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第13話 いろんなこと



 人間はやめた。

 これはもうしょうがない。町にも戻らん。そろそろ人間卒業するしかない。そうしよう。


 ダンジョンの中、俺は再びロアさんとダウィシエさんを抱えて、危険のない上層を目指し駆け上がる。町まで送りたいところだがそうもいかない。


 それにしても少しばかり油断していたな。まさか人間に戻れなくなるとは。

 なにせ“変体制御”と“狂気化制御”などという、いかにも心身の変化をコントロール出来そうな名称のスキルがあったから、自由が利くのかと思っていた。


 もしかしたら、闇属性による身体変化の強さが、制御系のスキルの力を上回ってしまったのだろうか?


 であればだよ? 制御の練習をすればどうにかなるのか? …… ……

 走りながら試してみる、が、今すぐにどうにかなるような感じはしない。

 そんな考え事をしながら走るダンジョンの中で、何処かで聞いたような声がした。


『エ フィ ルア 様』


 いや、声ではないか? 不思議な聞こえ方だ。


『エフィルア様』

 そしてやはり聞いた事のあるような声…… 誰だったか?


『じょいぽん、じょいぽんにございます、エフィルア様』

 お? おお。じょいぽんさんか。こないだのコボルトさんですね。


『今そちらに伺います』

 彼はこの間森で出合ったコボルトさん達のリーダーだ。

 あの時は地中に潜り帰って行ったが、このあたりに住んでいるのだろうか?


 俺はいったんギルマスとロアさんを降ろし、しばし休憩。彼らを待ってみることに。

 2人にも話をしておく。変わった知り合いが来るが驚かないようにと。

 それからすぐに、ボコボコと地面が盛り上がり、コボルトたちが姿を現した。


「お元気そうですね、じょいぽんさん」

「エフィルア様のおかげございます。その節は大変お世話になりました」


 礼儀正しいコボルトさん。

 俺なんぞにそんなかしこまった話し方をする必要など皆無なのだが、もっと気楽に話してくれとお願いしても、一向に変えてくれる様子はない。


「え、エフィルア殿、そちらは?」

 ギルマスが俺にそう尋ねる。が、なんとも答えようがない。

「コボルトさん達です」

 俺だって良く知らないのだから、ただそう答えるぐらいしか出来ない。


「我らはエフィルア様に助けられし者。ぜひ我らが村にお越しいただきたくお声を掛けさせて頂きました。是非歓迎の宴に」


 そんな話をするじょいぽんさんの前に、今度は、俺の頭の上にへばりついていた髑髏ドクロ模様のトカゲ君が歩み出る。そして、コボルトさんとトカゲ君で何事か語り合い始めた。


「ふむ、ふむふむ」 コク、コクコク

 彼らの間では会話が通じるらしい。

 そして良く分からないうちに話が付いたようで、


「エフィルア様、こちらの鉱石にマナを流し込んでいただいてもよろしいでしょうか?」


 畏まった態度で、俺に石を渡してくるじょいぽんさん。

 別によろしいので流し込む。

 終ると、それをトカゲ氏が食う。ボリボリと食う。

 石を食べるトカゲなんているのだなぁと思いながら眺めていると、トカゲ君が黒い光に包まれて、…… …… 包まれて、 人っぽくなった。少年である。


 体の一部には美しい鱗のようなものを残しているが、ほぼ人である。

 中性的な綺麗な顔、だが、雰囲気的には少年。

 半裸の上半身を見た限りでは、そんな感じである。下半身の一部はキラキラの鱗。

 宝石のような少年。


「うわぁ美味しぃ。エフィルア様のマナ鉱石美味しいぃ」


 はじけるような喜びの顔で石を貪り食う綺麗な少年。

 よく分からない光景が繰り広げられているが、まあ本人は喜んでいる様子ではあるので、良いのだろう。


「さぁ! それでは話も出来るようになりましたし、エフィルア様を冥界のありそうな方向にお連れしますね。きっと楽しいですよ」


 そして唐突に、冥界なる場所に行こうと誘ってくるトカゲ氏。さすがに意味が分からない俺。“ありそうな方向”という表現も胡散臭い。曖昧すぎではなかろうか。



「道中には、ぜひ我が街にもお寄りいただいて」

 じょいぽんさんとその仲間達は、モフモフな手で俺の背中をグイグイ押す。

 なんだろう、客引きっぽい。お金ならないのだが?

