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第16話 コボルトと坑道街




「ロアさん、とりあえず元の姿に戻ってください。この通路狭いのですよ」

 どでかいオオカミ姿のロアさんがじゃれついてくる。

 この、くそ狭いダンジョンの小道でである。

 まるで通路に毛玉が詰まっているような状態だ。



「エフィルアさん。どうですか、これが私の本気です。大きいでしょう? フェンリル系人狼なんですよ?」

「ロアさん。分かりました。分かりましたから小さくなってください」


 なんとかオオカミ耳状態に戻ってくれるロアさん。

 シュルシュルシュルと小さくなっていく。

 全身を覆っていたフサフサの毛皮が消えて、ツヤスベの綺麗な女の子の肌……

 全身つるつるなお肌があらわに。


 ん。裸である。

 いくらロアさんの平和的な胸部といえども、これでは流石に戦乱を巻き起こすであろう。


「あああっ」

 今さら気が付いて、恥じらうロアさん。


「着てください」 

 着替え用に持ってきた服をササッととりだし、ロアさんにかける。


 いやー、そりゃそうなるよね。でかくなるとき服が破れるよね。

 これは変身すると絶対に服がだめになっちゃうやつである。




「それでなんですけど、エフィルア様。お供としては、どの姿がいいですかね?」

 ざっくりシャツを羽織っただけのロアさんが尋ねてくる。

 人の姿と、フェンリルの姿と、その中間と、どれが良いのかという質問だった。


「んん、能力的な違いは?」

「はい。魔法的にも物理的にも出力が一番大きいのはフェンリルの姿です。逆に、気配を消したり、探知したりするには人間の姿が有利です」


「なら、中間くらいが良いのでは?」

「中間ぐらいですね、分かりました。ふっふっふ、実はですね、それは見た目的にもお勧めです」


 そういって微妙に姿を変えていくロアさんオオカミ。


「じゃーん、どうですか」

「セクシーですね」

「おお、お褒めの言葉、ありがとうございます」


 胸とか腰周りとかの際どい部分だけがオオカミの毛皮になっている。

 肌色の面積が広い。


 クルクルと回ってその姿を見せてくれる。だけどね、それ全裸ですよね?

 オオカミの毛が生えているだけで、全裸ですよね。

 というふうに俺は思うのだが、



「ロアねえ、それいいね。魔族っぽくてかっこいいよ」

 トカマル君には好評のようだ。


「ほんと? トカマル君ありがとう」


 すっかり仲の良い様子の2人が楽しそうに談笑している。

 魔族的な美意識について意気投合したようで、きゃっきゃしているのだ。

 妙に楽しそうだ。


 軽い。実に軽い。

 ダンジョンに潜っているというのに、なんという平和感なのだろう。

 


 なにはともあれ3名とも無事に通過できた事を今は喜ぼう。

 さてと、ここから先は…… と。



「エフィルア様! エフィルア様だ。 エフィルア様が来てくれたぞーーーー」

 うん?

 なんだ?


 声のするほうに目をやると、見覚えのある姿。

 身長1mくらいで、もふっとした2足歩行の犬。コボルトである。

 どんどん集まってくる。


「到着しましたね、コボルトの坑道街」


 近い。思ったよりも近かった。

 あの障壁さえ抜ければすぐだったのか。


 ミニトカゲ姿のトカマル君が、短い人差し指をピッと立てて、襲来するコボルト達を越えた向こう側を指し示す。


 この細い通路から、奥に向かって段々と空間が広くなっている。

 その先に明かりが見える。

 小さな家が見える。

 それはトンネルの両側に地面をくりぬいて造られた建物。ガラス窓の奥やバルコニーには柔らかな明かりが灯る。

 


「エフィルア様。良くぞお越しくださいました」

 迎えてくれるじょいぽんさん。


 見慣れていないコボルト族の顔の違いを見分けるのは難しいが、おそらくじょいぽんさんだろう。

 彼が町のほうへと案内してくれる。


 それにしても、今日はなんと犬まみれな日なのだろうか。

 ウチにはロアさんというドデカイのがいるから、それでもう十分なのだが。


「エフィルアさん? ワンコロと偉大なるフェンリルオオカミを同種と見てはいけませんよ?」

「分かりました、ロアさん」


 おかしいな。口には出していないのに。目線でばれたのだろうか? 

