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61「厳重注意だけで済んで良かったのです」

 あれから警備隊、だったかしら。まあ警察みたいな組織がやってきて、命がけで2人の乱闘を止めた。思えばケツァルコルトニーは最初からそれが狙いだったような気もするし、ひょっとしたら違うかったかもしれない。

 だがどちらにせよ、ケツァルコルトニーはあの戦闘で勝った。私はそう断言出来る。

 ミハル教の教会の破壊、歴史的にも文化的にも価値のある聖書や生物の破壊。奇跡的に――いや本当なんでか分かんないけど奇跡的にけが人こそ出なかったが、どれもこれも重罪である。教会が教会だったら処刑されていてもおかしくはないくらいの。

 それでも勘当されたり捕まったりしないのはただ単に権力が凄いのか、彼女が本気で暴れたら誰も手が付けられないからかは分からないが、反省文を900枚提出で許されている。

 ちなみにこの世界では、40×40の原稿用紙が一般的だ。紙が貴重だった時代、少しでも紙を節約する為に作られた概念らしいが、それが今も尚残っているのだという。

 そして、夜更けになっても必死で書いているアリデレスの為に、私は目が覚める特性ドロドロコーヒーを差し入れに来たのだ。コールタールのように黒いコーヒー、その苦さは父上が「眠たいときに1滴飲めば目が覚める」と評価してくださった程。ちなみに、それが飲みたくないので父上は、仕事を片付ける速度が速くなった。


「全て燃やしてしまおうかしら……この街ごと」

「なに物騒なこと言ってんのよあんたは」


 必死に反省文を水増しに水増しをしすぎてもはや水だけになっているような反省文を無心で書いているアリデレスに、私は思わず突っ込みを入れた。

 差し入れにコーヒーを置くと、アリデレスは軽く感謝の言葉を返しコーヒーを飲む。と同時に吹き出してしまい、100枚くらいの反省文がお釈迦になった。


「ばっ、バルカ様……何故砂糖も入っておりませんの?」

「えっ、ブラックコーヒーって普通砂糖入ってないものじゃないの?」

「砂糖を入れずにコーヒーを飲む馬鹿はいませんわ」


 あー、コーヒーを砂糖も入れずに飲むのは日本人だけらしいわね。

 ……うん、ごめんなさい。


「……また書き直しですわ。昨日は居眠りした時にヨダレで台無しに、その前は正気を失ったワタクシが魔法で燃やして……もう嫌になってきますわ」

「あはは……ミルク持ってくるわね」

「いえ大丈夫ですの、おかげさまで目は覚めましたし」


 そう言うアリデレスの目には、感謝の気持ちはこれっぽっちもこもっていない。ただ恨みがましさだけだ。まあ反省文100枚が台無しになったんだから、それも当然と言えば当然ね……。


「モンテクルズではコーヒーになにも入れず飲むのが流行っておりますの?」

「いんや、私だけだよ。後は確か……罰ゲームとか?」

「……苦くありませんの?」

「苦い、けど目は覚めるでしょ?」

「そりゃ、そうですが……」


 どうも納得していない様子のアリデレス。

 まあ、言えるわけないわな。前世からの癖で飲んでいるだけなんて。それも最初は「ブラックコーヒー飲めるって大人じゃね?」とかいう恥ずかしい発想から飲んでいたなんてさ。


「そういえば、婚約の方はどうなったの?」


 私は話題転換する為なら、平気で禁忌にも踏み込む女なのよ。

 その質問に一瞬目を開き、信じられないこいつと言いたげな顔をしたアリデレス。だがそれでも、(一応)格上である私に尋ねられたら答えないわけにはいかないので、重い口を開く。


「破棄になりましたわ。まあ、あれだけのことをすれば当然のことですわね」

「……まあ、だろうね」


 ケツァルコルトニーの狙い。それは警備隊に捕らえてもらい、前科を付けるというものだった。曰く、ケツァルコルトニーは正当防衛ということで処罰されなかったらしい。

 そして事件は、どうもこの辺りに住んでいたというアリデレス家の方にも伝わったようで、結構なお叱りを受けたらしい。自業自得ではあるが、そもそもの原因が、婚約者がいるのに他の女に夢中になったケツァルコルトニーにあるような気がして、どうも攻めきれない。


「……思えば、ケツァルコルトニーはワタクシではなく、ワタクシの祖母に会いに来ていたような気がしますわ。ワタクシやワタクシのお母様より、お婆さまと仲良くしていたような気がしますわ……」

「それは……どうしようもないな」


 性癖というのは、生まれついてからある程度決まっている。生まれた世界の、家の環境がそれを形成していくのだ。

 思うに、ケツァルコルトニーの家には魅力的な老婆がいたのだろう。恋と愛を勘違いするような年頃に、老婆に愛を持ってしまったのだろう。

 要するにアリデレスは、運が悪かったのだ。そういう環境に生まれたケツァルコルトニーと、婚約者になってしまったことが。

 ……うん、待てよ?


「ワタクシはもう少し……せめて50枚くらい書いてから眠るつもりですので、バルカ様はお先にお休みにあってくださいませ」

「……うん、おやすみ」


 ……気のせいか、私の周りの人って大体婚約破棄になっているような。気のせいか。気のせい……よね?

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