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第10話 もうちょい潜る。



 先行パーティーとしてダンジョンに潜って数時間。

 俺達は16階層に降りる手前まで到達し、お昼休憩を挟んだところだ。


 食料は全てギルマスの持ち込み。

 何か美味いものでも食えるかと思ったが、残念、携行保存食ばかりだった。


「2人とも安心しろ。2ヶ月は潜れるように物資を持ってきているからな。それまでには見通しもつくだろう。はっはっはっ」

 ダウィシエさんは、かったい干し肉をムシャムシャモリモリしながら語る。


「2ヶ月ですか。少し面倒くさいですね。ロアさんは大丈夫ですか?」

「大丈夫です。ただ、エフィルアさんと違って私はギルド職員ですからね。たいした報酬がもらえないのが辛いところです」



「いや、2人ともすまん、今のはギルマスジョークだ。そんなにあっさり受け入れないでくれ。今回はどんなに長くても2日程度では帰るからな」


 若い人に対するギルマスお決まりのジョークだったらしい。

 さすがに自分の運搬袋では2か月分も食料が入らないしと言って、少し残念そうな面持ちをしている。

 ごめんよギルマス。

 袋の中には彼女が手早く解体してくれた魔物の主要素材も入っているのだ。 

 食料は1週間分でも十分すごいよ。


 今、地上の事については、冒険者ギルドの副長サブマスターが取り仕切っているらしい。

 明日までには一度戻って報告会等をやるという事だ。



「2人とも余裕ありすぎではないか? 特にエフィルア殿はダンジョン探索は初めてなのだろう?」

「そうですね。でもまあ地上とそんなに変わりませんよ」 


 近場にダンジョンは無かったからな。

 確かに初めてだが、しかし苦痛というほどでもない。

 なにせ地上の生活も酷いから。


 家はボロ過ぎて半分外みたいなものだし、聖女達などがしょっちゅう襲撃してくるので安全でもない。

 ベッドや家財もがんばって整えたところで留守にしている間にボロボロにされがち。

 ようするに町にいたって酷い生活なので、ダンジョン生活にそこまで抵抗はないのだ。


「まっ、さすがにいくらウチのボロ屋でも瘴気は流れて来ませんけどね」

 俺は下層に目を向ける。

 先ほどロアさんが忠告してくれたとおり、この先は様子が少し違う。


「町の中にこんなものが吹きつけられてたまるものか」

 下層からはどうにも妙な風が吹き上がって来ている。

 アンデッドやら鬼やら悪魔やら、その手の輩が好きそうな風だ。

 もっとも、常日頃から墓場の隣で生活している俺からしてみれば、むしろ懐かしさすら感じてしまう程度のものでしかないが。



 その風にのって、昨日町に現れた不気味な模様の蝶が数匹舞い上がる。

 やはりこれもここから湧いて出てきたものだったようだ。


 きのうの町での調査の結果、あれ自体は特に害のあるものではないようだった。

 ただ、はねに描かれた模様の中の瞳が、ぎょろぎょろと何かを探すように動く様子が観察されたらしく、それは大層な評判になっていた。


 休憩も終えて、いよいよ急な石段を下って行く事に。

 途中からは断崖になっている部分も見られる。


 例のキラキラトカゲは相変わらず俺の肩の上。

 休憩中は手元に降りてきて遊んでいたり、時々大気中のモヤを吸い込んでいるような行動もとっていたが、すぐに肩の上に戻ってくる。

 戦闘中に首筋にじゃれるのはやめてほしい。くすぐったいのである。


 なぜついて来るのかわからないが、タフなヤツではある。


 そんなトカゲ君を頭に乗せながらトンットンットンッと下り降りる。

 10mほど降りたところで一度平らな場所に出るが、その先はさらなる断崖絶壁。

 まるで地獄の底にでも続いているかのようだ。


「ロアさん、この地形続きますか?」


 すぐ後ろからついてきていたロアさんに聞いてみる。

 この先、肉眼では良く見えないのだ。

 途中には天井が低く、狭くて見通せない部分もある。


 俺も探知スキルは使えるのだけど、捉えられるのはマナや魔素についてだけ。

 ロアさんの能力だと地形測定も出来るし、視覚聴覚情報まで感知可能というのだから驚かされる。

 