 しかしロアさん。そうは言っても先ほどのじゃれつく姿は、コボルト達よりよっぽど犬っぽかったです。そもそもですね、コボルトさん達をワンコロ呼ばわりは失礼になったりはしないでしょうかね。

 

「うー、ごめんなさい」

 突然ロアさんがごめんなさいしてきた。

 俺は何も口に出しては言っていないのだが、

 なんだろうか? すごく察するよね、ロアさん。

 さすが人狼といったところなのだろうか。

 まさか、心を読んだりしてないだろうな? 心配になって聞いてみる。


 そこまでの事は出来ないそうだが、とにかく察しはいいようだ。


 そして並び立つ家々のある辺りまで進む。

 俺たちの周りに沢山のコボルト族が集まってきている。

 問答無用で駆け寄ってくる子供コボルト達。

 あるいは窓から身を乗り出してこちらを見ていたり、それから声をかけてくるのもいる。


「エフィルア様。あそこの障壁を越えていらしたのですか?」



「はいそうですよ」

「「「おおおおお」」」

 沸き立つコボルト族。なんぞや。


「我らにはとてもあの障壁は抜けられませんでした。ですから地上へは土の中にもぐりこみ、空間断絶の穏やかな部分を選んで移動して、そうして周囲の調査をしていたのですが、」

「なるほどなるほど」


 話を聞いていると、どうやらコボルト達も突然の地形変化に困惑している最中のようだということが分かった。


 つまり人間側がこのダンジョンの出現に不安を覚えていた頃、それと同じようにダンジョン内の生き物たちも、戦々恐々としていたのだ。


 霧の魔物がいた場所と、この坑道街、少なくともこの2つは元々、全く異なる場所に存在していて、それが今は時空の歪に巻き込まれている。


「探索の最中、地上に出てみたものの近場の地脈が全て枯れておりまして、立ち往生ということに」


 話によると、コボルトさんの地中移動はマナを消費するらしい。

 そのうえ姿を維持するだけでもマナが必要になるらしい。


 いい感じの地脈が流れている場所に戻らねばマナが回復できないが、その場所に戻るためのマナがない。つまりだ、腹ペコ過ぎて動けない状態だ。そして俺に合う。


 腹ペコか、腹ペコ辛いな。


 ちなみに本来彼らは直接的な闇の眷属ではない。土属性がメインで、闇属性は補助的なものだそうだ。


 しかしコボルトさん曰く、闇属性のマナは全ての源流。効率よく他の属性に変換して使えるらしい。

 

「聞いたことのない話ですね」

 俺がそう呟くと、コボルト達は首を横に振った。

 おろかな人類には出来ないようだが、偉大なコボルト族はできるのだと、彼らはそう言うのだった。いや、俺も人類…… じゃないか。

 

 

 もしかすると人間界でも、半分人を捨てたネクロマンサーとか、あるいは俺とか、そんなヤツラは気づいている事なのかもしれない。

 異端すぎて相手にされないだけで。



「人の身には過ぎた力ということでしょうな。扱い方を間違えれば、狂気化した魔物になってしまうという点は確かにございますゆえ」


 人からネクロマンサーになった者の末路も、正気を失った後にアンデッド化すること間違いなしと言われている。

 餓鬼か幽鬼か、良くがんばってリッチー(上位アンデッド)になれるかどうかだという。

 

 もしや俺も、今は大丈夫でも将来的には正気を失ったアンデッドになるのか?

 “狂気化制御”と“変体制御”のスキルは積極的に鍛えていきたいと思う。

 


 そんな俺のひそかな心配事をよそに――


「宴じゃ宴じゃ、今日は宴じゃ~~い」

 いつのまにか盛り上がり始めるコボルト達。 

 町の中心あたりまで案内される俺達。


 そこらじゅうの家々から椅子やテーブルが運び出されてくる。

 コボルトさん達は元気いっぱい。

 そして飛び交う皿とコップ。短い手足で走り回るコボルトさん。  


 気がつくと、俺達に用意されたテーブルの上には素晴らしいご馳走の数々が用意されていた。


 皿の上にゴロンと岩が乗せられてるのも料理だろうか? 

