58「世界ってのは思ったより馬鹿に出来ているのです」
ケツァルコルトニーに動きがあったのは、プチ冒険騒動の翌日だった。
その日私は、部屋でいつものようにアヘンを抱っこしながら(こうしないと暴れるのよ)寝ていると、突然ラストに起こされたのだった。
んであれやこれやとしているうちに私は、いつものメンバーを連れていつの間にかあの教会の、天井裏に潜んでいたのだった……。
どうしてこうなった。
「ちょっとアリデレスさん、こんなに穴空けて大丈夫なんですの?」
「大丈夫ですわ、そうそう落ちたりしませんことよ」
「鼠の対策は大丈夫なんだよね、お姉様……お姉様?」
「大丈夫ですラスト様! 鼠さんの嫌がる匂いの液体を、私達を囲むように巻きましたので寄ってきません!」
どうしてこうなった。
今日のミハル教の天井裏はいつも以上に人が集中しております。ワテクシ床が抜けないかどうか心配で心配でたまりませんわ。
ちなみにアリアンローズとアリーシュは朝食時に、ラストはここに来る道中に捕まったわ。エンカウント運無いわね私。
「でも、本当に今日告白しますの?」
「うん、今日は薔薇の花束を買っていたのを見たからね」
「なっ、ななななんですってー!?」
「シーッ! アリデレスさん気付かれちゃいます!」
アリーシュ、それ他の貴族にやっちゃ駄目だからね? 不敬罪で処刑されちゃうかもしれないからね?
まあでも気付かれる様子は無いんだけどね、鼠からの逃走からのジャッキーアクションを繰り広げたのに、ケツァルコルトニー気付いた様子無かったから。
……まあこの教会、外見からしてかなり大きいからね。正直無駄だろうと言いたくなるくらいには。
私がそんな事を思っていると、アリデレスが何かに気付いたようだ。
「……妙ですわね。昨日の聖歌隊と位置が変わっている筈ですのに、ケツァルコルトニーの視線が昨日と同じですわ」
「む……本当だ」
昨日の聖歌隊の奴等は全員真ん中に行っている。だというのにケツァルコルトニーの向けている顔は昨日と変わらない。
普通なら、多少は変わるはずだ。バレないように横目に見る場合なら分からないが、昨日あんなにがっつり見ていたのだからそれは無いと思う。
私とアリデレスが少し疑問に思っていると、聖歌は終わり、ケツァルコルトニーがついに動き出した。
「あっ、バルカ様動き出しましたよ!」
「ちょうど聖歌が終わったタイミングですわね……アリデレスさん、出るのはまだですわよ。現場を押さえませんと」
「分かっていますわ、そのくらい……そのくらい分かっていますわ!」
かつかつと真っ直ぐに、しかしどこか緊張した様子で、ピアノ側へと歩み寄るケツァルコルトニー。
教会もざわざわしているけれど、どうも若い娘達が『私なんじゃ無いか』と期待しているみたいね。アリアンローズに聞いてみたら、ミハル教って別に神に全てを捧げて奉仕する的なものではないらしいから、そういう反応も当然と言えば当然……なのかしら?
まあよくよく考えてみたら、信者絶やしたらいけないのに子作り禁止とかの方が意味分かんない訳だけど。
……まあ、私の世界の宗教はもう関係ないし、どうでも良いんだけどさ。昔は疑問だったわね。
「誰かな、誰かな」
「ラスト様、なんかもの凄く楽しそうですわね……」
「略奪愛って燃えるでしょ?」
「アリアンローズ様-、誰だと思いますー?」
「ピンク髪の娘ですわね、外れたら焼き鳥驕ってあげてもよろしくてよ」
外野がもうギャンブルしている人みたいになっている……こんな騒々しい隠密行動ってあるのかしら。いや無い。
まあ、私としては楽しければそれでいいんだけれども。
……アリデレスには悪いけど、実際これに付き合ってるの、半分面白がってだし。
だっ、だって仕方ないじゃ無い! 私だって恋に恋する乙女なの! こういうのに出歯亀したくなるの!
おっとそれよりもケツァルコルトニーね。どれどれ……
さて、ケツァルコルトニー。最前列の娘に告白か!? とちょっと期待していたものの、まずはスルー! まあだろうな、という気持ちが大きいわね。
ではでは2列目は……スルー!! この時点でアリアンローズ、奢り確定ッ!! まあ彼女貴族だから全然懐痛くない訳だけど。
ここでアリデレスが何かしたのか、突然私達の耳にも、下の音が聞こえるようになった。
アリデレスとしては、辛いだろう。好きな人が、自分じゃ無い女に告白するなんて。それでも一字一句聞き逃さず、現実を受け入れるために彼女は、あえてそうしたのだ。
私が後でめいっぱい慰めてやろうと固く決心すると同時、ケツァルコルトニーに動きがあった。
3列目、つまり最後尾も抜けたのだ!
「へっ」
私の口から変な声が出たのを、誰が咎められようか。事実、ミハル教の連中も困惑しているのが、声を通して伝わってくる。
そしてケツァルコルトニーはそのままピアノを弾いていた老シスターの前へ行くと、片膝を付き、薔薇の花束を差し出した。
「一目見たときから、俺はあんたに惚れていました! どうか付き合ってください!!」