 こういったユニークスキルというのは、その人、またはその種族特有の器官を持っていないと習得出来なかったりする。

 たとえば羽を使うスキルは人間には使えないし、ドラゴンのブレスも彼ら特有の身体構造があってのものだ。


「調べてみますね」

 ロアさんは弓を引いて狙いを階下に向けると、1つ、2つ、3つとマナの矢を放った。

 参考までに“魔導視”で観察させてもらう。


 今回、ロアさんは弓と小剣を持ってきている。

 前衛に俺とギルマスがいるから自分は遠距離用に弓を持ってきたらしい。

 矢は使わない。マナを飛ばして使うタイプの弓だ。

 探知スキルとも相性が良いのだとか。


 ロアさんの放ったマナの光は遠くまでスウィと伸びって行ったかと思うと、徐々に蜘蛛の巣のように分岐しながら広がり始める。

 しかしそこから先は何かの陰になってしまったようで、俺はマナの軌跡を見失った。

 なるほど。おそらく探知スキルをより遠くに飛ばすための技なのだろう。

 ロアさんがこちらに向き直る。


「途中に踊り場を挟みながらですけど、100mほど続いているようです。魔物も多数待ち構えてますね」

「なるほど」

 魔物がいるのは俺にも分かった。空を飛ぶタイプの奴が溜まっているポイントがある。


「このパーティーメンバーなら問題ないとは思います」

「ならば、とっとと行くとしよう」


 脳筋ギルマスは、崖と石段が連続していくような地形を飛ぶように駆け下りる。

 適当についていく。


 魔物が見えてくる。

 それは瘴気の風に乗って舞い踊る姿。

 現れたのは半人の怪鳥。クチバシは無く、山姥ヤマンバのような顔を持っている。


「ハルピュイアか?!」

 先行するギルマスへと向かって、その中の1匹が牙を剥き、カギ爪を突き出す。


 ギルマスは全速で駆け下りていた勢いのまま、壁を蹴り、加速する。

「ダラァァァッ!」


 衝突するギルマスの大剣と、それを防ごうと羽に魔力を集中させて防御体勢に入るハルピュイア。

 ぶつかり合う2つのマナの火花が弾ける。


 ィギィイぇぇイぃイィィィィ

 絶壁の岩肌に響く甲高い鳴き声。

 羽は身体から別れ、山姥の額は半分に割られていた。


「ギルマス、本気っぽいですね」

 俺と並走するロアさんの冷静な分析。

 ダウィシエさんは見事に敵を切り捨てたあと、その敵の身体を蹴って飛び上がったが、それでもいくらか下のほうに降りて行ってしまった。


「大丈夫かな。ロアさんも無理はしないで下さい」

「勿論です。エフィルアさんにお任せします」

 そう言いながらも、ロアさんは弓を構える。

 

 さて、飛んでいる敵を追いかけて剣で倒すのは大変なので“魔弾”をベースに、覚えたての"鬼火”も試してみよう。

 剣を鞘に納め、ハルピュイアに手を向ける。

 ギルマスも本気でいってるみたいだし、俺もがんばろう。


 魔弾を放つ。

 C級魔法のLV8。強化された身体でのブン殴りよりは格段に威力が落ちるが。


 ボォン

 よし、頭部爆散。ヘッドショット一発で無事撃墜。コントロール良し、威力調整も分かってきた。

 では次。


 メラリ ボォゥゥ

 「ギイイイイイアァアアアア」

 鬼火はちょっとかわいそうな結果になった。

 赤黒い炎に全身を浸食されながら落ちていくハルピュイア。

 肉体と精神体に半分ずつのダメージなうえに、魔弾のような瞬間的な爆発力ではないので苦しみが長そうだ。


 申し訳ないので魔弾でとどめを刺す。

 結局鬼火はやめて魔弾で掃滅する事にした。


 どっ どっ どっ どっどどどど―― どんっ


 練習もかねて頭部を狙って撃ったが、百発百中とまではいかなかった。

 まだまだ経験が足りてない。精進しよう。 

 頭に、あるいは羽や身体に大穴を開けられ落ちていく鳥たち。


 ロアさんも魔弓で攻撃に参加し、ギルマスも下のほうで戦っていたようだ。

 それぞれ1~2匹は倒した様子。


 あとにはハルピュイアの纏っていた瘴気だけが空中に取り残され、風に乗って上方へと霧散した。


「エフィルアさん、ほとんど1人で倒してしまいましたね。お疲れ様でございます」

 ロアさんは俺に並んで崖を駆け下りながら、ぺこりと頭を下げる。

 トカゲ君もマネをして頭を下げる。


 こころなしかトカゲ君の俺を見る目がキラキラしているように見える。

 変な奴だ。


 ストンっ

 そんな良く分からないやり取りをしながら下までたどり着く。

 ギルマスとも無事合流。


「エフィルア殿。なんなんだあの力は」

「力いっぱいがんばったまでです」

「そうか、分かった」


 ギルマスは物分りが良かった。





  



※、鳥人間的なモンスター、ハルピュイア。一般的には“ハーピー”と表示されると思います。がしかし、なんかそれだとハッピーな感じしません? ハッピーハーピー。しませんか、そうですか。パリピな感じしません? しませんか、そうですか。



 


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