72「科学の進歩、発展に犠牲はつきものなのです」
「やはり、技術的には難しいかと思われます……」
「やっぱり100年の壁を越えるのは無理かー」
やあみんな久しぶり、バルカだよっ☆……うん、きっついなこのキャラ。
さて、今私がどこにいるのかというと、我が城の地下室である。よく分からん緑色の液体で満たされたよく分からんデカい試験管の中には、まるで胎児のようなドラゴンやエルフが眠っている。
というのもここ、モンテクルズ第1生物学研究所という、ちょっと――いやかなりヤバい場所なのだ。
「人造エルフの寿命はどうしても80年で止まってしまいます。これでは、バルカ様の活躍を後世に伝えるのは難しいかと……」
「うんそれはいいんだ、どうでもいいんだそれは」
むしろやめてくれ公開処刑は。
とまあ主任の話は置いといて……何故私が人造エルフの改良に総力を挙げているか。それについては簡単だ。ものすっごい簡単だ。
伝承によると、エルフの血液ってのは肉体の耐性を強化する作用を持っているらしい。
肉体だけで無く抗体もかなり強化されるらしい。しかもアナフィラキシーにならない。そして私の姉には、アルビノで身体の弱いネビリナお姉様がいる。
お姉様は、出産に耐えられる体じゃない。婚約者さんもそれを納得し、プラトニックな関係を続けているという。だがお姉様は、子供を欲しがっている。
そこで私は考えた。お姉様の身体が弱いなら強化しちゃえばいいじゃんと。
――と、いうのが一応のカバーストーリーとなっている。いや、一応本心でもあるんだよ? でもそれだけで研究を続けるほど、私はロマンチストではない。
最大の理由は、更なる軍力増強だ。
あん、なんだよ文句あるのかよ。
「上手く行かないかー。……あのドラゴンの細胞使ったら駄目かな」
「前にそれで失敗してえらいことになりましたよね、駄目ですよ」
「そうだっけ?」
私が退治したあのドラゴン、専門家の見立てではあと50年くらいはクローンを生成出来るくらいには細胞が生きているらしいのよね。
それのおかげでドラボーン部隊とか結成させられているんだけれど……で、なにが起きたっけ?
「……ひょっとして姫様、お忘れになったのですか? 凶暴化したエルフを退治したあれを」
「……あー」
あれね、私が14歳の時のあれね。あわやお母様にこの地下研究所がバレそうになったあの時ね。凶暴化したエルフを何匹も何匹も殺したわね……。
いや、自然のエルフはまだいるんだけれど、絶滅危惧種なのよ。トキみたいな感じよ。老いてさえなければ……。
「それに、純血のエルフでなければ効果は無いと思いますが……」
「あっ、やっぱりそう思う?」
そうだよねー。エルフの血液濃度がどれくらいかはまだ分かっていないけど、少なくとも今作れるレベルのエルフでは、そこまで目立った効果は期待出来ない。
精々、爪が伸びる速度がちょっと速くなる程度なのよね。しょぼすぎる! いや、自己治癒能力が高くなるに超したことは無いんだけれど、誤差の範囲なのよね……。
かといってエルフの血液100%で作ろうとしたら、どうしても失敗してしまう。エルフの血液サンプルが少なすぎるせいなんだけど。
「エルフの技術者から血液を頂くことは……」
「何度も交渉していますが、不可能なそうです。そもそもエルフの血液は外気に触れると人間のものと何ら変わらないものになってしまいますので」
「……そうだった」
採取方法がまだ確立されていないのよね……注射器を作ろうにも、まず私がどうやって作っているか分かんないし。あんな針に穴空けるとかマジ訳わかんない。技術者の頭おかしいわ。
「そういえばバルカ様、頼まれていた品ですが、試作になりますが完成いたしましたぞ」
そう言って主任が出したのは、巨大な水晶。淡い紫色に光っており、なんか禍々しさというか……私が持ったら確実に魔王扱いされそうな感じがしている。
「これは?」
「前にバルカ殿下がお話になられました、遠くの者と会話が出来る通新端末でごさいます」
見た感じ、普通の水晶と変わりないような……禍々しさ以外。
つか私は魔力も見えないタイプの人間だから、ちょっと着色されているってこと以外分かんないのよね。
「う、うん。一目見ただけで分かったわ。魔力の影響か水晶の色も変わっているし」
「それは元からです」
あ、そう。元からなの……。
気まずい沈黙をかき消すように、主任がこほんと咳払いをして説明を続ける。
「とは言いましても改善再現とは行きませんでしたが、十分実戦にて通用するものだと自負しております。姫様が今持っていらっしゃる物は受信機でございまして、この送信機から入った声がその水晶の中から聞こえてくるという訳です」
博士の手に持っているルビーのような物が発信器かしら。かなり大きいわね、赤子の頭くらいの大きさはあるんじゃ無いかしら。
確かに通信機の改善再現ではないが、それでも十分使える代物だな。
「なるほど。で、使い方は?」
「その……ここから発信された声が、そのまま聞こえてくるという感じですかね」 《その……ここから発信された声が、そのまま聞こえてくるという感じですかね》
1秒くらい遅れて、私の持っていた受信機から主任の声が聞こえてきた。
タイムラグは1秒か……十分使えるな、これ。便利だな、これ。戦時中に開発出来ていれば、侵略戦争もっと楽に出来ただろうなー……。
私が過去に戻ってやり直したいなーと思っていると、不意に主任から声を掛けられた。
「ところで、ご友人と一緒でなくてよろしいのですか?」
「ん? ああ構わんよ。というより、ここに寄っていると知られた方が面倒だからな。今日でないと来れなかったさ」
この部屋はお母様には内緒で作られている。というより、ここで研究している従業員以外はお父様しか存在を知らない。一応禁忌に触れるような内容のものばかりなので、バレたら色々と面倒なのよ。
そして、それは友人達にも当然対象な訳で。バレたら最悪、口封じに殺さなければならない。でもそんなことはしたくないから、4人が街で遊んでいるうちに立ち寄ったって訳。
「あの、でしたら適当な宿に泊まらせておいた方が良かったのでは……?」
「それだとジョイク教の魔の手に襲われる可能性があるから、うちで泊める」
あの4人はお城の、元老院が使っていた部屋に泊まって貰おうと思っている。元老院はその大部分を粛正しちゃったから、部屋が余りまくりで。
故に、止まらせるスペースに関しては何の問題も無い。
今頃はドラゴンステーキとか食べている頃だろう。流石にドラゴンの眼差しは高すぎるから無いだろうけど。
「ははあ、バルカ様はお優しいのか恐ろしいのか分かりませんな」
「なにそれ、褒めてるの?」




