6「フラジルは有能なのです」
「おはようございます、バルカ王女」
「フラジル、おはよう」
朝っていうのは、いつも同じ景色だ。窓から覗く街並みはいつも同じように美しく、活気に溢れてる。
あの中に私よりブスな癖に彼氏持ちな奴がいるんだろうと思うと、何故かしらヤンナルネ。しかもブスのくせにイケメンと付き合ってると思ったら殺意が沸いてくるわね。あらやだ、私の心汚れてる。
王族に産まれて勝ち組ヤッターって喜んでたのに、彼氏出来ない時点で負け組じゃないの。ああ、人生って思うようにいかないのね。
……まあ、ジャージ着て寝てるんだから仕方ないか。エルフに作らせた高級品だけど、何故か貴族にも広まらなかったのよね。やっぱりダサいからかしら。
……楽なのにねぇ? やっぱ、ネグリジェとかの方がいいのかしら。
「今日のお召し物はいかがいたしましょう?」
「狩りに行くわ」
フラジルに着替えをさせながら、私は今後の予定を考える。
我が国から10キロ程の所に出現した魔物、フロストドラゴン。半径60メートルに冷気を撒き散らし植物を枯れさせ、そして近づけば近づく程気温が下がり、やがてなんやかんやで生物は凍死してしまう。
穏やかな性格なんだけど、一度拠点を決めたらそこから動かない頑固さがねー……。
「フロストドラゴンを討伐に行く」
「フロストドラゴンを……畏まりました」
私が討伐に行く際に好んで着るのは、レザーシリーズの鎧だ。レザー、要するに革製の鎧で、その強度はあまり高いとは言えない。
しかし鉄とは違いかなり軽く、しかも私が使うのはサラマンダーの革を鞣して作った特別製。サラマンダーの革は熱を保温しやすく、外に逃がしにくい。つまりはフロストドラゴンの討伐に最適な装備なのだ。
……まあ、そのせいで、城内やらではかなり暑く、汗ばんでしまうけれども。
でも、ここまでしなきゃ近づけもしないのよね。というか、斬りかかるとなればこれでもまだ足りないくらいなんだけど……流石にこれ以上となると私、脱水症状で倒れてしまうわ。
いざとなったら博士に保温魔法でもかけてもらいましょう。
「お帰りは何時になられますか?」
「3日後を予定しているわ。まっ、死んだら帰れないでしょうね」
「王女様が死ぬとなれば、この国も道連れになるでしょう」
「それは無いわよ」
フラジルの言葉に、私は思わず笑ってしまう。
確かに、私の実力は(ラスボス補正で)この国一番を自負しているけれども、私が死んだ程度で崩壊するような柔な国ではないわ。なんてったって、私が育てた国だもの。
まっ、今更フロストドラゴンで死ぬとは思えないけど。流石に5匹目だと……ねぇ?
「まっ、私が死ぬような事はないわ。まだ結婚していないんだもの」
「フフッ、そうですね。バルカ様は、大陸一の英雄ですから」
……まあ、その英雄として祭り上げられたせいで、婚約者が続々と破棄されているんですけどね。
あら、涙が出てきたわ。ええい、そんなに勇ましい女は嫌か。普段母親に頼ってばかりのくせに、勇ましい女は嫌かボンボン共!!
「グリフォン部隊に連絡、至急4羽用意させて」
「既に手配しております」
「……流石ね、フラジル」
しょっちゅう死ぬけど有能なのよね、この子。
護衛としては三流以下でも、秘書としてはクッソ有能。この子が男だったら、きっと婚約しようとしてたわね。
ああ、なんで女なのかしら。なんで女で執事なのかしら。
いや、中東では女しか執事になれなおらしいけど、こっちには普通にメイドいるし、そもそも私の友人の貴族の執事は普通に男だったし……。
あれかしら、男難の相でも出ているのかしら。おかげで餓えているのよ、乾いているのよ。男に。
「……いかがなさいましたか、バルカ様」
「……いえ、なんでもないわ」