 こいつら、よってたかって俺をどうする気だろうか。なんだかんだで結局、喰われたりするんじゃあなかろうか。


「じゃあじゃあ、私も行きます! エフィルアさんについて行きます!」

 そしてなぜか、ロアさんは既に行く気になっている。コボルトの町、そして冥界なる場所へ。

 俺とて今は家に帰れないのだし、コボルトさん達が本当に歓迎してくれると言うなら、まさに渡りに舟……


「まあいいや、行ってみるか」

 どうせこのままこの辺りでウロウロしていても討伐対象にでも指定されるだけだろうし。


 沸き立つコボルトさん達。もうそれはワフワフと走り回る。元気だな。

「ああー、そうだ、その前にトカゲ君。誰なんだっけ? なんなんだっけ?」


「これはこれは申し遅れました。我が名は…… そうだ、我が名はまだないのです。エフィルア様、何かつけて下さい」


「ん? じゃあ…… トカマルで」

「おお、有難き幸せ。トカマルですねっ、我が名はトカマルっ! なんと勇ましい響きでしょう」


 え、ええぇ、聞かれたから何となく勢いで反射的に答えてしまった名前が、どうやら正式採用されてしまった。まあいいけどさ。


「わーいわーい、名前つけてもらった~」


 本人がやたらに喜びまわっているので、いまさら水を差すのも気が引けてしまうし。結局そのままトカゲ君の名前はトカマルとなった。トカマル君、か。


 性別は男で良かったのだろうか?

 今さらながら聞いてみる。

 

 性別は無いそうだ。

 トカゲではなく精霊らしい。

 種族は冥界ジュエルサラマンダー。ふむ。


 まあ、それでだ。

 とにかく話が立て込みすぎだと思う。わけが分からん。

 なのでじょいぽんさん達コボルトの一団には、一度自分たちの町に帰ってもらう事にした。あとでちゃんと行くから。

 

