7「イカれたメンバーを紹介するのです」
腰に三本の鞘、勿論剣は入っているわ。これらって歩くたびにぶつかって、塗装とか禿げたりするのよね……まあ、一般に流通してるのを、壊れたら随時買っているから問題ないんだけど。なんで毎回壊れるのかしらね?
あら、ネクロが出迎えてきてくれたわ。相変わらず子犬のように可愛いわね、血だらけだけど。
「……あれ、姫様その方は?」
「えっと、ちょっと色々あってね」
ネクロが私の隣に立っている男性、私の9番目の婚約者であるチャーチル……家名は何だったかしら。まあ、それが立っている。ちなみについさっきお父様に紹介された。
キザったらしい金髪の髪、サファイアのように青い瞳。街に出ればキャーキャー言われそうな容姿の爽やかイケメン。その服装も、まるでベル◯イユの薔薇にでも出てきそうな、肩にバスカーテンみたいなのがかかっている、真っ赤な紳士服。
腰にはレイピア一つと、全く戦う為の服装とは思えない。まっ、外見だけを気にするただのカカシですな。
さっき会ったばかりだから全く恋愛感情なんてないけど、政略結婚なんてそんなもんだし、そもそもこれが9番目だし……これ以上逃すのは非常に不味い。
「私の新たな婚約者よ」
「よろしく、ヴォルレット・フォン・チャーチルだ」
前髪をフサアッ、とやりながら挨拶するチャーチル。ネクロはそれに興味なさげに「ふーん」とだけ言い、彼女の後ろにいる2人は軽く目礼する。
右側に立っている、まるで一本の槍を具現化したような全身鎧を身に纏っているのは、オフェンシヴ。かなりデカい。背中には、彼(性別は不明)と同じ大きさの盾と、彼2人分の長さを誇る槍がある。
《ふむ……王女様、そのお方を連れるのは少しキツいのではないですか? 彼の武器では、あの鱗に刃が通りませぬ》
彼のくぐもった声の指摘は確かだけど、勝手についてきただけだから気にしないでいいのよ。それに、馬車内で待機させる予定だから。
そしてその彼の左側に立っているのは、白衣を着た、前も後ろも髪の長い女性。名前は不明、私は博士と呼んでおり、実際に何処かの博士らしい。
「……今日の獲物はフロストドラゴン。ヴォルレット様の服では、凍死してしまうでしょうね。ヒヒヒッ、ハハハハハ……凍死、人はどれくらいまで気温下げたら死ぬんでしょうね。ヒヒヒハハハハハ」
《殺すのは駄目だ》
「殺すワケじゃないですよぉ……ただ、死ぬまで観察するだけです。クヒッ、ヒヒヒ」
あら、チャーチルの顔がひきつってるわね。まあ、そりゃ彼女を見るのが初見だとそんな反応するわよね。
私も初見で悲鳴上げて、彼女に人体実験される夢を見たんだもの。そりゃそうなるわな。
「お、おおお王女様。かっ、かかかか彼女はだっ、大丈夫なのですか」
「大丈夫よ、直接命を奪う事はないわ。見捨てる事はよくあるけど」
実際、処置すれば命の助かるソロの冒険者を、どれだけの血を流せば死ぬか確かめる為に見捨てた事があったっけ。
性格ド屑だけど、回復魔法と化学力は凄まじいのよね。汽車とか鉄製の船とか、私の言ったものの殆どを実現させちゃってるんだもの。
有能な外道は野放しにした方が国の為になるのよね。発展に犠牲は付き物だし。
《……まずは服を何とかせねば、博士も》
「ああ、私は大丈夫ですよヒッヒヒヒヒ……防寒魔法会得してますんで」
《なら、彼にもかけてあげるといい》
「嫌ですよー……馬車で待たせておくんでしょ? それに、死んだら死んだでネクロちゃんが喜ぶじゃないですかぁ……クヒッ、ヒヒヒハハ」
「いやー、あれはいらないかな」
いらないって言われてますよチャーチルさん。
というか、相変わらず台詞がド畜生だね博士。まあいつもの事だけども。
というか、私の隣でガタガタ震えすぎよチャーチル。
……はあ、仕方ないか。
「博士、依頼をしたい」
「依頼、ですかー? いいですよー、姫様は羽振りがいいですから……ヒヒッ」
「内容はヴォルレット・フォン・チャーチルの護衛、報酬は120,00アレサ」
「……ヒヒヒッ、いいですよー。……でありましたら、チャーチルさん、こっち来てくださーい。エンチャント・メッゾホット。はい、これで大丈夫ですよー……フロストドラゴンの胃液を浴びたら、流石に凍死するでしょうけどね……ヒヒッ、ヒヒヒッ」
よし、これで準備出来た。
フロストドラゴン、久しぶりだなー倒すのは。