転校
転校初日の初お目見え。蒼司朗はぶすっとした顔で教卓の横に立っていた。
目の前には自分を好奇の目で見る、天神小学校五年三組の子供達。
あのあと、節介な幼馴染みは蒼司朗の戸籍の作成と小学校への転入手続きを手早く済ませた。
その結果。一週間後の今日、蒼司朗は此処にいた。
そんな蒼司朗の心境とは裏腹に、担任の教師の佐々木 恭子(三十二歳独身)ニコニコとした表情で黒板に蒼司朗の名前を書いていた。
「今日からこのクラスで一緒に勉強をする。綾織蒼司朗君です」
「え~、綾織蒼司朗です。よろしくおねがいします」
ふてぶてしい態度でそう告げる蒼司朗。教室に嫌な静寂が訪れる。
恭子は嫌な汗を掻きながらも、必死に空気を変えようと引きつった笑みで、手を大きく叩きながら、
「はい。綾織君は病気で長く学校に通えなかったらしいから。みんな仲良くしてあげて下さいね。さっ、綾織君。君の席は窓際の一番後ろの席よ」
(何で俺はこんな所に…)
席につくなり、昴は自問自答をして落ち込む。すると、隣に座るポニーテールの少女が話しかけてきた。
「私は瀬名瑞季。よろしくね。綾織君」
隣の席の瑞季に話しかけられて昴は、無愛想のまま、軽く会釈する。
「ども」
そう言って、すぐにそっぽを向く。
流石にそんな態度をされて、ムッとする瑞季。
「早速授業を始めます。綾織君、君の教科書が来るまでもう少しかかるので、それまで。それまで瀬名さんに見せてもらって下さい」
「はい」
返事をして蒼司朗を見る瑞季。しかし、蒼司朗はぼーっとして話を聞いていない。
瑞季は苛立ちに声を荒げる。、
「ちょっと、綾織君。先生の話聞いてるの?」
「ん?ああ、何の話だっけ」
瑞季は自分を落ち着けるようにため息を吐く。
「先生が、綾織君の教科書が来るまで、私の教科書を一緒に見るように言ったの」
「そうか。それじゃあよろしく頼む」
(うん。仲良くなれなさそう)
社交性には自信のあった瑞季だったが、心の中で匙を投げる事にした。