 彼らの街は“コボルトの坑道街”という名前らしいが、その場所への道を聞いておく。難儀な道らしいが、ひと段落したら伺ってみるという事で決着した。


 それから足が石化中のギルマス。まず彼女を町まで送り返すのが優先だ。

 ただしダンジョンの中を素直に歩いて戻るのは面倒になってきたので、今いるこの階層からは、縦に地盤を打ち抜いて地上まで出る事にした。


「それは良いなっ」

 ギルマスが今後再びタンジョン探索をする際にも、この階層まで降りる便利なショートカットになりそうだという事で、賛成してくれた。


 実際に打ち抜いてみると、魔神モードでパンチしたり爪で裂いたりして、簡単にえぐる事が出来た。

 もちろん真上に掘り続けるわけではなく、ロアさんが作成していた脳内マップを参考にして、効率よくフロア間の天井厚が薄いところや、削りやすい部分を狙って掘り進める。


 そして最後にロアさんについて。

 彼女のほうも、霧の攻撃を受けていた足が、ギルマスと同じように石化し始めている。一緒に町まで送り返すことに。


「うう、エフィルアさんっ! 絶対に明日まで待ってて下さいね。必ず戻ってきますから!」


 良く分からない気迫で、なんとしてもついてこようとするロアさん。分かりましたから、まずは治療して下さい。


 ボグオッァァァン  ダンジョンを縦に貫く破壊音が響く。

 今日最後の仕事となる、地下5階層から3階層までの貫通は一撃で貫けて楽だった。


 ちなみに、ここから先は冒険者やらギルド職員やらがうろついているようだが、

ロアさんの優秀な広域探知で、このあたりには人がいないことも確認済みである。


 3階層からならば、足が石化してるとはいえ2人でも安全に出られるだろう。

 という事で、俺はここでお別れすることにした。


「じゃあ2人とも、俺はこの先には行けないからあとは適当にお願いします。俺の事は行方不明とでもしておいてください」

 2人を抱えて上層へと飛び上がり、地面に降ろした。



「じゃあエフィルアさんっ、また明日ですね」

 ロアさんはやはり付いてくるようだ。 


「うーん。本気で一緒に行くのですか? まあ別に良いですけど、危ないかもですよ?」


「もちろん行きます。絶対いきますよ。それに、そうそう、私の最終秘奥義を見せる約束もまだ果たしてませんでしたよ。明日お見せしますから楽しみにしておいて下さい」


 なんだか楽しそうなロアさんである。

 最終秘奥義か。たしかにそんな話もしたね。

 霧の魔物を倒した後だったか。


 最終秘奥義というネーミングも冗談なんだか本気なんだかよく分からないけど、とりあえず明日まで待つ事にしようか。


「分かりましたロアさん。それでは楽しみに待ってます。でも来なかったら行っちゃいますからね?」

「ぜったい絶対に行くので大丈夫ですよ。正午までにはダンジョンに入ります。15階層までにいてくれたら見つけ出すので、好きに動いていて下さい」


 それから、ついにダウィシエさんまでも一緒に行きたいとか言い出したのだが、ギルマスがいきなり町からいなくなる事の影響をちゃんと考えて自重してくれたようだ。


「いいなぁ。お前達は。私も行きたい。あの町は何かと面倒なのだよ」

 それは確かにそうだろう。

 俺なら絶対に御免こうむりたい仕事だよ、あそこのギルマスなんて。

 面倒ないさかいばかりだ。

 野生の魔獣と殺し合いをしている方がまだシンプルで楽しいとすら思う。

 もっとも、実際に獣から噛みつかれ、身体を裂かれるとまた違う気分になるのだが。


「2人とも向こうで落ち着いたら連絡くらいよこせよ? そしたら私も行くからな」


 向こう・・・というのが冥界になるのか何処どこになるのか。まだ未定だが、可能ならば連絡はしようと思う。


 あんがいコボルトさん達の町で長らく厄介になるかもしれない。

 それならば割りと近所になりそうだ。


 遠くでブンブンブンッと手を振るロアさん。2人は町へ戻っていく。

 この場に残されたのは俺と…… 元トカゲで今は中性的な美少年のトカマル君。


 で? 君は結局なんなのだっけか?

 なんで俺に付いてきてるのか、冥界ってなんなのか、そんな事を聞いてみようかとも思ったのだが、いかんせん、今日はもう色々な事がありすぎた。

 ん~、よしっ。


「じゃあトカマル君、おやすみ。俺はもう寝るから。今日はとりあえず寝るから」

 こんな時は寝るに限る。

 人間には休憩ってやつが必要なのだ。

 ひと眠りすれば脳みその中も少しは整理されてるだろう。


 今夜は一晩ここで野宿になるので、ダウィシエさんが置いていってくれた野宿セットを広げる。それから食料に手を伸ばし、適当にかじりながら横になる。


 大きな瞳をパチクリさせてこちらを覗き込むトカマル君。

「エフィルア様、あっちのコバルト食べていいですか?」


 トカマル君は俺の貴重品袋を指差してそう言った。

 ああ、確か鉱物とマナが好きなんだったか?

 

 そのコバルトはじょいぽんさん達が森での礼としてくれた品だが、価値が良く分からない。安くはないだろうが。


 あれを食べるのか……

 もしかすると、コイツの食費って凄い事になるんじゃないだろうか? 

