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第15話 がるるるる


「がるるるる 正体を知られたからには生かしてはおけない!」

 ロアさんがガルルっている。


「何言ってるんですか。自分で正体を見せてきたんでしょうに」

「はい。そうなのですけど、それくらい重要な秘密という事なのですよ、エフィルアさん」


 ふーむ。

 まっ、要するに彼女も俺と似たような存在だったらしい。

 半人半魔物ってところだ。


 幸い彼女の場合、俺と違って人間の中に隠れ住む能力に長けた種族だったため、ぜんぜんバレてなかったし、あの町では酷い目にもあってなかったのだが。

 特に、俺と接触するまでは何事もなかった。

 

 ロアさんの種族である人狼は、昔から人間とのいざこざが絶えなかったそうだ。

 まあ、人間に化けて紛れ込んでいるのだから当然といえば当然だ。


 人狼の中には人間を襲う者もいたそうだ。

 そういった話は昔話にも良く出てくる。それだけ人間の中に浸透している。


 それが次第に数を減らしていって、今ではもはやロアさん以外に生き残りがいるのかも分からない状況だという。

 もともと人狼だけでは群れを造らない習性だった事も災いしたようだ。


「という事でエフィルアさん。なにとぞ、おそばに置いて下さい」

 だそうだ。


 同族がいないってのは、どんな気分だったのだろうか…… 

 あの町に流れ着いて、ギルマスのおかげもあって生きていく事は出来たようだが。


 そしてしばらく住んでいる内に俺という異質な存在に気づいたらしい。

 なんとか仲良くなろうとしたが俺のほうが中々近寄らせてくれなかったという。


 んー。ロアさん人気者だったからね。下手に近づくと男共がやっかいだったんだよ。

 ロアさんとしても、邪悪の化身のような扱いすら受けていた俺にことさら近づけば、自分の正体についても勘ぐられる可能性を考えて無理はできなかったみたいだ。

 彼女は人間と敵対する気も無かったが、向こう側からすればそうもいかない。


 少女誘拐の夜の件で、その懸念はしっかり具現化した格好になる。

 俺との接触をギャオのヤツがゴチャゴチャ言い始めていた。


「あの時は…… 突然エフィルアさんが自重しない身体になってギルドのカウンターに立っていたのを見て、ついテンションが上がってしまってました。かついできた獲物を見ても明らかに変化がありましたし」


「話は分かりました。まあ好きなところまでついてきてくださいよ」

「おお、好きなところまでで良いのですね」


「はいどうぞ」

「では、ずっとついていきます」

 なんだろう、なんか返事に困る。



「ちなみに、私はまだあと1回変身を残しています」

 崖を下り始めてしばらくするとロアさんが自慢げに話してきた。

 こんどはネコミミでも生やすつもりだろうか。



 さて、ついでなので17階層に霧の魔物が再発生していないかをロアさんに確認しておいてもらう。魔物の種類によっては頻繁に再発生するものも多いのだ。

 大丈夫そうだ。


 だが、なんということであろうか、バジリスクは居る。

 いるそうなのだ!


 昨日絶滅させてしまったかと思ったのだが。今日は新たに湧いていた。

 わが身は喜びに打ち震える。

 昨日ゲットし損ねたレアスキルを観察出来るではないか。

 出来るではないか!


 狙うのは“石化ブレス”と“即死術”。

 やったぞ、俺はこれらを“魔導視”でバッチリ観察完了した。


 観察して分かった事。

 まず嬉しい事に2つとも闇属性であった。

 もちろん石化ブレスは俺の喉では構造的に使えなかったが、それでも、観察だけでも出来た事は喜ばしい。


 即死術のほうは俺の目でも出来そうだ。

 目から即死光線が照射された。実にロマン溢れる技である。

 どの程度の相手にまで即死の効果があるのか、そのあたりは検証が必要だな。


 このスキル放っている姿を想像してみる俺。

 頭から角を生やし、目から即死光線を発射する自分の姿。

 んん、変かな?


「ええっ、絶対かっこいいですよ? 目から即死光線なんて。ねえトカマル君」

「もちろんですロアさん。エフィルア様にふさわしい技ですね」


 そういうものだろうか?

