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第14話 もう1つの変貌だワオン




「おはようございます。エフィルアさん」

「おはようございます。ロアさん」


 ダンジョンの中で朝の挨拶を交わす。

 俺は、ロアさんが近くまで来ているのを感じていたので、すでに起床して身支度をしながら彼女を待っていた。


 トカマル君はまだスヤスヤと眠っている。

 食い散らかした鉱石の残骸の上でスヤスヤ寝ている。


「早かったですねロアさん。足はもう大丈夫ですか?」

「はい、すっかり完治してますよ。昨日の夜のうちに治療院で処置してもらえましたから。ギルマスも一緒だったので気合を入れて治してもらえたみたいです」


 石化というのは中々に厄介な状態異常である。

 各種の毒や麻痺、能力低下系の状態異常ならば聖属性の治療魔法や諸々のアイテムでなんとかなるが、石化は専用の設備のある治療院でないと対処できない。


「あ、2人ともおはようございます」

 ロアさんと話をしているとトカマル君も起きてきた。

 もぞもぞ もぞもぞ、身体の後ろに隠した手に、何か持っているようだ。


「エフィルア様。はいっ、どうぞ」

 そういって差し出された両手の上には、一本のナイフが乗っている。

 なるほど。おそらく昨日話していたアイテム生成能力で作ったのだろう。


「お、トカマル君、作ってくれたのか?」

「はい、旅立ちの記念のナイフです。どうか貰って下さい。エフィルア様」

「もちろん。ありがとう、トカマル君」


 見たことの無い材質に仕上がっているその短剣。ありがたく受け取る。

 戦闘に使うには小ぶりだが、魔物の解体なんかには使い勝手が良さそうだ。


 礼を言うと、トカマル君が抱きついてきた。

 良く分からんがロアさんも抱きついてきた。なんだなんだ。

 魔神化あるいは魔人化すると少し背が伸びるようで、ロアさんの身体も小さく感じる。


 良く分からんが、とにかく好意を向けられるのは嬉しいものだ。


 とまあ、そんな感じで合流を済ませると、俺達はとりあえず15階層までの道を進み始めた。


 道中、ロアさんが1つの袋を俺に手渡してきた。


「エフィルアさん。これはダンジョン探索と霧の魔物の討伐、それから手に入れた素材などに対する報酬です。ギルマスから預かってきました」


 それを受け取り確認する。

 この袋、見た感じは……、ダウィシエさんの持っていた運搬袋に似ているが……

 と、思っていたら本当にアレと同じ(たぐい)の物らしい。


 あれよりグレードは落ちるものの、高度な体積、質量低下の術式が付与されている。

 しかもその中には数週間分の食料と旅の道具が2人分。さらにおよそ数年分の生活費となるような大金まで。

 今までその日暮らしで生きてきた俺にとっては、見た事もない大資産だ。


「これはちょっともらい過ぎじゃないですか?」

「いえいえ、正当な対価ですよ。それと、ギルマスからの個人的なお詫びとお礼も少しは入っているみたいですが」


 個人的な……ね。うーん。

 この運搬袋ってやつは、並みの値段じゃないはずなのだが。

 それでもグレードはかなり低そうだから……。いや正確にはよく分からない。

 こんな高級魔道具とは縁がなかったんだからしかたない。


 それから、昨日借りた丈夫な剣。これもくれるそうだ。 

 今は必要ないので仕舞っておくが。


「ギルマス曰く、“私は長年エフィルア殿の状況を知りながら何も対策をうてなかった! 申し訳のしようもない” との事です」


「なるほど、そうですか。だけど、ギルドが俺の狩ってきた獲物を引き取ってくれていなかったら、とっくに俺は干からびていたのですけどね。十分助けられました。資料室も使えたおかげで、独学で勉強も出来たわけです」


 ロアさんはただ頷いて俺の話を聞いてから、小さな紙を差し出した。


「もう1つ。お手紙です」

「手紙?」


 受け取ってみる。へたくそな文字だが、一生懸命書いた事が分かるものだ。


 “エフィルアお兄ちゃん ありがとう すごく強いので、きっと元気だとおもいます また会いにきてね”


 そう書かれた手紙だった。


「先日助けた女の子からです。エフィルアさんは公式には行方不明という事になっているのですが、あの子なりに感じるところがあったみたいで」


 ふむ。そうか…… 律儀な子だな……

 もう少し曲がって育ったほうが何かと楽だぞ。今度あったら教えてやろう。


 俺達は一通り荷物を確認し終え、スピードを上げて一気に15階層へ。

 昨日作ったショートカットもあるし、すでに道順はロアさんが完璧にマッピングしてある。昨日よりさらに早く、瞬く間に到着した。

 15階層から断崖の下を見下ろす。


 コボルトさんからの情報と、ロアさんの広域探知での調査によると、この崖の途中にコボルトの坑道街へと続く次元の継ぎ目があるらしい。


 次元の継ぎ目か。物騒な雰囲気がするが大丈夫なのだろうか。

 ロアさん曰く普通の生き物には通れない場所らしい。

 やはりデンジャラス。


 では、その向こう側にいるコボルトさん達はどうやって地上に出てきたのだろうか? 

