ブロンドチョコレートの羽衣
こちらは尊敬する茂部ヴォルフガング英雄様に捧げます。
平凡な男とパーフェクトレディが織りなす愛に溢れた日常です。
少し肌寒くて目を覚ます。真っ暗だった寝室が少し明るくなっていることで、もう夜が終わっていることに気づいた。
「今……何時だ……?」
スマホを開くと5:48と愛する人の顔の下に大きく示されていた。サイドテーブルと反対の方へ寝返りを打つと誰よりも綺麗な恋人がすよすよと眠っていた。
彼女の白く華奢な肩がシーツから晒される。スリップ一枚で眠る彼女を見れば、俺たちが夜何をしていたなんて一目で分かる。久しぶりに二人で夜を過ごして、彼女が俺にすり寄ってきて、本当に幸せだった。彼女と俺の住む世界が違い過ぎて別れを切り出したこともあったけど、こうして今も幸せが続いているのは彼女が俺なんかに縋りついてくれたからとも言える。
国内最大級の病院経営・医療事業を行う『眞城医科グループ』の令嬢、眞城桐華。俺の恋人だ。日本で最難関の医学部を首席で卒業して、現在は実家を離れて大学病院の形成外科で勤務している。さらに顔立ちもスタイルも抜群の彼女は高嶺の花といえる。望んだものを言えばなんでも手に入った彼女が手間と時間をかけてまで手にしたかったのが、8歳年上のしがない高校教諭というのが未だに信じられないが。
いつの間にか考え事をしていたようで、スマホの時計は6時を示していた。寝返りを打った桐華の髪がさらさらと流れる。甘やかで透き通るような黄金色の髪が、天女が纏うように美しく彼女の背中に敷かれている。俯せになった彼女は顔を俺の方に向けている。肌は陶磁器のように綺麗で、目鼻立ちも女優のように端正だ。深く眠る彼女は、髪を撫でても起きる気配がない。髪は艶があって滑らかに指が通る。そこで俺はあることを思いついた。桐華は普段から忙しくしてるから彼女の髪を堪能できるチャンスだと思った。
桐華の細い首と輝く羽衣のような髪の間に腕を通す。やっぱり長いせいか腕にかかった髪は少し重い。髪がかかったまま腕を桐華の背中に向けて滑らせると蕩けるような甘い色がするりと跳ねてまたシーツに落ちていった。
「綺麗だな……やっぱり」
もう少しだけ……と思って再び指を通すともそ、と髪の持ち主が動いた。
桐華がゆるゆると目を開ける。俺の頭の中ではああ失敗したな、とかあそこでやめときゃ良かった、とかどうでもいいことが回っている。
「どうしたの……? 倫太郎さん……」
水の膜が張った桐華の寝惚け目はコニャックのように甘い色をしていて、俺はまた彼女が愛おしくなった。
「目が覚めちゃってさ、それで桐ちゃんの髪が目に入ったから」
ちょっと遊んでた、と言うとフフッと桐華が静かに笑った。
時刻は6:26。桐華はずっと忙しくしていたから寝足りないかも知れない。もう少し寝かせてやろうか。
「まだ寝てれば? 昨日まで忙しかったんだから」
「うん……。でも倫太郎さんに料理教わるのに……」
「まだ早いよ。昼前でいいだろ?」
頭を撫でる俺の手を取って、桐華は俺の指で遊び始めた。ほら、そんなことするから俺は調子に乗っちゃうんだよ? 俺みたいな奴が、桐華を愛してもいいんだって。
「だって、今日を倫太郎さんと一緒に過ごしたくて全部仕事終わらせたんだよ?」
そんな風に男心をくすぐるんだから、彼女の完璧さを改めて知らされる。
「でも桐ちゃん、料理するには食材がないといけないから。いま冷蔵庫に何もないし、桐ちゃんが寝てる間に買い出し行っちゃダメかな?」
「ぅん……。わかった……。でもスーパー8時まで開かないからそれまでいて?」
「うん」
桐華はまた眠りについた。俺も桐華の隣に潜って、彼女の肩にシーツをかけた。家を出るにはまだ時間もある。それまでは彼女の望み通り一緒にいよう。俺は彼女の甘い羽衣に、キスを落とした。
ありがとうございます。
茂部ヴォルフガング英雄様、お気に召して頂けたら幸いです。