっこいいよ!」
「おー、ほんとうに? ふふふっ」
また2人でキャイキャイと盛り上がりだした。
一方コボルトさんチームはトカマル君の超進化に対して、“おおっ”と軽くどよめいた程度で、この2人ほどの盛り上がりは見せていない。
コボルト的美的感覚はまた少し違うのだろうか。
さて、トカマル君のLV上げも無事完了した事だし、城の中の探索を進める事にする。
ウチには便利な地図職人がいるので、無闇にあちこち歩き回らないで済むのが助かる。
「大きな魔力反応が最上階付近に1つ。最下層のあたりにはやや強めの魔物が多数存在します。あとの場所は雑多なスケルトンや、レイスの類がほとんどです」
上層の強そうな存在は玉座の間らしき場所にいるらしい。
王様だろうか? まずはそちらに挨拶をしにいくことにした。
道中では相変わらずトカマル君が暴れまわり、宙に漂うおぼろげな光りを回収していく。
なんともゲームのエフェクトっぽい様子であり、いかにも、あの光を集めていくとパワーアップしそうな雰囲気がある。
コボルト騎士団の皆さんは、実は選びぬかれた精鋭らしいのだが、大暴れするデスナイト君と、オートマッパーさんの活躍により、あまり出番がない。
彼らも大層な意気込みを持って俺について来てくれただけに、少し申し訳ない気分になるほどだ。
そして到着する、最上階手前の大広間。
玉座らしきものが確かに見える。
その傍らに偉そうな感じの赤い骸骨もいる。
「恐らくスパルトイですね。龍の骨で作られた特別なスケルトンです」
たしかに。冒険者ギルドの資料室で見た絵姿と良く似ている。
「じゃ、あれも貰っていいですか?」
トカマル君は新たな力をもっと試してみたいようだ。
普通のスケルトン相手では、いくら数がいても、もう勝負にならないという。
この間まであんなに小さなトカゲだったのに、大きく立派になったものである。
「よし、討伐を許可する。がんばれトカマル君」
「はいっ!」
元気いっぱい、突撃するトカマル君の姿。
身体が大きくなったから剣が小さく見える。今の体格なら巨大な両手剣とかが似合いそうだな。
気合一閃で一刀両断。一太刀のもとに真っ二つにされたスパルトイが、ぐしゃりと地面に崩れた。と、
グラリ ゴゴ ゴゴゴゴゴ
「なんだ? 揺れている?」
どうも、城全体が大きな振動に包まれているようだ。
ファンタジーなゲームでよくある、あの展開だろうか?
ボスを倒すと城が崩壊するやつなのだろうか?!
などと考えたが、どうも様子が違うらしい。
城だけではなく、それ以外の場所も含めた地下空間全体が、捩れだしたのではないかと、ロアさんは言う。