 2人に聞いてみるとそんな返事が帰って来たのだが。


 日本での常識と、この世界の人間の常識と、この世界の人外じんがいの常識が俺の中でせめぎ合う。


 そんな17階層での用事を済ませてから、見つけておいた横穴へと向かう。


「エフィルア様この向こうが坑道街ですかね。凄い瘴気です」 

 

 細い横穴を抜けた先には、まるで空間を断裂させるかのように(ほとばし)る瘴気の波があった。

 ロアさんでもこの先の様子は分からないらしい。


「これ、通り抜けられるのか?」

「エフィルア様なら余裕かと」


 ほんとかよ。トカマル君ほんとかよ。

 そもそもが0歳児だから、いまいち説得力がないと思う。


 とりあえず試しに小石を投げ入れてみた後、指の先っちょでツンと一瞬触れてみる。

 指先くらいなら、もし消し飛んでもすぐ治るだろう。

 つんつんと。


「おお…… なんともないな」

 実になんともなかった。

 いや、少しくすぐったいというか、表皮が(おか)されてるな~という感じはあるか。


 そもそもだ、瘴気というものが何なのかは知らないが、どうやら俺には効果がないように思う。むしろ心地よさすらある。

 瘴気の濃い森に好んで住む魔物がいるくらいなのだから、それも当たり前かもしれない。


「2人は行ける?」

「ふっふっふ、もちろんです。何の為に私が人狼化したと思っているのですかっ」

 おお、強気である。


 確かに魔力はかなり上がってるみたいだが。

 しかし彼女が本当に人狼なのかについては、ちょっと疑っている部分もある。

 だって、見た目はオオカミミミと尻尾が生えただけなのだ。


 その姿は物語に聞く人狼のイメージとは少し違う。

 ロアさん曰く、自分は制御が上手だから調度いい塩梅あんばいで変身が出来るという事だ。


「良いですかエフィルアさん! 人間の身体ではダンジョンの奥から湧いてきている瘴気の濃度に耐えられない! そう思って既に人狼化してあるのです。これからが私の本気です」

 

 おお、なるほど。さすがロアさん。これをあらかじめ見越していたとは。


「ところがっ!」

 ところが?


「こんな酷い障壁は想定外でした。なんなんですかこれは」

 見越せていませんでしたか。


 どうやら、普通に濃度が濃いだけの瘴気を予想していたらしい。

 今目の前にあるものは、ぱっと見ただけでも分かる異様さがある。

 なにせ、瘴気の波で空間がぐんにゃりしてしまっているのだ。

 


「じゃ、俺は大丈夫そうだし先に行ってみるか」

「エフィルア様、僕も手の中にしまって連れて行ってください」


 トカマル君は元の小さなトカゲの姿になって、俺の手の中に納まる。

 ちょっとはみ出ているけど大丈夫だろうか?


 がんばれば大丈夫との事なので、俺はエイヤァと障壁を抜ける。

 まずは右足をズッポリ。うん問題ない。そのまま一気に渡ってしまう。

 軽く変な感じはしたが、特に怪我もなく無事通過した。


" エフィルアさーん、今行きますから~! "

 ロアさんの声がうっすらと聞こえた。遥か遠くで叫んでいるかのようだ。

 口調が少し焦っている。


「ロアさーん。ここにいるから落ち着いてーー」

 俺はこっち側の様子を確認したかっただけである。

 もしロアさんが通れないようなら、また別のルートでも探してみよう。


" ぐるるうううう "

 お? ロアさんがぐるるってる。


" ウグウウ、ガァァァ、ヴ ヴ ヴ ヴォォォォォオオオオオンン ン "


 ズボォォ


 障壁からニョッキリと飛び出してくる前足・・。俺の眼前に現れた。

 それはとてもラージサイズ。

 次に飛び出してきたのは、完全なるオオカミの鼻、ラージサイズ。

 そしてオオカミの耳。ラージサイズ

 

 ズボーーン


 身長5mくらいはあろうかという巨大な2足歩行のオオカミが障壁の向こうから飛び出してきた。

 姿形はまるっきりオオカミ。だけど2足歩行。

 たしかに人狼である。いや、これ人狼か?


「いたい、いたい、しんじゃう」

 大暴れする巨大オオカミ。障壁によるダメージを受けたようだが、深刻なものではなさそうだ。死んだりはしそうにない。


 その証拠に、そのまま、じゃれついてくるロアさん。

「よしよし。落ち着けロアさん」

 なだめる俺。


「エフィルアさん! 大変です」

「ロアさんどうしたんですか」


「もう私には変身が0回しか残されていません」

 マイペースに、そんな良く分からない心配をする巨大オオカミ。

 んー。2段階の変身。あっというまに見せ切っちゃっいましたね。


 大きなオオカミは、頭を俺の身体にこすりつけてくる。

 流れで撫でておいた。

 一応女性の身体なのだろうが、つい撫でてしまった。

 これは良かったのだろうか?


 本人は嬉しそうにしている。ま、大丈夫だろう。



 

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