40「やっちまったです」
やってしまったです……つい久しぶりに暴れられるからって、やり過ぎちゃったのです。
仕方ないのよ、モンテクルズ時代は週5で魔物狩りにくせ者退治にと明け暮れていたから、久しぶりで加減出来なくなるのも仕方ないのよ。
いやでもあれね、新人へのデモンストレーションっていうの? そういう感じの時に見せる程度のしか力出してないわよあたし。
それでまさか……ねぇ。
「まさか学校、辞めるとはねぇ。何が行けなかったのかしら」
「全部だよお姉様」
肉をかぶりつきながら思わず呟いた私の言葉に、ラストがツッコむ。全部って、いやそれ知っているから、現実逃避くらいさせてよラスト。
ただでさえあんたが女子寮にいて、しかもどういう訳か同級生から「お姉様」とか呼ばれているという事実から逃げたいんだから。この世界逃げたい現実多すぎよ畜生。
というかラスト、なんであんたネグリジェなのよ。私みたいにジャージ着なさいジャージ、楽なのに。
「というか、こんな時間に食べて……太るよ? しかもなんでボク起こしたのさ」
「いいじゃないの、たまにはお姉様の我が儘に付き合ってよ」
今の時刻は深夜1時、草木も眠る丑三つアワー。こんな時間に適当に、冷蔵庫から盗ってきた肉塊にかぶりつく。
やっぱ丸焼き美味いわ。普段の上品な味もいいけれど、この塩だけの味がね、こう……やっぱ高い肉は、こうね。
「ねえお姉様、ボクを起こした理由を教えてよ」
「愚痴を聞いて貰う為よ」
「……帰るね」
私がラストの言葉に頷くと同時帰ろうとしたけど、そうはさせるか!
「お姉様離して! 夜更かしは美容の大敵なの!」
「何が美容だ貴様! 男のくせに女々しい奴め、若いんだから大丈夫よ!!」
「大丈夫じゃ無いよ、ボクは死にそうなくらい眠いよ!!」
ええい、私の手を引きはがそうとするんじゃあないラストよ。なんだ貴様、昔は「お姉ちゃん大好き~」とか言ってくれたのに、なんだその余所余所しさは!? あたしの愚痴に付き合いなさいよ!
寝かせて寝させるかの攻防ののち、ラストは諦めたように力を弱める。すると当然私の力が勝って、力余ってラストを押し倒してしまった。
っと危ない。ラストの顔にぶつかりそうになった私は咄嗟に床に手を付く。ナイス私。
「おっ、お姉……さま……?」
「ラスト、大丈夫? ごめんね、私、ちょっと暴走してた――」
えっ、なんでラスト頬赤らめてるの? なんで目を閉じてるの? ってか今のこの状況……ひょっとして、かなりヤバい!?
……取りあえず、ラストの上からどかなきゃいけないわね。私が起き上がろうとすると同時、後ろでがしゃんと食器の落ちる音。
……私は真っ青な顔で、後ろをゆっくり振り返ると――――
「えっ、あっ……」
そこには、耳まで真っ赤にした女子生徒が。
「ちょっ、待って違うの。これは不慮の事故で――」
「お姉様、抱いて……」
「ややこしくするなラストォ!!」
「わっ、私! 気にしませんから、そういうの全然っ、全然気にしませんから~~!!」
そう叫ぶと、ぴゅーっと疾風のように食堂を後にしていった。
……ああ、これ、終わったわ。取りあえず私は、ラストの口に肉の脂身を突っ込んでおいた。