家族はいつも傘の下
『早速だが、父ちゃんは母ちゃんといちゃいちゃしたいから、太陽は目の届く範囲で千雨と遊んでてくれ』
『いきなり子供を邪魔者扱いする親父を持って、俺は悲しいよ』
『勘違いするな。 邪魔なのは太陽だけだ。 お前がいると暑苦しい』
『より悲しいわ!』
『話を進めるぞ。千雨をこの手で愛でてやりたいのは山々だが、雨女の千雨は晴れ男の太陽にしか任せられない。頼んだぞ!』
『そうよ太陽 あなたは千雨の太陽なんだから、千雨を笑顔にするのはあなたの役目よ』
『両親からのプレッシャーが重い!!!』
こうして僕と相子は子供たちを送り出し、パラソルの下で久々の夫婦水いらずだ。
最近は泣きじゃくる千雨に付きっきりで、夫婦水浸しだった。
『こうやってパラソルの下にいると昔を思い出すね』
『そうだな。 ちょっと違った気もするけど』
妻の相子とは小さい頃 よく相合傘をした仲だ。
相子『ねえねえ、日焼け止め塗ってくれる?』
僕『いきなり何を』
相子『妻の柔肌を守るのは夫の役目よ。 それとも、こんがり焼けた方があなた好み?』
僕『それはそれで魅力的だが、僕は相子の白い肌が好きだ。 仕方ない』
相子『ふふっ。 冗談です 実はもう塗ってきました』
僕『そ、そんなことだろうと思ったよ。』
彼女は昔からこうして僕を煽ってからかうのが好きらしい。
だが、今日はこれで終わりじゃなかった。
相子『でも実は、一箇所だけ塗り忘れた所があるんです』
そう言って彼女は左手で自分の唇を指差し、右手で僕の唇に日焼け止めを塗る。
相子『どういう意味かわかるよね?』
30分後
『そういや今日の天気予報どうだった?』
『今日の天気は曇りのちアメダスよー』
『お前のそのダジャレ久々に聞いたな。って、言ってる場合じゃねえ。』
子供達の方を見ると海水が目に入ったのか、千雨が泣いている。
太陽の晴れ男パワーを持ってしても、千雨が泣き出せばひとたまりもない。
今すぐパラソルを持って駆け寄り、相合傘をしなければ。
そうして降りしきる雨の中、僕はパラソルを持ち、相子は千雨を抱きかかえ、
太陽は変顔を千雨に向ける。
二人だけの小さな相合傘が、気づけば随分大きくなったもんだ。
そんなことを思いながら、家族総出で泣きじゃくる千雨をあやすのだった。
空白の30分に何があったかはご想像にお任せします