60「乱闘ほど面白い見世物は無いと思うのです」
「どちらが勝つと思うね、神父さん」
「さあね、私としては被害が出てくれなければそれでいいさ」
「無理だね」
「……被害が少なければ良いさ」
「無理ですわね」
私は膝の上にアリーシュを乗せながら、神父とそんな無駄な話をする。
ケツァルコルトニーは戦闘スタイルを見るに恐らくだが雷系統の精霊と契約をしており、対しアリデレスは炎系統の精霊と契約している。
まず雷は威力が高い。木に堕ちれば裂けるわ燃えるわ倒すわの威力だ。しかも速度も速い。外れた稲光は時折、木製ベンチを破壊しまくっては神父が苦虫をかみつぶしたような顔をするを繰り返している。ご愁傷様。
対しアリデレスの場合はもっとヤバい。だって炎はつまり熱だもの。形無いもの。つまりは、近づくだけで燃えちゃうもの。渇いた木製ベンチが次々と燃えていく。煙スゲェ。
「ばっ、バルカ様これ大丈夫なんですか!?」
「アリアンローズがいなかったらかなりピンチだったろうねー」
こまめにアリアンローズが風の魔法で換気してくれているからなんとかなっているけれど、これもし彼女いなかったら一酸化炭素中毒で死んでたな。いやその場合は観戦せず逃げるけどね私は。
しっかし凄い動きするわね2人とも。まるで実写映画のアメコミみたいだわ。
「ああ……法王様のポケットマネーで設置していただいたステンドグラスが……数十万はくだらない聖書が……」
「ドンマイです、神父様!」
「やめてその魔道書はやめて!!」
魔道書……たまに街で見かける時は、ちょっとした辺境貴族の年収くらいの値段はしていたあれね。ああ見事に燃やされて……本当に可哀想になってくるわミハル教。
「あれらはあの2人に付けといて、弁償するのは天井だけ」
「そうだ……これは夢だ。起きればいつもの冴えない部屋で冷え切った妻が朝食を用意しているんだ……そして娘に悪態をつかれながら教会へ行って綺麗な教会で迷える子羊を導くんだ……」
「やばい神父壊れた」
その目は、ひどく虚ろだった。悲しいくらいに、悲壮感とかそういうのを飛び越えたくらいには虚ろだった。
引きつったような笑みも、虚空を見つめる眼も、全てが可哀想の一言で執着していた。まるで戦争孤児のような、目の前で親を殺された孤児のような。
して、その教会に勤めている老婆シスターは!?
「おばあさん危ないから身を乗り出すのやめて!?」
「ああっ、美しい……ケツァルコルトニー様……」
半世紀以上歳の離れた相手に恋をしていました。なんでや。
いや、思えばこういった教会に勤めている人って男性との接触が少ないんだったわね。それでプロポーズされて、しかも結構強いときたら王子様と勘違いするってのも頷ける……ものなのかしら?
まあ、女子校効果って感じかしらね。女子校だと冴えない男性教師もイケメンに見えるというあの現象よ。
「バルカ様、本当に止めなくて大丈夫ですの? もう損害賠償額が辺境伯も卒倒するくらいになっておりますが……」
「困るのは私達じゃないから問題なし」
「王族としてそれはどうなんですの……」
「1度痛い目を見なきゃ学ばないもんよ、子供ってのは」
私の言葉に、じとーっとした感じの目を向けてくるアリアンローズ。こいつ私が王族って知っているのに割と遠慮が無いわね。
その視線からは「そんな傷だらけの人が言っても説得力ありませんわ」と言いたげだ。
反省して戦い方変えたり修行したりしたのよ私は。
「痛い目を1番被ってるのはこの教会だと、私思うんですけど……」
「アリーシュはかしこいなー」
まあだからといって私はなにも手を打たないし、やる気も無い。だって面倒だし、あそこに巻き込まれたら更に傷が増えるのは確実。そんなの私ごめんだわ。
ただでさえ傷物の処女とかいう意味不明な称号を背負っているんだもの、更に火傷跡にリヒテンベルク図形を刻まれたら……婚約者が更に逃げていくでしょうね。
というかなんで王女である私がもめ事を解決せにゃあならんのよ。そりゃあ、確かに結果だけ見れば私がたきつけたような形になってしまったけどもさ。
「そういえばバルカ様、あの戦いどちらの方が有利なんですか?」
「ん。そうねー」
一見互角に見える戦闘だけれども、実力はケツァルコルトニーの方が少し上かしら。でも彼は護らなければならないものがいっぱいあるから、大きな攻撃には出られない。
対しアリデレスの方は、技術こそケツァルコルトニーに劣っているものの護るものが無いので全力で魔法を放てる。案外護るべきものがある人より、なにも無い人の方が強かったりするのだ。私の経験談だけどね。
「アリデレスね。実力自体はケツァルコルトニーの方が上だけれども」
「そうなんですか? あれっ、でもそれならケツァルコルトニー様が勝つんじゃ……」
「全力を出せるか出せないかで差が出るのよ」
アリーシュはほへーと、理解したのかしていないのか不安になる声で頷く。
ケツァルコルトニーの方が上と言っても僅差であるので、全力を出さなければ負けるのは明確だ。だが全力を出せば被害がどれだけ大きくなるか分かったものでは無い。故に、出せない。
いっそのこと防御に専念して相手のスタミナ切れを狙った方が良いんだけれども、男としてのプライドがそれを許さないのだろう。面倒な奴だ。
「まあ、勝利条件が違うからどちらが勝つかは断定出来ないけども」
「……それは、どういう意味ですの?」
アリアンローズがそう訪ねたと同時に、錆びた鐘の音が外から響いた。




