9「お母様おかんむりなのです」
婚約破棄、されちゃいましたー。
はい、そんなの言ってる場合じゃありません。ヤバいです。空気が重いです。またか……って空気が辛いです。あとマッシュポテト美味しいです。
9人目に、今日のうちに、ドラゴン殺した今日のうちに婚約破棄を言い渡されました。すんごくガクガク震えてました、顔が真っ青になってました。私は魔物か何かか、そう見られてるのか。
「……最短婚約破棄記録、更新おめでとう」
エクレールお姉さまが肩を震わせ、ついでに声も震わせながら言う。なーんもめでたくないんだけど、エクレールお姉さま。
あれですか、苛めですか。バルカ苛めですか。いぢめいくない。
「……だっ、大丈夫よバルカ。まっ、まだチャンスはあるわよ! 子爵くらいまで落ちるけど」
ネビリアお姉さま、落ちるって言ったよね? 今落ちるって言ったよね? いや、別にいいんだけど。決められた恋じゃなく、普通の恋が出来る(とはいっても貴族に限定されているだろうけれど)からいいんだけど。
ちなみにお母様は、もはや諦めたように黙々と飯を食べている。6人目まではなんか言ってきてたけど、もう7人目からは何も言ってこなくなった。ただ、瞳に光が……。
「……バルカ、ご苦労様だった」
「えっ、あっはい。頑張りました、お父様」
父から労いの言葉を頂く私。ただ、その目は全く笑ってない。そりゃそうよね、婚約おしゃかにしちゃったんだから。
今の私の服装? ジャージですがなにか? 一応、貴族やらが着る服って事になってるからね。
でもまあ、前世ではだらしない服装だった私のこの格好で、労いの言葉を貰うのって……うん、とてもシュールですだわね。
「とはいっても、私だけの力ではありませんわお父様。仲間達のお力添えがあってこそです」
「そのせいで婚約破棄されたんでしょう?」
エクレールお姉さま、貴女のような勘のいい女は嫌いだよ。
まあ、そうなんだけどさ! 私の仲間の含めての理由で断られたんだけどさ!
でもそんなに苛めなくてもいいじゃない! 泣くぞわたくし16で。びーびー泣くぞ、泣いたら鼓膜破れるぞ。真っ先に私のが。
「……もう、平民しかないんじゃないかな?」
くつくつと笑いながら、茶化すようにラストが言う。
この男肉便器め、他人事だと思い楽しみやがって……いや、私があんたの立場だったら同じような事してただろうけどさ。笑ってただろうけどさ!
まあそんなのはお母様が許す筈もなく、こめかみピクピクさせながら、苛立ち毛にその言葉を切り捨てる。
「馬鹿言わないでください。王族の血に庶民の汚い血が交じると……? それならまだ、ソーヴィニヨンの王子と結婚させた方がいいわ!」
ソーヴィニヨンはこの国、モンテクルズの敵国だ。
あ、でもお母様……。
「それ、6番目の婚約者ですわよお母様」
「あっはははは! 打つ手、打つ手無して……ヤバい、マジヤバい」
ネビリアお姉さまが申し訳なさそうに指摘し、エクレールお姉さまがゲラゲラ笑う。貴族は口許を隠して笑うのが礼儀とされているけれど、私とエクレールお姉さまは割りと無視している。
おかげでお母様が老けたらしいけど、まああたし関係ないだわよ。
……きっと、多分、恐らく。
「……この際は平民とも、考えねばならぬだろうな」
「なんてったって、修道院からも拒否されてるからねバルカは! あはっ、あははっ!」
「……エクレールお姉さま、流石の私も泣きますわよ?」
なーんで修道院からも拒否されたのかしら。いや、ネクロが立ち上げようとしている邪教崇拝なら何とか入れるだろうけど……。あれかな、淑女と見られてないのかな。ジョイク教潰したのがいけなかったのかな。あっ、それのせいだ確実にちくせう。
「……でもさー、庶民でも見つかるの? お姉さま、ぶっちゃけ人外染みて強いよ?
「まもはやこの国でバルカを恐れない奴はいないくらいだからねー、無理だわ。これもう積んでるわ」
あらら、積んでるのね。チェスや将棋で言うところのチェックメイトって奴ね。
私が強すぎるから畜生!
……ええい、もうやけ食いだやけ食い! どーせ贅肉も筋肉に変わるんだもん! フハハハハ食った分腹の出るエクレールお姉さまとは違うのだよ。筋肉に変わるんだよ。羨ましいか? でも筋肉も重いから体重に変わりはないんだよね。
私は鬱憤を晴らすように、でっかい肉にかぶりついた。