 そんな危惧がありながらも、結局は食べさせてみる事にする。

 

 華奢な身体で腹をさすっている姿をみていると、こいつも腹が減っているのだろうなぁと思ったのだ。

 ハラペコの苦しみは俺も良く知っている。出来る事ならば食べ盛りの少年には腹いっぱい食べさせてやりたい。


「よし、それは好きに食っていいぞ」

「おおお、ありがとうございますっ。おお、うわぁデッカイな~!」


 喜ぶトカマル君。コバルトには俺のマナも注いで欲しいとお願いしてくる。

 どれ、かしてみい。注いでやる。


 そういえばトカマル君。先程コボルトたちのくれた鉱石の欠片を食べた時は、小さなトカゲの姿から、今のような人型になったんだよな。

 また食べさせれば別な変身するのだろうか?


 マナをたっぷりと含ませたコバルトの塊を渡す。

 それに喰らいつく寸前のトカマル君に、そのあたりの事を聞いてみる。


「変身というか、十分な量を摂取すれば本来の姿に近づきます。かっこいいですよ。ボーンでドラゴンなナイトって感じなんです。もしくはですね、変身せずに、あまったエネルギーと鉱物を使って武具に作り変える事も出来ます。どうしますか?」


「ほほう」

 トカマル君はマナや鉱物を使って、武具制作なんて出来るらしい。

 


「それじゃあ余ったエネルギーは、変身に使ってもいいし、アイテムを作ってくれても、トカマル君の好きにしてくれて良いよ」


「おお、本当ですかエフィルア様。う~ん、どうしようかな」


 そして美味そうににモリモリ食うトカマル君。

 どうするかは後で考えて、まずは食う事にしたようだ。




「ぷっは~ うんまぁぁい。やっぱりエフィルア様の味は美味いな~」

「おーそうかい、そりゃあ良かったよ」


 なんとなく、トカマル君の様子を眺めてしまう。

 俺も適当に干し肉と固焼きパンをモシャつく。こっちは美味いものではないが、ギルマスが沢山置いていってくれたから食べ放題なのがありがたい。


 飯を食って上機嫌になったトカマル君。陽気に話し出す。あの町の人間がどうたらこうたらと。

 今にも踊りだしそうなほどにオーバーな身振り手振りで語りだした。

 まさか、よっぱらってるんじゃあるまいな?


 それにしても町の人間たち、ねえ……


 そして俺は1つ大切な用事を思い出して、寝転がっていた身体を起こす事にした。

 以前に神官長様から取り付けられた 追跡用の魔導タグ を破壊しとかねばならんのだ。


 これまでは体のどこに埋め込まれたのか、いくつ埋め込まれたのか、それすらも分からなかったのだが、今なら見つけられそうだからな…… 位置情報信号を発信している場所を探ってみる……


 背中に2箇所と、太もも、足の裏、肋骨の間、頭部、耳の裏…… 全部で7個あることが分かった。

 こうして場所さえ分かってしまえば、あとは物理的に抉り取ってしまってもよいのだけど。とりあえずはマナを強めに流し込んで破壊してみるか。まずは足の裏かな――


 ボッファッ 足の裏から聞こえる爆発音。タグが自爆した。

 この魔道具は取り外そうとすると起爆するようになっているとは聞いていたが、本当だった。

 流石にひどい、よくここまでやるな。


 幸いこの程度の威力なら、今の俺にダメージは無いから良いものの。それにしたって頭蓋骨にまで爆発物仕込むってやりすぎだろー。

 でもとにかくだ、これで安全性は確認できた。このまま全部やっちゃおうか。


 ボッボボッ バゥンッ 体中で小爆発が起こる。

 ちょっとびびった。耳の裏と頭蓋骨で響く爆発音には流石に驚く。

 びくぅっとしてしまったね。うん。


 一通りの処理をおえて、ふぅぅ っと俺は長く深く息を吐く。

 これで、お仕舞いか。


 こんな物にずいぶんと長い間、世話になったものだ。


 トカマル君が心配そうな顔で俺を見つめる。


「なんだ もう寝るぞ~」

 トカマル君の頭にポンと軽く手をやってから、俺は再び寝床に潜り込む。


「はいっ。おやすみなさいませ、エフィルア様」

「おやすみ、トカマル君」




本日も何話か投稿します。よろしくどうぞm(__)m

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