53「他人の修羅場ほど面白い見世物は無いのです」
私のジェネレーションギャップ事件と、ケツァルコルトニーまさかの真実事件から数日経った休みの日、私は今日も今日とてスラム街の近くの売店で食べ歩きをしていた。
ハンバーガー、この世界にもあるのね。うん、美味しい。歯茎から血が出るんじゃないかってくらいカリッカリのパンズと繊維を裂いて焼いた、ニンニクの効いた肉の絶妙なコンビネーション! こんなの、こんなの卑怯よ!!
ついでに付け合わせのフライドポテトも、バジルが効いていてグーよグー。多分この世界だとバジルって名前じゃないだろうけど、味とか香りとかどう考えてもバジルだから問題ないのだ。
「ん?」
私が食べ歩きしていると、ふといつぞやの教会の前で、つい先日知り合った人の姿を――というか、見事な金色ドリルな後ろ姿を見かけた。
ついでに床に散らばっている、若干焦げた感じの、見るからにチンピラといった風貌の男達……。
「ごきげんよう、アリデレスさん」
「ひゃいっ!? ばっ、ばっばっバルカ様!? ごっごきげんよう……なんでここに!?」
驚きすぎじゃないかしら、まるで猫みたいに髪の毛逆立てて……というかパチパチ火花散ってるのなんで?
まあ面白いから良いけど……。
慌てるアリデレスの様子をハンバーガー食べながら観察していると、次第に落ち着きを取り戻したのか、こほんと一つ咳払いしてから、私に尋ねてきた。
「コホン……えっと、バルカ様はどうして、その……このような危ない場所に居られますのですか?」
「ぶらり食べ歩き旅よ、一本どう?」
私がフライドポテトの入った紙袋を差し出すと、アリデレスは「いただきますわ」とお礼を言ってから取ろうとして、ふと自分の手が汚れているのに気付いたのか引っ込め、「少々お待ちくださいませ」と断りを取ってから、なにもない空間に話しかけ始めた。
……すげぇ、私から見ると危ない人だ。アヘンの対応で割と慣れた気になっていたけれど、むしろ普段がまともな分更に危ない人に見える。
普段優等生な人が犬を虐待していたら、不良がやっている虐待より酷いことをやっているように見えるのと同じ精神的作用だなこれ。
しばらくすると、アリデレスの横に、服やスカート、靴が汚れないように不自然に曲がった状態で、上から水が流れ始めた。アリデレスはそれで手を洗ってから、またもやなにもない空間に指示を出す。するとどこからともなく生暖かい風が吹き、アリデレスの手を渇かす。
十分乾ききったのを確認すると、アリデレスはようやく私の袋からポテトを一本摘まみ、ぱくりと食べた。
「精霊魔法ってのは、複数の属性を使えるものなのか?」
「ん~~~、美味しいですわ! へっ、ああはい。そういえばバルカ様はモンテクルズ大陸出身でしたわね……精霊魔法は精霊と契約して魔法を行使する、というのはご存じですわよね?」
私はその言葉に頷く。前にアリアンローズから説明を受けた記憶がある……正直、私の国では使い物にならないという印象しか残っていないけれどもね。
私がある程度の知識を持っていると理解したアリデレスは、一呼吸置いてから説明を続けた。
「精霊魔法というのは様々な属性に分かれておりますわ。かといって、自身が司る属性の魔法しか使えないという訳ではありませんの」
「そうなの?」
「ええ、大工職人だからといって料理が出来ないとは限らないですわよね。それと同じようなものですわ」
つまりは、火を司る精霊と契約したとしてもちょっとした水や風を出す事は可能って訳か……便利だな精霊魔法。
私んとこはそんなご家庭で使えるような魔法無いから羨ましいわ……兵士の半分にでも精霊と契約させれば、遠征の際の持ち水を減らせる――いや無くせるなんて。
「最も、本職の精霊には負けますけれども。こうして日常的に使う分には、何の問題もありませんわね」
「ふむ、為になった。ありがとう。ところでもう一つの質問なんだけれど……アリデレスさん、こんなところでなにをやっておられますの?」
こんなところ――というのは、スラム街の近くの露天路という場所に、という意味ではなく、何故ミハル教の教会の前に、という意味だ。
とはいっても、答えは分かりきっているんだけどもね。
「当然、ワタクシの婚約者を寝取った泥棒猫がどんなものか、見てやろうと思いまして」
「泥棒猫て」
シスターさん手ぇ出してないからね。あいつが勝手に惚れているだけだからね。だから泥棒猫とか言うのやめてあげなさい。
しかし、修羅場……面白くなってきたわね!
「私も一緒に、いいかしら」
「いえ、バルカ様のお手を煩わせる程のものでもありません。そもそもこれは、ワタクシ個人の問題でございます、バルカ様を巻き込むわけにはいきません」
「あら、それなら私だってこれの関係者よ? それに、婚約者を裏切るなんて、こんな面白――許せないことを見過ごすことなんて、私には出来ないわ」
「バルカ様、もしかして楽しんでおりません……?」
さーて、何の話かなー。