 そもそもこのダンジョンはなんなのだろうか。

 昨日はある程度の探索を終えたと思っていたが、コボルトの町がこの先にあり、それは幾つにも重なった空間の1つという事らしい。


 コボルトの坑道街もトカマル君のいう冥界も、もともとこの辺りに存在したものではないらしく、空間の(ひずみ)によって、今の地下ダンジョンの形に集約されているそうだ。


「僕も詳しい話は知らないんですけどね。冥府から転生してきたジュエルサラマンダーとは言っても、地上生まれですし、まだ先日生まれたばかりですし。インプットされている情報は最低限です」


 なんと、トカマル君は0歳らしい。冥府からの任務を与えられ輪廻転生してきたらしい。

 俺とは違い本当の意味での輪廻転生。完全に死んでまっさらな新たな命として。


「そんな大層なものでもありませんよ? 向こうでは自我があるようなないような、フワフワした存在だったようですから」


 しかし年下とは思っていたが。そう考えると、随分しっかりした0歳児である。

 言語能力とか知識量とか、その他諸々どうなっているのだろうかという疑問もわくのだが、それよりも、0歳児が単独でこんな任務を……


 俺はなんとなくトカマル君を抱き上げてしまう。

 がんばれよトカマル君。元気に育つのだ。


 ロアさんがこちらを見ている。なんだろうか。


「あの、私も」

 俺によじ登ろうとしてくるロアさん。

 ええと、確かにロアさんは小柄な人ですが、ちょっとその体勢は無理な気が。


「よいしょっと」

 結局俺は2人を肩に乗せる事に。そして角につかまる2人。

 2人とも軽いから別にかまわないが、この状態で会話をするのは何かシュールな雰囲気になっていないだろうか?


「それでですねエフィルア様」 

 お構い無しにトカマル君が話を続ける。

 どうも彼の使命の1つは、ある瞬間に冥府と地獄から漏れ出してくるだろう細かな霊魂や怨念を回収することだったらしい。


 地上に流れ込むのはいかんせん怨念なので、こちらの世界で暴走しかねない。 

 その際に困った事にならないようにと、あらかじめ派遣されたのがトカマル君と。


 それがあの夜だったらしい。町に不可思議な魔物が現れたのは、その怨念の影響だったようだ。

 聖女の親戚らしい小さな女の子がさらわれたが、目立った被害は結局それだけだった。


「もう1つ、一番大事なのが、エフィルア様のお迎えです」

 良く分からないがそうらしい。冥界にも地獄界にも知り合いはいないと思うのだが、向こうは何か用事があるようだ。ずいぶんと無理をして繋がりを求めたようで、それに関連した副作用が色々と起こっているのだと。ダンジョンもその一つ。

 


「あっ」 「どうかしましたか? エフィルア様」

 1つ思い出したぞ。

 俺さ、何か変な扉開けたよな?

 あれか? あれなのか? やばそうなのと眼が合ったんだよ。


 いや、いやでも待ってほしい。その前からダンジョンは出来かけていたはずだ。

 おかしな洞穴の発生は、それよりも少し前だったのだから一概に俺のせいとは言えないだろう。

 限りなく関連性が疑われるが、断言はできまい。


 まあいい。とにかく今はコボルト達が町で待っていてくれるというのだから、まずはそこまで行ってみよう。

 

「エフィルアさん。それじゃあ調度良いので、ここで私の裏超必殺技も見せますね」

 そして今度はロアさんが裏超必殺技の話をしだした。

 昨日とは名称が微妙に違う気がするが、それは気にしないことにした。


 ここまでの会話を、無意味に2人を両肩に乗せた状態で進めてきたが、ロアさんが下りて何かをやるようなので、トカマル君もついでに下ろす。

 なんだったんだよ、このダブル肩車は。


 さて、ロアさんによると、その必殺技は今後の旅に絶対に必要になるものなので、ここでやっておきたいらしい。


「本当に本当に私の最高機密ですから。エフィルアさんだから見せるんですよ? 嬉しいですか?」

「はい。嬉しいですよ」


「じゃあいきますね。 はっ」

 その掛け声と共に、ロアさんは常時拡散させている探知用のマナを集め始める。

 全てのエネルギーを彼女の深奥しんおうにまで圧縮していくかのような魔力の流れ。


「ウゥグゥ グア ガァ」

 そこから、ロアさんの様子が変わる。

「ヴァ ヴアァ ヴゥゥォガァァァ」

 目が血走り、筋肉が盛り上がり、犬歯がズグリと飛び出し凶悪な牙のように、爪がナイフのように、そして魔力がはち切れんばかりに膨らんでいく。 


「う ヴォォ ヴォァオオオオオオオオオオオオン」

 そして、その雄たけびと共に一気にその姿を変えていく。

 それまでの変化はほんの序章に過ぎなかったとでも言わんばかりに。


「ォォォ ォ ォン」

 ダンジョンの岩壁に残響が木霊する。


 なんということだ。 今俺の目の前にいるのは、

「イヌミミ?」

「オオカミミミですよ、エフィルアさん」

 大げさに変身した割に、最終的には可愛いらしいイヌミミ(オオカミミミ)を生やしただけのロアさんだった。


「可愛いですか? モフりたいですか?」

「そうですね、可愛くてモフりたいです」

 俺は適当に返事をしておく。


「それで、なんなのですか? そのオオカミミミ変身は。何か意味あるのですか?」

「一大事ですよ! エフィルアさん」

 オオカミミミねぇ。確かにイヌの獣人は話を聞くけどオオカミは……。


「人間と多少なりとも交流があるのはイヌの獣人です。ワンコロです。私は誇り高き人狼なのです! 人の町に忍び、息を潜める人狼、その生き残りなのです!」

 慎ましやかで平穏な胸を張ってエッヘン感を出すロアさん。


 俺は、そんな事よりオオカミミミって“ミ”が3つ続いてややこしいな等と考えているのだった。




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