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3「姫様はドラゴンスレイヤーなのです」

 ゲーム世界の私、バルカ・ド・モンテクルズは民を苦しめていたから討伐された。であれば、民の為に生きれば討伐されないのでは? という天才的逆転の発想の下、色々と動いた。色々と鍛えた。まず狂った原因が、ゲームでの私が9歳の頃に突如城に強襲してきたドラゴンによって、お姉さま達が殺されたせいだった。それを食い止める為に私は鍛えに鍛えた。転生特典なのか、顔に傷こそ負ったものの見事ドラゴンの首を討ち取った。

 ……婚約というものを代償に。


「……死んでも私を苦しめるか、ドラゴン」


 城門に飾られたドラゴンの首を睨み付けながら、私は苦々しく吐き捨てる。

 今私は城下町にいる。活気があって凄く賑わっている。道行く民は跪くという事でもなく、私に気さくに声をかけてくる。

 フラジル? 死ぬのはいつもの事だからメイドに任せたわ。「またか……」って顔してたあの娘、最初来た時は顔を真っ青にさて狼狽えてたのに成長したなーとホロリとしたのは秘密の話。


「ガッハッハッ! 王女様、まーたフラれたんですかい?」

「ええそうよ悪い? ……はぁ、男に生まれたかったわ」

「まあそうしょげさんな、これでも食って元気出しな!」


 八百屋のアボさんが、私に林檎を渡してきた。

 姫様にその態度ってどうなのと思わなくもないが、まあいいやと林檎をかじる。うん、今年もすんごく甘いわね。


「どうしたの王女様ー? 元気ない?」

「大丈夫です、私は元気ですわよオホホのホ」


 アボさんの息子に目線を合わせて喋ってあげると、私の頭を撫でてきた。あらこの子、将来有望ね。

 それに、活発そうな褐色肌、あどけない、女の子の服を着せれば可愛くなりそう。舌足らずなのもポイント高いわね。

 しょっ、ショタコンではなくてよ!


「こうするとねー、元気出るんだよー?」

「……フフッ、ありがとう」


 しかしこの子、今から何処かに遊びに行くのかしら。ポケットから小銭の音が。


「それじゃ、ぼく、これからデートだから。王女様、バイバイ」

「えっ、あっ、はい。さようなら……」


 ブンブン手を振って、アボさんの息子は雑踏の中に消えていった。

 あら、あたくしあんな子供にも恋愛経験で負けてるのね。

 あらあらうふふ、涙が出ちゃう。女の子だもの。

 そういえば、3人目は私の日課の訓練で倒れて「お前と一緒に生活なんてしてられるか、俺は婚約を破棄する!!」との言葉と共に破棄され、彼は今、隣国の令嬢と楽しく過ごしていたわね。去年の残暑見舞いには仲睦まじい絵が付いたのを送ってきたっけ。ああ、取り残されるのねあてくしうふふ。

 ちにたい。ちんであわになりたい。


 ふらふらーと、幽鬼のようにふらふらーと雑踏(とはいっても、私の姿を見ればモーゼの如く道を開けるんだけども)を歩き、赤子の頭を撫でたり、赤子の顔に私と同じような傷を付けようとしていた夫人を止めたり、焼き鳥貰ったり、ケバブ貰ったり、バーガー貰ったりと、気がついたら私の手元は食べ物でいっぱいいっぱい。

 食いしん坊と認識されているのかしら、まあ間違いでは無いけれども。


「おーい、姫様ー!」


 取り敢えず、このくわえている焼き鳥をなんとかしなきゃ。流石に10本はキツい。落ちそう。

 というか、仮にも一国の姫に焼き鳥って。いや、よく食べに行って愚痴溢してるけどさ。でも焼き鳥って……ビール欲しいわ。キンッキンに冷えたビールは重労働の後だと犯罪的な美味さなのよね。クイッと行きたいわ。


「ひーめーさーまー!!」


 しかしどうしようかしら、水色のドレスが汚れちゃうわ。まあ見せる相手なんていないんだけど。うふふふ……おっと危ない、焼き鳥を落としては食いしん坊の名が廃るわね。


「……てりゃっ!」

「うっひゃうっ!?」


 突然私の背中に、つつーっと冷えた指が通った。鳥肌凄い。

 それで焼き鳥が落ちるけれども、それらが地面と接触する前に、私の背後から伸びた手が全てキャッチした。

 ……私のドレス、背中が大きく開いてるの。そこに冷たい手を差し込まれたら、そりゃびっくりするわよ。

 しかし……はぁ、一応一国の姫にこんな事をする奴は、こいつしかいない。本来であれば不敬として処刑されてもおかしくはないのだけれども、全く……。


「ネークーロー!!」

「あっははは、ごめんごめん! あまりにも隙だらけだったからさ!!」


 腰に手を当てケラケラ笑う、所々血の飛び散っている白い修道服を着た金髪の少女。顔にはソバカス、綺麗な茶色い瞳は人懐っこい猫のような少女、ネクロ。私のギルドメンバーで、一国程度なら一人で片付けられるような、強大な力を持った死霊術師だ。 ちなみにネクロフィリアである。


「まーたフラれたの? だから死体にしとけって言ったのにさ~。一緒に深淵覗こうよ?」

「覗きません」

「チェッ、釣れないねぇ」


 ブーブーと、まるで敬意なんてのを感じない立ち振舞い。基本この街の住民は、私の事をこういう風に扱う。とはいえ、決して嘲りや軽視しているという訳ではない。ネクロは焼き鳥を食べず落とさず持っていてくれるし、そもそも歩いているだけで食べ物くれるし。

 ここで天才的頭脳を持つ私は、ある心理にたどり着いた。辿り着いてしまった。

 この扱い、強いて例えるなら両〇勘吉みたいなやつだ、これ。

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