 俺には食えそうにないが。

 しかし、ありがたいことに普通の魔物肉料理なんかも並べられている。



 コボルト族は人間とは少し違うものも食べるようだ。

 主食は地脈から採集した地属性マナ。

 他には宝石や鉱石、魔物から獲った魔石なんかも食べるらしい。魔物肉も食べるが人間ほどではない。


 さてどうしよう。この石ゴハンも食べられるだろうか?

 箸をつけたほうが良いだろうか?

 やはり歓迎の席で出された物を残すのは良くないだろうか?

 などと考えていると、目の前にはちゃんと人に向いた食事が取り分けてもらえた。


 ふうむ、肉である。魔物肉である。

 しかも、この香りである。この、なつかしい香り…… そう、これは香辛料である! うわおっ 香辛料?! こっちの世界に来てから始めての香辛料、香辛料なのか?! 香辛料じゃないか!


「ささ、どうぞ」


 進められるや否や、香ばしく焼かれたステーキにかぶりついてしまう俺。

 それはもう塩味もしっかり利いていて、美味すぎる。美味すぎて申し訳がない。噛むほどに申し訳ないほどの肉汁があふれ出す。


「うあああぁぁぁぁ、うまいぃぃぃぃぃ」

 思わず声を挙げてしまう俺。


 いや、だって、まいったなこれ、美味いなこれ。

 なんてったってだよ? この10年以上、まともなものを口にしていないのだ。


 チビだった頃なんて何時も飢えていたし、最近は狩りが上手く出来るようになってきていたから量はまかなえていたものの、もちろん調味料なんて使えない。美味くて人気のある肉が手に入っても、売ってしまって自分の口に入ることはほとんどない。食べるにしても焼いて食うだけだ。


 だから塩胡椒の味と香り、うっっまっ。口の中が馬鹿になりそう。うまっ。かぁぁっ、うっっっまっ 

「ふあああああああ」


 俺のあまりの自己崩壊ぶりにコボルト達が引いている。が、俺は食う。

 ロアさんとトカマル君は俺の極貧事情を知っているせいか温かく見守ってくれている。


 かと思いきや抱きついてきた。

「「エフィルア様っ」」 ひしぃっ っと抱きついてきた。

「ロアさんっ、トカマル君っ!」

 高揚している俺は抱きしめかえし、良く分からない感動に打ち震える。


 それから上機嫌になりすぎた俺は、あらん限りのマナを魔石にぶち込んでコボルト達にふるまってみた。

 きのうトカマル君が喜んで食べてくれていたから、披露してみたのだ。

 するとコボルト族の皆も、これを美味そうに食ってくれた。


 トカマル君と違って、マナの注ぎ方に細かな注文を言ってきたが、そのとおりにしてやると、たいそう喜んでもらえた。


 それどころかだ、周りにいたコボルト達が手持ちの宝石や鉱物を持ってよこし、(エフィルア様)のマナを注ぎ込んでくれと頼んでくる。


「「「うまぁ、エフィルア様のマナうまぁっ」」」


 宴は最高潮に盛り上がる。

 魔力を放出したせいか、俺は再び腹が減る。そして喰う。


 始めはただ石にマナを流し込んでいただけの俺だったが、次第に鉱石料理の方法を教わり、次々に自前の膨大なマナを贅沢に使ったメニューを完成させていく。


 飲めや食えや歌えや踊れ、もう食えない。さすがに食えないぞというところまで皆がオーバーフローし、やがて、1人、また1人と地べたに倒れていく。


 最近力があふれ気味だった俺といえども、もう腹いっぱい過ぎるし、マナも枯渇してくるしで、さすがに限界を向かえた。気がついたら寝ていた。

 むにゃむにゃ、もうお腹いっぱいで食べれないよ といったところだろう。




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